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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
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修行、邂逅、三度

新居に移り、香達の保護を受け、自身の力について向き合う修行を初めて既に数週間。今日の修行を終え、フィジカル面でのトレーニングも終えた絵梨は、一人汗を流して入浴していた


「ふあぁぁ、きもちいぃ~」


温めの湯に全身浸かり、緩み切った声を出して今日一日の疲れを吐き出す絵梨はそのままブクブクと湯船の中に頭まで沈んでいく

あまり褒められた行為ではないが、ここは個人の家の浴室。誰も咎める人もおらず、咎める必要もない


「香さんの筋トレがしんどすぎる……」


鬼のようなトレーニング量に愚痴も漏れるが、それが自分に必要なことなのは口を酸っぱくして言われている

生まれの境遇もあってか、半ば諦め癖がついていた絵梨の尻を二人掛かりで叩いて来るのだから、絵梨も必死になってトレーニングに励む


一度、逃げ出したが烈火の如く怒られた事に比べれば、キチンとやって褒め倒された方が気分も良い

今日も、無事トレーニングを完遂した時には、香に年甲斐もなく頭を撫でくり回されて褒め倒されたのは、嬉し恥ずかしで揺れ動きながらも、心地の良いものだった


それに、他の二人同様、絵梨にも確かに修行の成果が出ていた


「チチッ」


「来た来た」


コンコン、と浴室の窓を叩く音と、小鳥の囀る声が聞こえたと思うと、絵梨は浴室の窓を少しだけ開ける


「チチッ」


「ハイハイ、いらっしゃい。お湯はあっちだよ」


やって来たのは数匹の小鳥たちだ。それぞれ種類は違うが皆喜び勇んで、絵梨が指さした湯桶に飛び込むとビチャビチャと温めのお湯を浴び始めた


「ちょっとー、お風呂入るのも良いけど、何か無かったのか教えてよ」


そっちのけで気持ちよさそうにお湯を浴びる小鳥たちに、絵梨は抗議の声を上げながら、目を薄紫に輝かせ、サトリ妖怪の力を発動させた絵梨は、小鳥たちの心を読み取る

これが、今まで出来なかったことの一つ


今まで人間の心しか読めなかったが、更にその幅を拡張し、動物たちとの疑似的に会話ができるようになったのだ


絵梨はその力を用いて、特に人懐っこい個体に餌付けや野生では出来ない世話をすることで日常的に情報収集をしてもらっている

香からもトレーニングにもなって一石二鳥で大変よろしいとの事。ついでに香的に言うと、式神や使い魔ではない方法で情報を収集する手段は、とてつもなく有用なのだという


「うーん、今日も収穫無しかなー。ん?」


しかし、小鳥たちが集めて来るのは、やれあそこの森には餌が沢山あるだの、そろそろ彼ピッピを作らなきゃだのと、相当どうでもいい情報ばかりだ。君らの近況報告は聞いてないと頭を抱える絵梨だったが、そのうちの一匹が少し気になる情報を持って来ていた


「嫌な感じがする女の子、ね。野生の勘は侮れないって言うし、一応香さん達には報告しておこうかな。ねぇ、その子がどんな格好してたかわかる?」


「チチチチッ」


任せて!!と答えるように鳴く小鳥から、その少女について詳しく聞き、あとでその小鳥にだけ餌を多く上げることを伝えると、他の小鳥たちから猛抗議されるが、役立つ情報も持って来ずに、良い待遇だけ受けている小鳥たちは渋々とその広義の嘶きを収めるのだった







「んー、嫌な雰囲気の女の子、ね」


入浴を済ませ、部屋着を着て、髪も乾かした絵梨は夕飯を食べながら香に小鳥たちから得た情報を伝えていた


情報は些細なことでも、得た場合は上や周囲に伝えること。それが香に厳命された情報収集の基本だったので、今回のそれに関しても、絵梨はすぐに香達に話すと、二人は興味深そうにその話を聞いていた


「はい、んぐっ、小鳥たちが、もぐっ、言うには、ごくっ、とても嫌な、はぐっ、感じがしたと、うっま」


「その嫌な感じ、と言うのがどういうものなのかは気になるが……。絵梨、お主ちとはしたないぞ。もっと行儀よく食べんか、犬じゃあるまいし」


それはそうとして、食べながら話す絵梨に照が苦言を漏らす。今日のメニューは夏野菜のカレー、二日目である。大鍋で作ってあり、昼にも朝にも食べたが相当に美味く、お昼に一緒に食べた郁斗や悠も美味しいと絶賛していた


だからと言って行儀悪くかき込みながら食べて喋るのは、あまりにも行儀が悪いので、照はため息をつきながら文句を言ったのだ


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