のろい
先程話した通り、呪いと言うのは
・実在するかける対象
・儀式に必要な様々な道具、場所、時間
・かける対象にまつわる触媒(体毛や体液)
の大体三つの項目を満たし、儀式を成功させることで呪いが発動する
「つまり、仮にこちらから一方的に解呪しても、術者には既に呪いを発動する条件は満たされているからすぐにかけ直されちゃうんだ。触媒や儀式に使った道具とかを奪取する必要がある以上、術者の捜索は呪いの解呪に不可欠。あとはあまりないけど、術者を説得して、呪いを術者側に解除してもらったりとかもあるね」
解呪の確実性、安全性を考慮すればするほど、術者を探すのが解呪の鉄則だと香は締めくくる
最も、彼女は術者を探す本当の一番の理由を悠達には話していないのだが
(流石に術者を殺すのが、解呪には最も手っ取り早いなんてのは、まだ教えられないわよね……)
時と場合によるが、体液レベルの触媒で発動させた呪いならかける側とかけられる側がどちらも存在していないと呪いが発動しないため、呪術士は殺すのが本来の鉄則だとは、まだ一般人の領域から抜け出していない悠達に伝えるには、あまりにも荷が重すぎる内容だった
香とて、今回の解呪に術者を殺して解決しようとは思っていない。出来るだけ訪れた世界の感性やルールに則り、余計なことで事を荒立てないのが、彼女が今まで数多の世界を渡り歩いて来たことで得た流儀の一つだった
「そういう事だから、悠ちゃん家に戻って着替えたら、一度私の家に案内するわ。今後の拠点になるだろうし、その紹介も兼ねてね」
「呪いの解析、っすか。まるで科学ですね」
「ふふ、魔法も科学も案外行きつく先は同じなのよ?アプローチが違うだけ。この世界にもこんな言葉があるそうじゃない。『優れた科学技術は、魔法と見分けがつかない』ってね」
今後の拠点にもなる香達の家への案内も交えて、呪いの解析をすることで何らかの手掛かりを掴もうという事になった一同は、香先導の下、変わらず高嶺家へと歩みを続けて行った
高嶺家に一旦戻り、浴衣から普段着に戻った一行は再び高嶺家から出て香たちが借りたと言う貸家へと足を運ぶ
余談だが、悠が捕まえた亀は既に桜に預けてあり、桜から余った刺身を与えられていた。グルメにならない事を祈るばかりである
「どんなお家を借りたんですか?」
「いやいや、大したのは借りてないよ。普通の一軒家、二階建てだけどね」
「私も見たけど、これと言って何があるって訳じゃなかったよ?中は香さんが弄り回してるからって、見せてもらえなかったけど」
「弄り回してるとは心外だなー」
そんな雑談をしながら辿り着いたのはこげ茶の外壁が多少目を引く、実にごく普通な庭付き駐車場有の一軒家だ
田舎に建っている住宅なら実に一般的な住宅になる
「見事なまでに普通の家ですね」
「なんか拍子抜け」
「でしょー」
「君らは私のことを何だと思ってるのかな?」
あまりにもあまりにも普通過ぎて、ちょっと期待していた悠と郁斗は肩透かしを食らった気分になり、絵梨はそれに笑いながら同調する
香だけが不満そうに目元を吊り上げるが、それまでだ
「じゃあ、中に入りましょうか。細かな調整はまだだけど、大雑把には終わってるから絵梨ちゃんも明日の夕方には戻って来て良いからね」
「そう言えば今日は悠の家に泊まるんだった」
「私も忘れてた」
急に祭りに連れ出されたのですっかり忘れていたが、今日は絵梨が悠の部屋にお泊りをすることが決まってる
言われるまで忘れていたのはどうかと思うが、振り回したのは香達なのでお相子という事になるのだろうか
Happy new year!!
新年、あけましておめでとうございます




