一か月の成果
昼食を摂り終わり、二人は弁当を片付けると今後の事について小声で話し出す
もし聞かれたら弁明も面倒になる、ごく自然な行動だった
「で、とりあえず半日終わったけどどうだ?上手く行けそうか?」
「まぁ、今のところは。意外と皆はなしかけて来ないもんなんだね。よく漫画とかだと転校生って囲まれてるけど」
「そりゃお前いきなり見ず知らずの人間に図々しく話しかける奴なんていねぇよ。あのクラス、どちらかと言うと大人しいクラスだし、休み時間は俺と話してたしな」
漫画や小説などでは転校初日はクラスメイトから質問責めに合う様子が良く描かれているが、悠の場合特にそんなものはなく、近くの席の人や、興味を持った人が何人か話しかけてきた位で大したことはなかった
郁斗の言う通り、休み時間中に二人で仲睦まじげに話していたのも理由の一つだろう
「とりあえず初日は特に問題はなさそうだな。このままボロ出すなよ?」
「分かってるよ。慣れて来た頃がヤバいって話だし、今の内は大丈夫だと思うよ」
このままいけば特にトラブルもなく、学校を過ごせるだろう
放課後はそそくさと帰ればいいだけだ、正直クラスメイトには印象が悪いだろうが下手なことをしてボロが出るより遥かにマシである
「んじゃ、教室戻るか」
「おっけー」
昼休みも30分は消化されている。二人がいる体育館は教室から少し離れているし、ギリギリに行くと次の授業の準備が間に合わないかもしれない
一応、転校初日という体裁もあるのでいきなり教師陣に目立つことはしたくないので悠はさっさと立ち上がり、二人で並んで教室に戻った
「おっ、郁斗。お前どこ行ってたんだよ、悠がいなくなったから偶には一緒に飯でもとか思ったら早速転校生とデートしやがって」
「ばーか、学校内で何がデートだよ。顔見知りだからな、サクッと飯食った後にちょっと案内してただけだよ」
「私から頼んだんだ。ありがとね、郁斗」
教室に戻ると入り口近くでたむろしていた男子グループに郁斗が茶々を入れられる
このくらいは二人も予想済みで仮にも男女二人で行動していくことが今後多くなって行くのだ
そういった冗談や噂は起こるんじゃないかと二人は事前に予想を立てて適当な言い訳を何点か考えてあった
適当に嘘とも本当ともとり難い無難な言葉を並べ、男子達をスルーしていく
後ろから「イケメンは良いよなー」「高嶺さんレベルたけぇよなぁ」「おっぱいデカい」などと言ったくだらない会話が聞こえてくるが無視を決め込んだ
男子と言うのは基本バカだ、言わせておくだけなら多少の不愉快を被る程度で済む
特にあのグループはそう言ったことを本人に直接言うわけではなく、単なる話題にするだけなのは二人とも知っている
事実上の無害なのだから放置で十分だ
「あ、えっと高嶺さん」
「ん?」
二人が席に座ったところで悠に声がかけられた
肩口で切りそろえられた栗毛色のショートカットが印象的な丸顔の女子生徒
彼女に悠は見覚えがあった
「悠、こいつは小高さん。そうだな、クラスのマスコットって言えばいいかな」
「や、止めてください間君。えっと、小高 桃と言います、初めまして高嶺さん」
「初めまして小高さん。さっきも言ったけど私は高嶺 悠、悠とは従兄妹で郁斗とも知り合いなんだ。これからよろしくね」
丁寧な自己紹介をした彼女にこちらも初対面に見えるので自己紹介を軽く済ませる
ぺこりと一礼した彼女はいつものようにちょっとおどおどとして見せた後、申し訳なさそうに口を開いて喋り出した
「えっと、その私、この間の事件に巻き込まれたみたいで、高嶺君に助けられたらしいんです。だから、そのお礼を言いたかったんですけど、酷い怪我で療養しなきゃいけないって聞いたからその……」
「あぁ、私つてに様子を聞きたいってこと?」
あまりコミュニケーションが得意じゃないのは一目でわかる
別に悠はそういう動作に不愉快さは感じないし、聞き取った言葉の端々から桃が何を聞きたいのかを察して答えてみると、桃は小さく頷いて見せた