修行、邂逅、三度
「キヒヒッ、思った以上に手強かったネ」
薄暗い、古い蛍光灯の明滅に照らされながら姿に見合わぬ声で笑うのは、夕方悠達を襲った少女だった
少女がいるのは古い建物だ。掘っ立て小屋などではなく、鉄筋コンクリート製の頑丈そうな作りだが、如何せん古いのかヒビや崩れているところが見受けられる
正直、蛍光灯が付くこと自体が不思議なくらいには朽ちかけている建物だった
「まぁ、あのくらいなら手持ちのストックでも間に合ウケど。後ろにあの二人がいる以上ハ、あまり消耗はしたくないなァ。やっぱ現地で素材を集めるのが無難だネ」
ただ、この世界のこの島国って、あんまり強い生き物いないんだよねェと愚痴る少女は、どうしたものかと首を捻る
魔法や超能力がある世界なら、前者なら魔物、後者なら超能力を持った生き物の死体があればそれだけで強力な兵が出来上がる。死霊術とはそういう魔法だ
如何に強力な個体の死体を手に入れるか、それが強さに直結するのだが、生憎ここは生き物一個体にはそれほど強力な力は無い。幻想種は消え去っており、地上を支配しているのは科学力を持った人間だ
如何に優秀な道具を持つか、現代のこの世界はそういう世界なのだ
「んー、どうにも一工夫が必要だよネ。ただの動物じゃああの剣士ちゃんになます斬りにされるだけだシ」
少女にとって、この世界であのレベルの剣士たる悠が敵に回ったのも誤算だった。近接戦に見た目通り長けない彼女は悠に近付かれた瞬間にぶった切られて終わりである
そして何より、頭が痛いのは
「と言うカ、護衛用に連れて来た剣士型のポンコツサイボーグは何処に行ったんだヨ。折角改造までしてもらっテ、連れて来た意味がないじゃないカ」
彼女がここに来る際にその近接戦闘をカバーするために連れて来ていた改造人間が忽然と姿を消していたことだった
お陰様でこちらの手札は半減し、慎重に行かざるを得なくなった
「生まれ故郷を壊されるのヲ、見せるのは面白そうと思ったんだけどナ」
言う事を聞くんじゃなかったのか無かったのかヨ、これだから科学は嫌いなんダとぐちぐちと延々文句をいう少女は駄々を捏ねるようにあちこちを蹴り飛ばす
古く、張りぼてのような壁は少女の力でもボコボコと穴が開いて行った
「しょうがない。邪道だけド、あれ使うカ。一応保険もかけてあるしネ」
またその姿に似合わない声で笑い、少女は準備を始める
魔法であれ、科学であれ、必要なのは入念な計画と準備だ。そうして、彼女は怪しげな器具をガチャガチャと鳴らしながら、思いつくままに手を動かして行くのだった
最初の接触から5日。もう数日でいよいよ夏休みが終わると言う頃になったが、あれ以来相手からの接触やアクション、情報も無く、悠達は今まで通り修練場にて各自修行を続けていた
多少変わったのは座学よりも、3人での実戦を想定したトレーニングに切り替わっていたことだった
「ふっ!!」
「はぁッ!!」
カァンッと振り抜いた木刀がぶつかり合う音が響く。香と悠の剣戟の応酬は、照との修業とはまた違い技術と技術のぶつかり合いが垣間見える
「くうっ?!」
膂力の差で無理矢理距離を取らされた悠を追撃するために、香が一歩踏み出すところで、何かに気付いたのかピクリと身体と止め、その場から飛び立つ
そのまま、振り向きざまに上空から迫っている炎を木刀で切り裂いた
「うっそぉっ?!」
「マジか……」
一撃くらいは入れられただろうと思っていた絵梨と郁斗からは驚愕の声が上がる
どうやら、地面には絵梨がコソコソと仕込んでいたトラップ型の妖術があり、そこで脚を止めさせ、郁斗の炎弾を落とすつもりだったらしいが、香はそれを難なく処理して見せたのだ
「【風牙】」
「!!二人とも結界張って!!」
悠の言葉も虚しく、香が放った特大の風の斬撃で三人はあえなく吹き飛ばされたのだった
突然なんですけど、今大体1500文字で1Pとしてるんですけど
読者の皆さん的にこれってどんな塩梅ですかね
昔は1000文字1Pにしてて、なろうにしてから、それだと短いな、って思って500文字増やしたんですけど
個人的には、空いた時間で更新分をパパッと読めるくらいの長さが、ネット小説の強みかな、と思っているんですが
長い、短い、ちょうどいい等を感想コメや、Twitterなどでいただけると幸いです
Twitterは @Sion_Izaki でどうぞ。更新通知等以外は滅多にツイートしませんがリプライを送ってくれれば、暇な時に反応します
ではでは、これからも何卒




