修行、邂逅、三度
香と照による直々の指南を、香達が住む家の演習場(仮)で始めたのが一週間とちょっと前。それからほぼ毎日、悠はこうして魔力切れになるまで照と実戦形式で戦い、魔力が一定まで回復するまでは郁斗達と休憩
休憩から復活すると、魔力操作の修行を初めて、時間になったら解散となっていた
「いいなー悠はすぐに実践でさー。私達はこの前初めてちょーっとだけ妖力の扱い方やっただけなのに」
「悠ちゃんの家の武術、高嶺流は気や魔力を使う武術の家系だからね。具体的な使い方を教えたら、扱えるようになるのはすぐなんだよ」
先に実技の授業を率先して始めた悠にぶーたれる絵梨だが、生憎悠と絵梨、郁斗では元からある土台が違い過ぎる。妖怪としての力が使えるだけで妖術を意識したことが全くない絵梨、そもそもに最近そういったことを初めて知った郁斗
意識的ではないにしろ、気や魔力と言ったモノを使う高嶺流を既に骨の髄まで叩き込んである悠
直ぐに扱えるようになるのはどちらかと言われれば明白だ
「全く、剣の才能に関しては凄まじいぞ。魔力を意識的に使い始めて一週間かそこらの動きではない。元から並は凌駕していたが、達人に既に片足を突っ込み始めておる」
「私も剣だけで悠ちゃんに勝てって言われたら、将来的には自信ないなぁ」
その悠は、照と香から剣の腕に関しては問答無用の大絶賛だ。まだまだ荒いが、元がただの人間としてはほぼ完成されたレベルの剣士であったため、意識をして魔力を操れるようになれば、一足飛びでその実力を跳ね上げるのは当然と言えば当然であった
それでも、香と照には届かないのだが
一体、彼女達はどれ程の実力を秘めているのだろうか、と郁斗は頭の片隅に浮かべるが、今はそんなことより自分の知識を深めて行くことである
「今後、実戦に出ることになった場合は、前衛を悠。後衛を俺と絵梨が務める、ってことで良いですよね?」
「概ねそうだね。前衛で悠ちゃんが暴れて、二人がそのサポートになると思う。当然、後で二人にも接近戦の指導はするからね」
術師にとって近接戦対策は早くからやった方が良いからね、と香は語る
術師向けと判断された郁斗と絵梨は、後衛で妖術を繰り、悠をサポートするのが今後何処かで必ず起きるであろう実戦での戦い方になる
とは言え、二人にも身を守る術は妖術以外にも身に着けてもらう、と言うのが香の修行方針だった
それもそうだ。後衛で呪文をブツブツ唱えて無防備な奴に攻撃を加えない奴は実際にはいないだろう
「とは言え、それはまだ先の話。まずは術を覚えてもらわないと話にならないからね」
「よろしくお願いします」
色々忙しい夏を彼女たちは過ごしているのだった
「ふぅ……」
約1時間。たっぷり寝た悠は起きて、水分を補給すると、座学組とはまた少し離れた場所で胡坐を組んで座り込んでいた
彼女の目の前には、ふわふわと浮かぶ薄緑の球体が二つ。それと並ぶように少々歪な形の薄緑いとの塊がフラフラと揺れるように浮かんでいた
これらは悠の魔力だ。魔力を球体に丸め、空中に浮かばせて並べる。これが悠に課せられた魔力のコントロールトレーニングだ
「……っ」
その野球ボール大の魔力の塊の三つ目を作ろうとしたところで、その三つめは形を成すことが出来ずに、虚空に掻き消えてしまった
現状、悠が維持できるのは二つまで。三つ目がまだ不安定な状態だった
簡単そうに見えるこのトレーニング、実は相当な集中力と、繊細な魔力コントロールを求められる非常に辛いトレーニングなのだ
普通の人は伸ばした両手の指先一本にボールを一つ二つと置いて、自由に動き回ることが出来るのかどうか
と言うのがこのトレーニングを伝えるのに適した表現だろう。それほどまでに、ただの魔力を球体にして複数個浮かべて行くというのは大変な作業なのだ




