修行、邂逅、三度
アイスを食べられ、適当に八つ当たりしてきた悠は、ぷんすか怒りながら部屋に戻り財布を掴むと、アイスを買いに外へ出る
時刻は21時前。夏とは言え、辺りは既に真っ暗で、等間隔にある街灯が薄く夜道を照らしていた
「お外行くのは良いけど、すぐ帰って来なさいね」
「はーい」
出て行く際に桜に注意されながら、玄関を出た悠は最寄りのコンビニに行くために家の敷地を出ると
「悠」
「ん?あぁ、郁斗、どうしたの?」
向かいの家のベランダから、郁斗が顔を出して悠を呼び止める。お互い、この時期は夜は窓は全開だ。どうやら悠が外に出たのが聞こえていたらしい
「どっか行くのか?」
「アイス買いに」
「ちょっと待ってろ、俺も行く」
特に何も言わないが、夜道を一人で歩かせるのは郁斗としては気が気でないのだろう
それに気付いた悠であるが、一人でも大丈夫なんだけどなとは思いつつもほんのり口元は嬉しそうに持ち上がっていた
「兄ちゃん、こんな時間にどこ行くの」
「コンビニ」
「夜遊び行くのは勝手だけど、補導されないようにね」
「精々30分だよ、掛かって」
なにやら郁斗が玄関先でごちゃごちゃ言ってるのを塀に寄りかかって聞きながら待っていると、悠と同じ様に寝間着姿の郁斗が財布片手に出て来る
育代と郁香は玄関が開いた時に悠が待ってるのが見えてにんまりと満足そうな顔だ
さぞやラブコメ脳がフル回転している事だろう
「ひゅーひゅー、夜道でデートですかー?」
「お熱いですねー」
「バカはほっといてさっさと行こう」
玄関口で騒ぐ二人を完全に無視して、二人は並んでコンビニへと向かう
じっとりムシムシとした空気が、昼間とは違う不快感を二人にもたらすが、昼間の炎天下よりはよっぽどマシだと言い聞かせて歩みを進める
「別に付いてこなくてよかったのに」
「普段なら一人で行かせてたかもだけど、今は連中のこともあるだろ。なるべく一人で歩き回るのは避けた方が良いと思ってさ。それに」
ちょんちょんと郁斗が自分の首を指さす。そこにあったのは香から支給されたチョーカー型のマイクだ
「外に出るなら着けとけよ。そんな丸腰で、何かあったら助けも呼べない」
「……ごめん」
迂闊だったな、反省する悠に郁斗は次から気を付けようぜ、と声をかけポンポンと頭を撫でる
何だか子ども扱いされてるようで少し面白くないが、悪い気分でもないのでされるがままにされてる内に、二人はコンビニへと辿り着いていた
「コンビニアイスも色々あるよな」
「安いのから高いのまでね。あ、このマンゴーのやつ美味しかったよ」
アイスが置かれているケースの前であーでもないこーでもないと喋りながら、二人はアイスを選ぶ
レジで作業している大学生くらいと思われる店員が、羨ましそうに二人を眺めているが、全く気にしていないのは何時ものことだ
「ありがとうございましたー」
アイスを買い、コンビニを後にした二人は呑気に買ったアイスを食べながら、帰路に着く
家に着いたらもう一つ買ったアイスを食べるため、ぬかりはない
「呑気なもんだなぁ。一応、世界の敵と俺ら戦ってるんだけどな」
「相手さんが積極的じゃないからね。仕方ないと思うよ」
一応、とんでもない敵と戦っている筈なのだが、今一つ進展がないためこうして呑気にしてられるのは、良いことなのか、悪いことなのか
何にせよ、戦いが始まれば呑気にしてる暇は無くなるだろう
今はこの状況を甘んじて受けながら、こちらも準備を進めるのが一番なのだ
「キヒッ、そうそう呑気にしてられる時は呑気にしてなヨ」
そうやって、買ったアイスを食べながらのんびりしていた二人にあの少女の声が届いたのだった




