バカ兄連れ戻し作戦
「……建前と本音、どっちが良い」
「本音に決まってるでしょ、バカ兄貴」
目に見えてイライラし始めた悠に、新一も流石に観念したのか、それでも食い下がろうとするが、逃がすつもりなど毛頭ない
「どうなっても知らんぞ」
「良いから言う」
くどい新一にもう一度一睨みすると、分かった分かったと手を上げて降参の意思を示す
ようやく話す気になったかと肩の荷を下ろしかけた悠の耳に
「ぶっちゃけるぞ、俺にはお前が滅茶苦茶に魅力的な女性に写ってしょうがない」
などと言う言葉がぶち込まれるまでは
「妹で致せる兄貴は、流石に不味いだろ」
とりあえず、3mくらいは悠は椅子ごと後ろに下がったのだった
「えっと、纏めて良い?」
「構わん」
絶対零度のその空気を真夏の中味わった悠は、目の前の兄、もとい変態の発言を纏めるべく、あえて自分の口から発することにする
……出来れば、やりたくないのが山々ではあるが
「まず、兄貴は私に異性としての魅力を感じたと」
「そうだ」
「一過性だと思ったけど、日に日に女子力が上がる私の姿にときめいたと」
「そうなる」
「私で、その、致してしまったと」
「流石に実際には無いが、なんだ、興奮しそうになる時はあった」
「……頭、大丈夫?」
「ダメかもしれん」
幾つかの問答をして、悠はガックリとその場でテーブルの端に頭を乗せて脱力する
要約すると、新一は悠と距離を置くために自宅に帰らなかったようだ。だからと言って、その内容があんまり過ぎるが
元男の妹に欲情未遂をした兄。字面にしただけでもヤバいが、その対象になっている悠はもっとキツい
「だったら何か言ってくれればいいのに……」
「言えると思うか?」
「……」
確かにこんな話、身内であればあるほど話せない。妹に欲情しかけた兄などどう足掻いても事案のそれである。もしもし、ポリスメン?
新一からすれば、間違いが万が一にでも起こらない様に早急に距離を取った、という事で、生憎その理由付けが上手く思いつかなかった、と言うのが今回のことの顛末だった
くだらなさ過ぎる
「せめて、シスコンで抑えてね。後、家には帰って来て。お父さんもお母さんも心配してる」
「……努力する。帰宅は明日にはする。説明は、なんだ、一人で考え事がしたかったとかそれっぽく言っておこう」
「そうだね。今の話聞いたらお母さん倒れるよ」
譲歩してシスコンまでだ。それまでならこの際許す、と言うかそれ以上はアウトである
「とりあえずさ、兄貴は早く彼女作れば良いと思う」
「そう、だな。あんまり合コンとかには興味が無かったけどこの機会にな。不謹慎な理由になるが、別の女性に気が向けば、解決するだろう」
新一も郁斗程ではないが十分にイケメンの部類だ。豪譲りの長身に桜譲りの細身は兄弟だった頃からの二人の共通点でもある
悠が童顔の可愛い系、郁斗が爽やかスポーツマン系だとすれば、新一は凛々しいインテリ系のイケメンになる
ちょっと努力すれば、彼女の一人くらいはすぐなのは簡単に想像できる
「迷惑をかけた」
「いや、ホントだよ。なんか一気に体力使った気がする」
「アイスでも食うか?」
「食べる」
しょうも無い家出だった、としか言えない内容に、両親にどう説明するべきか、今から頭を悩ませるのであった




