修行、邂逅、三度
郁斗がバラ撒いた札は、宙を漂いながら発火し、少女の下へ殺到する
一発は大したことのない威力だが、その数は20以上。それが一度に殺到すれば、少女だってただでは済まない
「符術なんて珍しい物使うネ!!」
少女も黙って見ている訳がなく、手を払うような動作で魔法陣を展開し炎を防ぎきる
余裕の所作で防いで見せた少女が次はこちらと魔法を発動しようとしたが
「ムッ?!」
少女は発動しようとした攻撃魔法をキャンセルし、防御用の障壁を一瞬で展開する
その瞬間、サッカーボール大の爆炎が弧を描くようにして、魔法障壁へと勢いよく衝突した
「ちっ、流石に経験豊富ってやつか」
舌打ちをした郁斗はその炎弾をサッカーボールのように足の裏で地面に固定していた
当然のように、手には次の攻撃のための札が握られている辺り、言葉ほど油断はしてい無いようだ
「キヒヒッ」
想像以上に手慣れている郁斗に、少女はやはり金切り声で笑うのだった
「だらっしゃあっ!!」
郁斗に少女を任せたと同時に、悠は先手必勝と言わんばかりに飛び出す。魔力で強化した脚力はただの踏み込みよりも数段上のスピードでその巨体の異形に接近し、その鼻っ柱を蹴り抜いた
生き物の大体は、鼻が弱点の一つだ。大体ここをぶん殴ると怯むなり逃げだすくらいには痛い。当然人間も鼻を殴られたら下手なところを殴られるより痛い
屍であろうその巨体の異形に痛覚があるかは分からないが、少なくとも顔面を蹴り飛ばされれば体勢は流石に崩れる
「おりゃぁ!!どりゃあっ!!」
そのまま、左、右と顔面にワン、ツーと拳を叩き込む。本来なら、このままラッシュと行きたいところだが、やはり屍に痛覚は無いらしい
巨躯に見合わぬスピードで腕が振り上げられたかと思いきや、そのまま振り下ろされる。振り下ろされた先にいた悠は既にバックステップで後退しているが、その爪はそのままアスファルトを大きく抉った
「うぐっ!?」
飛び散ったアスファルトが悠を襲い、思わず顔を覆うが、巨体の異形は構わずこちらに突進してくる
背後には郁斗、避ける訳には行かない
剣があればどうにでもなるが、今は武器の無い無手。どうすればいいのか、悠は必死になって思考を巡らせる
その中で、脳裏に浮かんだのは、以前出会った似たような境遇を持ちながら明るく快活に過ごしている一つ年上の先輩の姿だった
一度だけ見せてもらった、彼女が扱う武術。水の流れのように淀みなく、相手の動きをいなし、自分の攻撃へと転換していくその戦い方
「だりゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
気合い一発、ありったけの魔力を全身に巡らせて、そのイメージをなぞらえるように身体を動かす
突っ込んで来る巨体の顔面を、右腕で横っ面に一発。それにより、巨体の首筋が見え、悠は身体を反転させながら、その首を右肩に乗せて抱え掴む
そして、巨体が突っ込んで来る勢いを殺さぬまま、悠はその3mはあるかと言う。体重にすれば100kgは軽く超すだろうそれを、投げ飛ばした
「グォオンッ?!」
これには屍の身体と言えどたまらない一撃だったのだろう。雄叫びを上げながら地面に叩きつけられ、ひっくり返る
「なっ……?!」
「うおっ?!」
その光景には、後ろで魔法戦を繰り広げていた二人も驚き、思わずその手が止まる。特に少女の方は大きな体格差をひっくり返して、投げ飛ばすと言う衝撃的な光景を視界に収めていたため、その動揺は大きかったようだ
「くっ……」
とは言え悠もノーダーメージとは行かず、一瞬で捻りだせる魔力をありったけ使ったため、一時的な魔力切れでぐらりと視界が揺らぎ、片膝を付いてしまう




