のろい
「毎度―、ちゃんと世話しなよー」
「ありがとうございます」
金魚すくいの屋台のおじさんからの声を背に受けながら、屋台を離れた二人は周囲の子供達から不思議そうな視線を一身に受けながら、通りを練り歩く
「……流石に目立つな」
「まぁ、しょうがないよ。周りにこんなの持ってる人いないし」
そういう悠の手には小さなプラケースが抱えられており、中にはついさっき屋台で手に入れたまだ7~8cmくらいの大きさの子亀がゆらゆらと歩くたびに揺れる水面に揺られていた
「もらったは良いけど、それどうすんだ?飼うのか?動物苦手だろ、お前」
「そりゃ犬猫みたいなめっちゃアグレッシブにじゃれて来るのは苦手だけど。こうものんびりしてるなら平気かなー」
「そんなもんなのか」
「そんなものなのだよ。とりあえず飼う方向でお母さんたちに相談してみるよ」
小型犬すらダメな悠が紛いなりにも動物である亀を飼えるのか、不安になった郁斗が聞いてみると、亀くらいなら平気らしい
ようは能動的かつアグレッシブルに、突撃や突進、群れでのじゃれつきが無い動物なら、悠としてはOKラインに乗るらしく、亀の様なのんびりとマイペースな生き物なら何とも無いようだ
「まぁ、亀は丈夫で長生きって聞くし、ペット初心者には良いかもな」
「へー、何年くらい生きるんだろ」
「そこまでは知らないけど、10年とかは普通に行くイメージあるな」
「確かに、亀は百年、鶴は万年って言うし」
「鯉はマジで100年生きた個体がいるらしいぞ」
「すご」
なんとも取り留めのない雑談を交わしながら、二人は分かれている他の四人の姿を探しながら脚を進める
そこまで広くはない縁日コーナーなので数分も歩けば目的の後姿を確認し、声をかけると四人揃って綿あめを頬張っているところであった
「あ、金魚すくい終わった?」
「綿あめおいしーよ。お姉さんが奢ってあげよう」
「良い大人が500円ばかりを奢ってものぉ……」
独特なふわふわとした白いわたがしを手にニコニコと笑う一同に、二人もそれじゃあと綿菓子を買いに屋台へ向かう
奢ると言い出した香も当然伴って行き、屋台で綿あめを一つ受け取る
「あれ、一つだけでいいの?」
「私は手が塞がってるので」
「俺は甘いだけってのは少し苦手なんで」
受け取った綿あめが一つだったので、もう一つはいらないのかと言うと、それぞれ理由をつけてもう一本は断る
悠の持つ亀の入ったプラケースは取っ手の無いものなので両手で持たざるを得ないし、郁斗に関しては甘いだけのお菓子は少々苦手、という事らしい
「じゃあ主に食べるのは悠ちゃんだよね。その亀ちゃん持っててあげようか?」
「てか、何で亀?金魚すくいに行ってたんでしょ?」
「いや、なんか悠が捕まえたとしか」
会話が進むと両手が塞がっている悠の方へと話の照準が移っていく。勿論、話題はその手に抱えられている子亀のことだ
金魚すくいに行ったのに、なぜか手に持っているのは亀である。文字に直してみてもこれだけではとんと意味不明であるが、実際そうなのだから説明のしようがない
「小っちゃくて可愛いね」
プラケースを覗き込む桃に興味があるのか、子亀はにゅっと首を伸ばして桃を見る
どうやら好奇心が旺盛な性格らしい
「子亀の割にはビビらずにこちらを見ているのは中々に肝が据わった性格をしておるのぉ。亀は大概臆病なんじゃが」
「へぇ、そういうモノなんですか?」
「普通はの」
隠れずに桃や照を見つめる子亀は、なんだなんだと伸ばした首をさらに伸ばすが、途中で飽きたのかまたぷかぷかと水面に揺られだす
亀らしいマイペースな性分はそのままらしい
『……すぴ』
また鼻を鳴らしてプカプカと浮かぶ子亀は照の言う通り、中々に根性がありそうだった




