のろい
ぷすぷすと鼻を鳴らす子亀を手に、お喋りをする悠達は縁日コーナーを練り歩きながら、次の屋台に目星をつけて行く
「次は何食べよっか」
「食べる以外にもあるでしょうに」
何か食べる気満々の悠に呆れる絵梨だが、屋台の8割は食べ物系。あちこちから漂う美味しそうな匂いに、お腹が空くのも頷ける
「とりあえず先に綿あめ食い終わっとけ」
「はーい」
郁斗が手に持つ綿あめを差し出され、両手が塞がっている悠は受け取らずにそのまま郁斗が手に持つ綿あめをぱくつき始める
その様子はさながら餌付けをされている小動物のようで、なんとも可愛らしいが、高校生ほどの年齢で、しかも悠と郁斗を始めとして、6人の平均以上には顔の整った面々が歩いているのはとても目立つ
「二人っていつもあんな感じなの?」
「困ったことに、あんな感じです」
「目の保養にはなります」
周囲からの好奇の目にさらされている事など意にも止めずに二人の世界をナチュラルに作り出す
それを初めて間近で見た香は、絵梨や桃に聞いてみると二人とも呆れや諦めと言った感情を伴った返事が返って来た
「付き合ってるのかな?」
「恋仲と言うよりは、親しすぎて距離感がぶっ飛んでるんじゃろう。下手な親子よりも距離が近いと言うのも中々奇妙な話ではあるがな」
当たり前のように湧き出る疑問に、年の功からか何となくの推測をあっさりと出す照も既にあきれ顔だ
そんな周囲を置き去りにして何の気なしの行動を続ける悠と郁斗は豪胆なのか、ただの鈍感なのか
「美味しかったー」
「はいはい。とりあえずちょっと口の周り拭け」
手を使わずに食べたため、少し溶けた綿菓子が口元で溶けているのを見かねて、悠の手に持つ巾着から携帯用のウェットティッシュを取り出して、その口元を拭う
それを見てまた絵梨達がそれぞれ反応を示すが、やはり本人たちは全く以て気にしていない。と言うか、気付いていない
何をどうしたらそこまで視野が狭くなるのかと思いたくなるが、別に二人の物理的視野は勿論そこまで狭くないし、概念的に称される視野もそれなりにある
結局のところ、二人が周りの反応など意に介していないと言うだけの話で、二人の心臓には毛が生えていると言うだけの話なのだが
「いやー、旦那と二人きりなら良いけど、この往来でそこまでやる勇気はないかな~」
「えっ、香さん結婚してたんですか」
「こやつの旦那、典型的なイケメンじゃぞ」
「詳しくお願いします」
独自の世界を繰り広げる二人を構うだけ無駄と判断されたのか、新たな話題を得た絵梨達はそちらへと話を進めて行く
「コイツの名前とか、決めたの?」
「カメッ〇ス」
「なんかダメっぽさそうだから止めような」
こっちはやはり相変わらずなのは、もう語る必要もない
「ほいふぃい」
「何言ってるのか分からないよ、悠ちゃん」
フラフラと縁日コーナーを回り、何周かして各々食べたいもの、やりたいことをして行くと流石に縁日コーナーではやることが無くなって来る
今は桃が買ったジャンボフランクフルトのおすそ分けを悠が頬張っているところだ
「粉ものって家じゃあんまり食べないけど、たまに食べるなら美味しいのよね」
「そうなのか?ウチじゃ結構粉もの出るぞ。タコ焼き機あるしな」
「関西かよ」
それぞれ、手には屋台で買った食べ物やお土産物などがぶら下がっており、如何にも祭りを楽しんでいる一行だ
「ははははは、大量大量」
「うわー、照ってば大人げないよ」
特に大人組は射的や輪投げ、数字合わせなどで無類の強さを誇りその両手にはぬいぐるみなどが袋のこれでもかと詰め込まれている
娯楽系の屋台を営むところは、次はウチではないかと戦々恐々しているが、一応は客である一同を断ることも出来ないと言う、一分では地獄の様相とも化していた




