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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
162/206

修行、邂逅、三度

三人の若者が、切磋琢磨していた同時刻


同じ笠山の街の一角、こちらも同じようにごく普通の一軒家、その一室


「――本当に、どうにか出来るんですよね?」


「えぇ、我々はその手の専門、ですから」


リビングと思われるその室内でテーブルを中心に向い合せて座る一組の夫婦と、幼い少女の姿があった


既に時刻は夕暮れ。当たりの家は部屋の明かりを点けている中、このリビングでは人目をはばかるかの様に電灯は点けられることは無く、双方の話し合いが進んでいた


否、話し合いと言うのは適切ではない。この話し合いは少女から持ち掛け、夫婦が了承し、注文、少女が正式に請け負うその最中。所謂商談の詰めの部分を行っているのだった


「そう、それなら良いさ。金さえ出せば、私達があの化け物に手を煩わせなくて済む。単純な話だ」


「そうね。そのためにそれなりの量の前金を払うのだし。……失敗しました、なんてないのでしょう?」


夫婦が暗く淀んだ眼と声で、少女を威圧する。少女に出した依頼とそのための前金とやらの支払いがかなりの額なのだろう。それだけの額の支払っただけの仕事はしろ、と暗に少女に示している訳だが、少女はその威圧を物ともせずに口を歪めて笑う


「えぇ、我々は化け物退治(・・・・・)の専門ですから。労力も半端ないので前金と達成報酬は法外ですが、あなた方に足が付かないことも保証しましょう。キヒヒッ」


ねちゃりと粘着質な笑みを浮かべ、不気味に笑う少女に、夫婦も少しばかりの畏怖を覚えるが、それを抑え込んでその感情にかぶりを振る


夫婦にとって、この少女の事などどうでもいい。少女に依頼した『化け物退治』が無事達成されれば何の問題も無い。それこそが、夫婦にとって大きな問題だったのだから


「では、遺体の処理や利用は我々が好きにしてもよろしいのですネ?」


「あぁ、構わない。あんな化け物、同じ墓にだって入れたくない」


「キヒヒッ、了解了解。あんたらの娘の眼は我々が有効に活用するヨ」


「……あれを娘呼ばわりしないで頂戴」


「おぉ、怖いねェ。ま、分かったヨ。何にしたって、アンタ達と顔を合わせるのは依頼達成した後だしネ」


殺気立つ夫婦をゲラゲラと笑いながら受け流した少女は、サラサラと依頼の内容を纏め、そのための書類を夫婦に掲示する

あとはこの書類にサインをすれば、少女が勝手に依頼を達成する


夫婦の悲願は達成されるのだ。彼らが化け物、と呼ぶ者をこの世から、自分達の手を汚さずに消し去れる

迷いなく、書類にサインと拇印をし、少女へと突き返す


「キヒヒッ、依頼は確かに受理したヨ。前金も確かに、対象の処理方法は問わず、処理後は我々が引き取る。それ以外の我々との接触は避ける。これで良いネ?」


「あぁ」


夫のの方が同意を示すと、妻の方も黙って頷く。少女は確かにそれを確かめると、書類を大事にバインダーに閉じ、そのバインダーもアタッシュケースへと閉じ込める


「じゃあ、近日中に依頼を執行するヨ。良い報告を待っててネ。……アァ、そうダ」


そう言って立ち去ろうとした少女だったが、何かを思い出したのかごそごそとポケットをまさぐるとポイっと何かを夫婦に投げ渡す


受け取った夫婦が手にしたのは、昔口にしたような駄菓子のガムに似た小さな箱と中身だった


「アンタ達が言う化け物の方も、別の化け物達と手を組んだみたいでネ。それ自体は特に問題ナイんだけど、勘づかれて依頼主が殺されたとかは本末転倒だからネ。護衛用のアイテムだヨ」


よく考えて使ってネ、と気楽に手をヒラヒラさせながら少女は退室し、やがて夫婦の家からも離れて行く


そうして、ようやく夫婦は強張らせていた緊張を解した


「同じ化け物め、忌々しい……」


「良いじゃない、同じ化け物同士潰し合うんだから。それに私としては一番身近な化け物が消えてくれた方が安心できるわ」


「それもそうか」


煙草に火を点け、憎たらし気に窓の外を睨む夫に、妻が窘める

夫婦の悲願が達成されれば、後はそれで良い。かなりの額の金を払うことになるが、身に降りかかる危険を事前に露払いすると思えば、安い


「役所の連中も、あれが死んだとなれば黙るだろう。化け物を庇うなんて、バカな連中だ」


「お役所仕事なんて所詮暇なのよ。言われたことをただやれば良いんですもの」


妻も紫煙を燻らせ、リビングに独特の匂いと煙が広がる。その内に渦巻くものは酷く粘着いた、黒くて汚いものだった


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