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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
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修行、邂逅、三度


「あーっ、つっかれたー」


香、照、絵梨が住む家から出て、帰宅する悠と郁斗は揃って伸びや身体を解しながら、今日の修行の疲れを漏らす


「の割には楽しそうだな」


「一人でやるより断然楽しいもん。実際、実力も伸び悩んでたしさ。前みたいに躓くとか、そういうのは無くなったけど、まだ体捌きとかは不満があるし、魔力に関してはまだまだ。でも、私はもっと強くなれるって分かったから、今はモチベーション爆上がりだよ」


「確かにな。俺も、この膝が治るかも知れないって分かったし、こんな漫画やアニメみたいな事に触れられるとは思っても無かったから、柄にもなくテンションは上がってる」


お互い、不明瞭だった行く先に光が指して来た。それに加えて、今まで無かったものが手に入ってるという事実は、若い二人のテンションを否応なく上げていた


「でも、郁斗は大丈夫?」


「何がだ?」


そんなテンションに沸く中、突然心配の声をかけられた郁斗は、その声に思わず首を傾げて悠の方に視線を向ける

その表情は、どことなく不安げで、儚げで、一瞬、郁斗はドキリと心臓を跳ねさせるが、すぐに何事も無かったかのように装う


「今はまだ修行、練習だけど、これから私達は戦うんだよ?私は、元から戦う術も持ってるし、心構えだって教え込まれてる。でも、郁斗と絵梨はさ、ケンカだって殆どしたことないでしょ?」


悠の心配は当然と言えば当然だ。現代っ子の郁斗と絵梨は、ケンカだって殆どしたことが無い。殴り合い、ましてや武器を突き付けた殺し合いともなれば、それはもうゲームや漫画の二次元の話だ


そんな一般人代表の郁斗達が、果たしてこれから首を突っ込んで行くことになるであろう、審判と呼ばれる連中との戦い、悠を女にした男との戦い、そして郁斗の呪いの件だって戦いになる可能性がある中で、まともに戦って行けるのか


恐怖や思考が停止して身体が動かなくなったとなれば、怪我で済めばいい方だと簡単に想像がつく


悠はただただ心配なのだ。郁斗達が、本当にこの領域に足を踏み込んでも大丈夫なのか

自分一人の方が良いのではないかと思ってしまう程度には


「分からん」


対する郁斗の回答は、実にシンプルに不明瞭だった


「わ、わからんって!!」


「だってどうやったら分かるんだ?お前が何年もかけて手に入れた感覚と覚悟だろ、それは」


「そ、そうだけど……」


あんまりな回答に声を荒げる悠に、郁斗は極めて冷静に返す

郁斗だってそんなことは分かっている。自分達が足を踏み込んでるのはヤクザの抗争よりも危ない物だろう


それでも、足を踏み入れると決めたのは


「だが、お前に出来るなら俺にだって出来る」


「……へ?」


昔から変わらない、幼馴染の意地と矜持。今までそうして進んで来たという、二人の中にあるプライド(誇り)だ


ただそれだけ。陳腐かもしれない、他人が聞いたら鼻で笑うかもしれない。それでも、郁斗には、そして悠にだって、それは間違えようのない理由になるのだ


二人は、そうやって技術を高め合って来たのだから


「……そっか、そうだよね」


「そうだろ?」


どちらかともなく、二人がクスリと笑う。今までがそうなのだ、だから今回だって大丈夫


絵梨は絵梨で心配だが、彼女は彼女で芯のある人間だ。何より、香達が四六四十指導に当たっているのだから、あっちだってきっと大丈夫


根拠のない自信だ。それなのに、何よりも自信が持てる不思議な感覚に身をゆだねながら、悠は目尻を下げてニコニコと笑い


「ま、同じところまで行くのは少し時間が掛かるだろうけど、絶対お前の隣に立つ、立ち続ける。だからちょっとばかり待っててくれよ」


夕日に照らされて、燃える様に目を煌めかせて言う郁斗の姿を見て、一気に顔に熱が集まった


「ッッッ?!?!しょ、しょうがないなぁ。遅いと、置いて行くからね!!」


自分の身体に何が起こったのかよく分からないまま、悠は歩みを速めて、ズカズカと郁斗の前へと進んでいく

先程の郁斗の横顔が脳裏に焼き付いて離れない。その光景が何回もリピートされる度に、顔の熱が全身に広がっていく


「っ~~~~~~!!!!」


どうしようもない妙なこそばゆい感情に心身を焦がしながら、ドンドンと足を速めてついにはダッシュし始める


「おいおい、走る事ないだろ?!」


「べーっ!!私の隣に立つならこれくらい追いついてみろー!!」


「このやろ!!」


きゃははと声を上げながら、二人の追いかけっこが始まり、全速力で路上を駆け抜ける


夏の夕暮れ、まだ平和な時間の、ちょっとした一時に得た感情に、一人は気付かないふりを、一人はそれが何なのか、まだ分かっていない


お互い、その感情に向き合うのはまだちょっと先の話


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