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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
156/206

バカ兄連れ戻し作戦

はああぁ、と誰かが大きなため息を吐く


24歳の男が理由も語らずに駄々を捏ねているので、ため息を吐きたくもなるだろう


「君が何に意固地になってるのかは分からないけどね。妹さんの連絡を無視するのだけは、絶対に君が悪いよ。その件に関しては妹さんとしっかり話すことだね」


「……」


「おい、高嶺」


「……分かったよ」


本当に渋々といった雰囲気を隠さず、佐伯教授と堀川院生に促された新一は、クルリとその場から回れ右をして研究室の出口に向かう


「おい、だから話を――」


「大丈夫ですよ、場所を変えるだけみたいですから」


突然その場から立ち去ろうとした新一を引き留めようとした堀川院生だったが、悠はその行動がついて来いという、無言の合図だという事を察して、同じようにその場を後にする


失礼しました、と礼儀正しく礼をしてから研究室を後にした二人を見て、堀川院生は心配そうに立ち尽くすしかなかった


「大丈夫ですかね、あの二人」


「人間関係だけは化学反応のように決まった反応を示すわけじゃないからね。あの兄妹がどうにかするしかないよ。ところで堀川君はどうしてここに?お盆期間中は殆どのところが閉まっちゃってるけど?」


「ただの忘れ物っす。まさか、こんなのの一端に関わるとは思わなかったっすけど」


「時の運、と言うやつだね。ついでだ、どうだい?私の奢りでご飯でも」


「マジっすか、いただきます」


言うべきことは言ったし、促すことは促した。後は本当にあの兄妹の間で解決すべきだろう

もし、それでも解決しない時はその時に何か対策を考えた方が良さそうだ、そう頭の片隅に思い浮かべながら、堀川院生は誘われるがままに佐伯教授の奢りで昼食を確保した


因みに、二人の昼食は近所のカレー屋だった








佐伯教授の研究室から出て、分子解析研究棟からも出た二人は、炎天下に晒されながら大学の敷地内を早足で歩いていた


「何処行くの」


「学食だよ。腹減ったろ」


「ん」


言葉短いやり取りをすると、また二人の間は静寂に包まれる。そこら中から聞こえて来るセミの声が耳に響くほどに


数分歩くと、二人は別の建物の中に入る。程なくして椅子とテーブルが雑多に広がる広い部屋に出た。ここが大学の学食なのだろう

時期が時期なので、学食のテーブルには片手で数えるくらいの人しかおらず、伽藍洞としていた


「何喰う?」


「うどん。冷たいの」


「相変わらずうどん好きだな」


メニューもろくに見ずに返って来た注文に薄く笑いながら、冷やしたぬきうどんの食券を二枚購入し、食堂のおばちゃんへと渡す

受け取ったおばちゃんが手際よく注文を確認すると、これまた手際よく調理が始まりすぐにうどんが乗ったお盆が二つ並んで出て来た


「いただきます」


「いただきます」


適当な席に向い合せで座り、いただきますの挨拶を済ませて揃ってうどんを一口啜る

しばらくはそうしてお互い無言でうどんを食べていたが


「で、なんで家に帰って来ないの?」


唐突に悠がストレートな疑問を新一にぶつける。桜も豪も理由の分からない家出状態に頭を悩ませていたのだ。勿論、悠にも理由が全く浮かばない


別に誰もケンカやトラブルを起こしていない。いたって普通に家族の生活を送っていた筈である

帰る、帰らないはこの際置いておいて、理由を聞かないと納得のしようもなかった


「……」


「喋ってくれないと分からないよ。私だけ電話もトークも無視するし。嫌いなら嫌いって言ってくれた方が良いんだけど」


「別にそうじゃねぇよ」


「じゃあ何?」


釈然としない兄の答えに、悠もイライラが募って来る。元から家族に黙って帰って来ない時点で鬱憤が溜まっていたのに、目の前でこれである


文句があるならハッキリしろ、言い分があるなら言え、ウジウジぐだぐだと目の前で実の兄がその体たらくだという事にも悠のイライラは加速度的に高まっていった


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