のろい
「それじゃあ、少しじっとしていてね」
香がそう言うと何もない空をトンっと叩く。すると、何も無い筈のその場所に光る円形の幾何学模様が浮かび上がる
「わぁっ?!」
「……魔法陣!!」
絵梨が歓喜の声を、悠が初めて見る魔法陣に驚きの声を上げると、香は更に魔法陣を中空へと展開していく
まるでパソコンやスマホのキーボードを叩くくらいの軽やかな動作で行われるそれらは3人にファンタジーを体験させるには非常に手軽な手段の一つでもあった
「ふふっ、そのうち3人にも、特に郁斗君や絵梨ちゃんにはこの魔法陣を実際に扱ってもらうつもりだから、しっかりとイメージだけでも見ておいてね」
特に郁斗や絵梨にはこれらの知識と経験をこれからの修練でつぎ込んでいくつもりの香は、二人に魔法陣を扱うイメージだけでもより明確に鮮明に覚えておくようにと伝える
今のところ読心能力しか異能の無い絵梨と、ただの男子高校生でしかない郁斗
二人は直接的な攻撃手段よりも、こういった後方支援を目的とした魔法の類を教えて行った方が得策だろう、という香の判断だ
勿論、性格や香達が見抜いた二人の才能を考慮してもある
「悠には教えないんですか?」
「悠ちゃんにはもう高嶺流があるからねぇ。魔法そのものを覚えてもらうよりは、もっと魔力を意識してもらって、高嶺流を本物に持って行ってもらう方が良いかな」
悠に関しては、元より高嶺流がある。現代に残る魔法剣と言える高嶺流を既に体得している以上、それを更に伸ばしていく方がより良い、ということだ
「さて、それじゃあ始めるよ。びっくりするかもしれないけど、魔法陣からははみ出ないようにね」
雑談も程々に、必要な魔法陣の展開も終わった香の一言で、郁斗の身体は幾つもの魔法陣に囲まれ、呪いの解析が始まった
淡く明滅したり、陣が回転したりしながら動く様は、CTスキャンにでも掛けられたかのような気分へとさせる
が、郁斗の周囲を取り巻くのはファンタジーの代名詞的な存在の魔法陣。何とも言えない不思議な感覚に郁斗も少し緊張しながら、解析が終わるのを待った
「成る程ねぇ……。まぁ、概ね予想通りってところかなぁ」
大体の結果が出たのか、魔法陣の中で香の前に広がっていたモノ、恐らくディスプレイの役割を果たしているのだろう魔法陣を見ながら、香はぼそりと言葉を漏らした
「OK、もう楽にしていいよ」
「はあぁっ……、何もされないって分かってても緊張しますね」
「あははは、初めてだもんね、仕方ないよ」
魔法陣から解放され、緊張から解放された郁斗は大きく息を吐き出しながら脱力する
何もされないと分かっていても、こう言うものは緊張するものだ。病院で医師の診察を受ける時に無意味にドキマギするのとそう変わらない感覚だろう
それににこやかに笑いながら労う香は、早速その解析結果を3人に伝えるべく、オホンとわざとらしく喉を鳴らして向き合う
「で、郁斗君の呪いに関する解析結果だけど、さっきも言った通り、概ね私の予想通りだったわ」
「予想通り、と言うのは」
「そうね、口だけで説明するのもなんだし、少し趣向を凝らして伝えるわ」
そう言ってパチンッと指を鳴らすと、先程まで香の目の前で瞬いていた魔法陣が動き出し、3人の前に大きく広がる
そのままでは幾何学模様のままで何が何だか分からないままだったが、香が更に指を鳴らすと、ディスプレイと言う表現そのままに空に浮くディスプレイモニターのように、図やグラフが表示された
「郁斗君に掛けられた呪いは、見立て通り命に直結するような危険な呪いでは無かったわ。呪いのランクを敢えてつけるなら最低ランクの1個上のDランクって言ったところね」
ディスプレイに大きく映し出された青文字のDの文字を追いながら、3人は香の説明に耳を傾ける
一体、どういう呪いが郁斗に掛けられていたのだろうか




