修行、邂逅、三度
三人の攻撃を一斉に受け、20はいた屍の獣の殆どが吹き飛ぶ
以前にも戦った通り、この獣は弱いというより脆い。ただ一撃受けただけでべちゃべちゃと黒い液体に早変わりしていく様子はそれを如実に表していた
「やるねェ。正直舐めてたから、意外だヨ」
「余裕ぶってられるのは何時まででしょうね?」
あっという間に獣たちが蹂躙されたのを見て、少女はこちらへの認識を改めたらしい
所詮は戦いに不慣れな連中、という程度の認識だったのだろう
ましてやこちらのバックには香と照がいる。連絡は既に入れてある以上、今に飛んでやって来るだろう。この少女が彼女たちと真っ向にやり合って、まともに太刀打ちできるとは思えない
「うん、だから今日のところはとんずらするヨ。君達の戦力を測り違えた、こちらのミスだからネ」
「っ!!逃がすか!!」
「じゃあねェ」
ひらひらと手を振ると、少女の周囲に残っていた獣が鋭い閃光を放って四散する
思わず目を瞑った三人の視界が、元に戻った頃には少女は見事とんずらしていたのだった
「大丈夫か!!お主等!!」
先に三人の下に駆け付けたのは照だ。大声を上げて三人の元へ跳んで来ると、ペタペタと怪我が無いかを確認し、何事も無さそうなのを確認するとホッと息を吐く
「照さん、こっちは特には。すみません、逃げられました」
「何、初戦でよくやった方じゃ。済まぬな、奴らめ儂らに足止め用の人員を当てて来よってな、少々時間が掛かった」
「そっちもそうだったのね」
「うむ。雑兵であったが、時間稼ぎが目的の戦い方をして来よった」
シュタリと空から静かに降りて来た香も、照と同じ様に時間稼ぎを目的とした相手が送られていたらしい
真っ向から向かって来るなら切り伏せるなりやり様があるが、のらりくらりとやり過ごすようなやり方に時間をかけてしまったようだった
「とりあえず、場所を移しましょう。最初に来た林に戻って転移しないとね」
そうして、一同は逃した相手の情報について纏めることになった
林に戻り、行きと同じ様に直接香達の家の修練場へと転移した一同は転移陣から少し離れた位置に腰を下ろして一息ついていた
「さて、まずは無事初戦を怪我無く終えられたことを褒めてあげないとね」
「うむ、よくやった。相手の奇襲だったのだろう?初動に動じず、適切に対処出来た証拠じゃ、中々出来るものではない」
「ありがとうございます」
早速行われたのは、初陣だった三人が無事に無傷で今回の戦いを切り抜けたことだ
最初の戦いと言うのは何かと浮ついて上手く行かないことが多い。それを無事無傷で切り抜けたことは手放しで褒められることだった
「ただし、これをずっと出来なければ意味がありません。これからもそのつもりで修行には望んでください。それで、早速だけど絵梨ちゃん、相手の心は覗けた?」
ただし、それが継続できなければ意味が無いとしっかり釘も刺されたところで、香は真っ先に絵梨へと情報を得られたか聞く
しかし、絵梨の反応は横にかぶりを振るNOの反応だった
「靄が掛かったみたいに相手の心が読めませんでした。あの気持ち悪い獣にも試しにやったけど、やっぱり死体なんで読心は全然」
「読心が出来ると分かっておるんじゃ、対策は立てられて当然じゃろうなぁ」
こちら側に、読心が出来る絵梨がいると分かっている以上、その対策を立てていないはずがない
まさしくその通りで、絵梨の読心はまるで相手の心に靄が掛かったように見え、その中を覗き見ることは叶っていなかった




