のろい
その後、無事に処置が終わり、サッカーをプレイすることが無ければ呪いが発動しないことを確認した一同は、解散の流れとなり、家主の香を残し、高嶺家、間家へとそれぞれ帰宅の途につく
と言っても、お隣さんなので向かう方向は全く一緒なのだから
「んじゃ、明日な」
「うん、明日」
「じゃねー」
お互いの家の前で郁斗は間家へ、悠と絵梨の二人は高嶺家へと別れ、無事何事も無く帰宅した
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「お帰りなさい。ふふっ、絵梨ちゃんそこはただいまで良いわよ。短い間だけどウチに住むんだから、遠慮しないで」
「えへへ、じゃあただいまです」
パタパタとスリッパを鳴らして桜が出迎え、2泊程する絵梨を笑顔に変える
彼女からすれば、ただいまと言って笑顔で出迎えられるのすら何時ぶりか。もしかしたら初体験かも知れない
気恥ずかしそうにはにかむ絵梨と一緒にスリッパを履いた二人は先に中へ戻った桜の後を追い、夕飯の手伝いを率先してやるのだった
「お風呂あがったよー」
「りょーかい。布団出しておいたから、時間になったら敷いてね」
「ありがとうございますっと」
風呂場から戻って来た絵梨は、ぼふんっと積まれた布団の上に腰を下ろし、そのままぐでっと寝転がる
恰好は上下薄手のジャージ。いつもの絵梨の寝間着だ
既に入浴を済ませた悠は一応、お客様がいるという事でいつものシャツ1枚ではなく、ワンピース風のゆったりとした寝間着を着用している
「悠の寝間着めっちゃ可愛いの、何か女子として負けた気分」
「えー、勝手に負けられてもなぁ」
「なにおー!!」
「きゃあっ!?ちょっと止めてよ絵梨―、あちょこらあははははあは!!」
キャッキャッとくすぐり合いが始まり、うら若き少女が手足を絡めてくんずほぐれつのあられもない姿を晒すが、ここは悠の自室、咎める者もいなければ、気にする必要もない
「もー、折角髪の毛綺麗にまとめたのにやり直しじゃん」
「私もだわ。ねぇ、悠が直してよ」
「じゃあ私のは絵梨ね」
「おっけー」
散々騒いだ後は、二人とも乱れた髪を綺麗にまとめ直す作業だ。悠は背中の中程、絵梨は肩にかかるくらいまで伸ばしているため、寝る前にしっかり梳いてまとめておかないと、起きた時にそれはそれは大変な事になっているのだ
絡んだ髪の毛を千切れない様に梳かすだけで何分かかるか分かったものではない
「悠ってさー、ぶっちゃけ間の事どう思ってるの?」
「どうって?」
「付き合ってみたいとかさー」
「えー、一応元同性だしなー。あんまり気にしてないけど、戻れなかったら郁斗で良いかなーってくらい?」
「うわー、悪女だわ。断られないの分かって言ってる悪女だよそれ」
「そう言う絵梨はどうなの?郁斗と何だかんだ仲いいじゃん」
「いやー、無いわー。無自覚に女引っ掛けるイケメンとか私無理」
「あー、無自覚に女の子引っ掛けるのは分かる。それでとばっちりくらった事あってさー」
「マジ?やっぱイケメンは死すべしだわ」
「どっちかと言うと顔より性格の方が問題でしょー」
「幼馴染に言われてんのウケる~」
あはははと笑い声を上げながら、交代で髪を整える。話題は華の女子高生らしく、恋バナなのだが、何故か途中から郁斗の罵倒大会になっている
哀れなやつである
「でもさ、今日のアイツはちょっとカッコいいかなって思った」
「でしょ?郁斗はサッカーの事になるとめっちゃカッコイイんだよ」
「くそー、どん底のクセに絶対に諦めないって目しやがってさー。こちとら夢の一つも無いってのに」
「私も道場を継ぐってだけだしなー。実際、サッカー選手になるって言う、夢らしい夢を追っかけてるの、郁斗だけなんだよね」
「間ってエースストライカーだったんでしょ?どんな感じだったの?」
「FWって言って、一番相手のゴールに近いところのポジションでね。味方から回って来たパスを相手のゴールにシュートするのが仕事なの」
「うわ、花形じゃん。あの顔でそれやったらモテるわなぁ」
「実際凄かったよ。他校の追っかけとかいてさー」
ペラペラと交わされる女子トークは二人だけでも姦しく続く。隣の家では話のタネにされている男が盛大にくしゃみをしているだろうが、そんなのは二人には関係のない話だ
「……すぴっ」
その様子は部屋の窓際に仮で置かれた水槽で変わらず呑気に漂っている、亀だけが聞いていた




