修行、邂逅、三度
バッと二人は周囲を警戒するため、背中合わせになって辺りを見回す
「キヒッ、ガキの割には良い反応だヨ。あいつ等が目を掛ける理由がわかるネ」
声がするのは悠達の自宅の方角、その通路を塞ぐように、少女は現れた
「グルルルルッ……」
見たことも無い、巨躯の異形を連れて
「なっ……?!」
「……【香さん照さん、聞こえますか?とりあえず用件だけ。少女と、少女が連れた巨体の屍と接触しました。救援願います】」
絶句する悠と、冷静に通信機を用いて郁斗は香達に連絡をする。誰か一人は聞いてるはずだ、そう時間もかからずに救援自体は来るはずである
「出来れば先にあのサトリをヤッておきたかったんだけど、仕方ないね。君らをとっ捕まえるなリ、何なりすれバ、ちょっとはこっちも動きやすくなると思うシ」
問題は、その救援が来るまで、二人が持つかどうかであるが
「【霊衣換装】!!」
「【霊衣換装】っ!!」
こちらに何かするつもりなのが明白な発言が出た瞬間、二人は霊衣換装を発動し、それぞれ戦闘用の衣装へと変化する
ただし、郁斗はともかく悠は得物が無い。いつも通りとは行かないのは火を見るより明らかだった
あの熊のような巨体は軽く見積もって3mはある。魔法剣ならともかく、素手は無謀とも言える
「でもまぁ、呑気にシテくれてるおかげデ、こっちも気楽にやれそうダ。時間は掛けるものだネ」
闇に紛れて、少女の表情は見えないが、恐らくは変わらず笑っているのだろう
行きナ、という一言と共にその巨躯の異形が一気にその巨体をこちらに向けて駆け出した
「早いッ?!」
その巨体からは想像も出来ない、まるで軽自動車が急発進したかのようなスピードで襲い掛かって来たことに驚きながら、悠と郁斗は左右に分かれて回避する
ただの学生だった頃なら、特に郁斗は今の突進で大怪我をしていただろうが特訓の成果と言う物は間違いなく出ているのを実感しながらも、この巨体の脅威に冷や汗を垂らさざるを得なかった
「でりゃあっ!!」
通り過ぎざまに悠がその巨体に果敢にも蹴りを入れるが、分厚い毛に阻まれて全く効果がなさそうだ
だからと言って、体毛が薄いだろう腹部に潜り込むのはあまりにもリスキー
「悠、無茶するな!!とりあえず逃げるぞ!!」
「分かった!!時間稼ぎよろしく!!」
ならば、救援が来るまで逃げの一手が最善である。郁斗が術を展開するために札を構えると
「こっちを忘れちゃダメだヨ」
少女の方から声が聞こえ、魔法陣が展開されていることに気が付く
「ッ!!!【二重結界】!!」
咄嗟に目標を変え、少女の側に二枚重ねの結界を張る。それと同時にアスファルトを削る程の勢いで氷の弾丸が二人に向け放たれていた
「イイ反応だネ!!ホント!!だけどワタシの可愛いペットと挟み撃ち。さぁ、どうすル?」
少女の魔法を間一髪でしのいだものの、状況は最悪
住宅街のギリギリ車が二台通れる道幅の一本道、二人を挟む様に巨躯の屍と少女
対してこちらは肝心要の悠が武器の無い丸腰の状態。二度目の戦闘にして、ピンチを迎えていた
「……」
無言を貫く、郁斗は手持ちの方法でやれることを必死に頭の中で組み立てて行く
まだやれることは少ないが、時間稼ぎの方法くらいはある筈と冷静に頭を回転させていく
「ふぅー……」
悠も大きく息を吐きながら、普段はすることの少ない無手での構えで集中する
剣は使えなくても、魔力を身体に纏わせて強化くらいは出来る。仮にも高嶺流、総合格闘技で世界を取った父の豪のようにはいかないが、それでもあっさりやられるつもりなど、こちらも毛頭なかった
「デカブツは私が抑える。郁斗はあっちの魔法を抑えて」
「行けるのか?」
無謀とも思えるその行為に思わず郁斗が聞き返す。その問いに悠は普段は見せない獰猛な笑みで答えて見せ
「行けるかじゃなくて、やるのっ!!」
「……任せるぞっ!!」
郁斗も一気に札をバラ撒いて、その答えに応じて見せた




