のろい
「ねぇ、ホントに大丈夫?」
七夕祭りの会場の中でも、比較的小規模で開かれている縁日コーナーに当初の予定通りやって来た一行は固まったりバラけたりを繰り返しながら、そこそこ楽しんでいた
そんな緩い雰囲気の中で、悠は都度三回目の郁斗への同じ質問を投げかける
「大丈夫だって、そんなに無理してるように見えるのか?」
「そうじゃないけど……」
困ったように隣にいる悠を見下ろす郁斗は、どうにも先程から心ここにあらずな親友が逆に心配になって来ていた
おどおどとする様は普段見ないものだし、何かあったのかと言われると何とも歯切れの悪い返事で何でもないと返って来る
少し前に脚が痛んだので心配をかけたのは分かるのだが、それにしても輪をかけて右往左往するのは悠らしくない、と郁斗は考える
「香さんになんか言われたのか?」
「……うん、香さんは大丈夫だって言ってたけど」
悠が今の状態になったのは香たちと合流して、二人が少しだけ皆から離れて話し込んでいたのを見た後だ
だとすればその内容に悠をここまでさせる原因があると郁斗は予想したところ、どうやら正解らしく、悠はしおらし気に答えた
「香さんが大丈夫って言うなら、大丈夫だろ。そこまで付き合いが長い人ではないけど、あの人は嘘をつく人じゃない。不用意に不安を煽る話をするとも思えないし、本当に大丈夫だと判断したからお前に話したんだと思うぞ?」
「うん、そうだと思う」
それでも心配だから、こうしていつも以上にそわそわとしているのだろうけど、そうやってそばで無用な心配をされても、こちらとしてはどうしようもない
いつも通り、とまでは行かないが、少しくらい肩の力を抜いてもらわないと、郁斗としても居心地が悪かった
「んじゃいつも通りにしてくれよ。それじゃあ逆に疲れるし、折角の縁日だしな。おっ、金魚すくいだってよ、やってみようぜ」
ようは楽しもうぜと言う話だ、と悠に言い聞かせると目に入って来た金魚すくいの屋台へと悠の手を引いて向かう
辺りは子供とその親御ばかりで、商店街の通りほどの喧騒と密集度は無く、すいすいと悠の手を引いたまま、金魚すくいの屋台までやって来た
「ヘイいらっしゃい。やってくかい?」
「二人分で」
「一人500円だから1000円な。……毎度!!」
やって来た金魚すくいの店番をしていたのは、如何にも祭り好きそうな法被を来たおじさんだ
威勢の良い掛け声と調子が祭りらしい雰囲気を盛り立ててくれる
郁斗はそのおじさんに1000円札を手渡すと二つのお椀と二枚のポイを渡される
それを渡されて、二人はおおと声を上げた
「なんだ、兄ちゃんら金魚すくいは初めてかい?」
「実は初めてで。コツとかあります?」
「はぁー、金魚すくいを高校生くらいだろう?それで初めてか、時代感じんな~。コツは水の抵抗を考えてやることだな。見ての通り、紙で出来てるから、水に浸し過ぎたり、水の中で動かし過ぎるとあっという間だぜ」
当然のように金魚すくいが少なくとも自分たちが記憶する中では初体験な二人は、おじさんのアドバイス通り、極力水に付けず小さな動作で金魚を狙っていく
「っとと、意外と難しいなコレ」
何度か狙いを定めて金魚を掬ってみるも、郁斗のポイは数回の使用で無残にも破れてしまい、釣果は当たり前のように0匹だ
悠の方はどんなものかと隣へと視線を向けると
「……」
『……すぴ』
悠と悠が水面に浮かべていたお椀に前足をかけて、鼻を鳴らす子亀の姿があった
じっと見つめ合う両者は、しばらくそのままでいると、やがて悠が思い立ったようにまだ塗れていないポイで子亀の後ろ脚から掬い上げ、お椀の中へ子亀を入れる
「あー、これは?」
「……まぁ、一応大当たり的な変わり種枠なんだが、良いだろ。ちょっと待ってな、子亀を入れるケースやっからよ」
「すみません」
これはアウトか、セーフかとおじさんに問う郁斗に、おじさんはセーフの判断をして、金魚を入れる袋ではなく、子亀を入れるための小さなプラケースを取り出す
肺呼吸をする亀を袋に入れてはすぐに死んでしまうので、そのための配慮だろう
よもや子亀を掬われるとは思ってなかっただろうに、あっさりと用意してくれるのはおじさんの人の好さがにじみ出ていた
「……」
『……すぴ』
男二人のやり取りを他所に、一人と一匹は未だに見つめ合っていた
亀は作者のペットでもあります
種類はイシガメ、名前は『カメックス』
いけっ!!カメックス!!【ハイドロポンプ】だ!!
あ、後ブクマ400件、評価合計1000Ptいただきました。あざます(軽い




