修行、邂逅、三度
狙われたのは、その一瞬の気の緩みだった
「キヒッ」
咄嗟に反応したのはやはり悠だった。感覚にだけ任せて右後ろ上段目掛けて魔力を纏った裏拳をぶち込む
「ギャンッ?!」
聞こえて来たのは、獣の悲鳴。どちゃりと液体を多分に含んだ音を響かせて地面に落ちると、その場で黒い液体になって溶けて行く
「屍体……!!」
「間!!」
「【接触しました!!戦闘を開始します!!】」
何時だか見た死霊術師が操ると言う獣と同じ現象に、三人に一気に緊張が走る
獣が飛び掛かって来た方向に対して悠を前方にして三角形の陣を組む
前衛の悠に後衛に回る郁斗と絵梨を下げさせた基本の形を作ると同時に、一気に辺りに数十の屍の獣が土くれの中から現れる
「キヒヒッ、意外とやるなァ。一人は確実と思ったんだけどサ」
その後ろ、獣たちの中心に聞いていた通りの容貌。130㎝の痩せ型の体格にぼさぼさの黒髪、白い肌の、このクソ熱い中でモコモコとしたダッフルコートを着込んだ少女が、見た目にそぐわない笑みと金切り声で三人の前に現れた
「アンタ、審判の構成員?」
「だったらァ、どうする?」
「ここで、倒しとく」
「はッ、やって見なヨ。ガキども」
その言葉を皮切りに、一斉に屍の獣たちが襲い掛かって来る
その数、ざっと20。幾ら悠と言えども、撃ち漏らしが出てしまう数だが、悠は動じることなく、その場を動かない
「ちょっと悠!!勝手におっぱじめないで頂戴!!こっちには準備があるのよ!!」
「全く、肝を冷やしたぞ」
何故なら、三人を守る様に二重に、薄紫と紅色の結界が壁となって獣たちを抑えていた
「ごめんごめん。ただ、まぁこのくらい出来ないとこの先がキツイでしょ?」
「「だからって実戦でやるな」」
二人からもうバッシングを喰らいながら、アハハと悠は笑ってバットケースの木刀を取り出す
「んじゃ、行くよ!!二人ともッ!!」
「応ッ!!」
「気張って行くよッ!!」
「「「【【【霊衣換装】】】!!!」」」
三人揃って、香から教え込まれた魔法陣を起動し、辺りを魔力と妖力が発する光で薄く照らすと、先程までとはまるで装いを変えた三人が、結界の中に堂々と立っていた
「へェ、面白いことするネ。君ら」
その光景を見ていた少女も興味深そうにその光景を眺めていた
少なからず、魔法に関する知識には気を引かれるのは紛いなりにも魔法を扱うものの性なのかもしれない
「まずは目の前の雑魚を片付けるよ!!弾けろ!!【菫】!!」
まずは結界に木刀を突き立て、刀身に纏わせた魔力を四方八方に弾き飛ばした悠の格好だ
白のフリルのあしらわれた白い服をベースに茶色の袴、赤い着物を合わせ、腰化胸元にかけては防具を兼ねたコルセットと剣帯が付いている。両腕は籠手で覆われ、袖口こそ広がり、中からベースにしている白い服のフリルが伺えるが、全体的に細身で動きを阻害しない衣服だ。靴は編み上げのブーツ、髪は華のかんざしで右うなじの辺りで纏められている
「燃えろ!!【印符・炎】!!」
燃える札を投げつけ、獣を火だるまにしている郁斗は全体的に黒い。黒い袴に黒の首元の緩いシャツ。札を掴みやすいようにか両手には肘まで覆うグローブを付けており、中折れの帽子も黒。ブーツも黒と黒尽くめだ
「バチバチ焦げなさい!!【雷撃】!!」
妖術で雷撃を放って、郁斗とは違う方法で獣を黒焦げにしているのが絵梨だ。彼女は対照的に一番華やかな格好をしている
ベースは大正時代に女学生が着ていた、あの大正ロマンの代表する着物だ。藍色の袴に紅白の羽織り。首元から覗くフリルの付いた洋服が印象的で、革のベルトで袖をまくり、緩めに三つ編みにした二本のおさげで髪を纏めている
これが三人の【霊衣】。香がこそこそ作っていた悠達専用の戦闘衣装であった




