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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
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のろい


「大丈夫?」


「悪い、少し痛むくらいだ。特に何ともない」


郁斗の表情の変化を機敏に感じ取った悠は、何でもないと言う郁斗を無視して人混みを掻き分けて手を引き、現在は人混みから外れて、商店街の店舗に続く階段に腰掛けていた


「なんともなくないでしょ。立ってるだけで痛いクセに。今は?座ってても痛むの?」


「……少しな」


痩せ我慢する郁斗を叱る様に言う悠に、郁斗はバツが悪そうに少しだけ痛むと返す


実際は歩けない程痛いとは言わずとも、足を庇って歩くくらいには痛い。特に怪我をした右膝は継続したピリピリと走るような痛みが続いていた


「うーん、相変わらず腫れてる訳でも、熱を持ってる訳でもないし。冷やす物も痛み止めも無いしなぁ。あ、近くにドラックストアあったよね?ちょっと行って――」


「いや、それよりも皆に集合場所を変えてもらった方が良いだろ。来る途中で軟膏か湿布でも買って来てもらえった方が入れ違いも無いし」


あたふたとしながらアーケード街内にあるドラッグストアに向かおうとする悠を咄嗟に呼び止めて、郁斗は代わりの案を提案する

それっぽい事を言っているが、本心としては女子である悠を一人で行動させるのを嫌っての咄嗟の言い訳だった


その悠ははそう?と少し考えたようだが、郁斗の考えの方が良いと判断し、巾着の中に入っているスマホで皆に改めて連絡を取り始める


「皆分かったって。場所も伝えたから、そんなにかからないと思うよ」


「悪いな」


「しょうがないよ」


無事、桃と照、絵梨と香に連絡が付いた悠はスマホをしまって郁斗の隣に座る

心配そうに揺れる瞳に、郁斗は謝ることくらいしか言葉が浮かばなかった


「おったおった。なんだ小僧、音を上げるとは情けないぞ」


「大丈夫ですか?効くかは分からないですけど冷却シート買って来ました」


最初に到着したのは照と桃だった


皮肉たっぷりな照と、心配そうにドラックストアで買って来たであろう冷却シートを取り出す桃の対応は見事に対照的なものだったが、急に脚を痛めてしまったのは郁斗なので、皮肉も甘んじて受けることにする


「悪い、後で払った金は返すよ」


「私じゃなくて照さんにどうぞ。お金を出してくれたのは照さんですから」


「そうなのか?」


購入代金を返す約束を取り付けようとした郁斗は桃から返って来た意外な内容に目を丸くする


どうにもこの冷却シート自体は照がお金を出した物らしい


「ふんっ、せっかく祭りじゃが古傷が痛み出したならば仕方あるまい。そういうのは昔から冷やすのが一番と相場が決まっておる。さっさと痛みを引かせて縁日に行きたいだけじゃよ。あと、代金はいらんぞ。お主の様な小童に金銭を巻き上げる程、金には困っとらんからな」


「分かりました。ありがとうございます」


面白くなさそうに鼻を鳴らす照だが、それが彼女なりの心配の仕方なのだろう

ある意味わかりやすい反応でもあるし、ここを蒸し返すと面倒になりそうだと判断した郁斗は短く礼を言って冷却シートの箱を受け取る


「やってあげる。痛むところだけ、ズボン捲くっておいてね」


が、それはひょいっと隣にいた悠に盗られてしまい、あっという間に手持無沙汰になる


そこまでしなくても、とも思うが心配をかけているのはやはり自分だよなと郁斗は黙って悠の言いつけに従うことにする


「あー、いたいた。遅くなってごめん。間―、アンタ大丈夫?」


「前に怪我したところが痛むんだって?どれ、お姉さんに見せてごらん」


そうして冷却シートを右ひざに貼ってもらっていると、遅れて絵梨と香も合流する


生憎、絵梨達が来た方向にはドラッグストアの類は無かったので手ぶらだが、代わりに香が痛む患部を出すように言って来る


丁度、膝小僧を出して、悠に応急の冷却シートを張ってもらったところだったのでそのまま見てもらうことにすると


「……ふぅん、成る程ね。お医者様からは何て言われている?幻肢痛って言われてない?」


「一応、怪我自体は完治してるっては言われてます。痛む理由に関してはよく分からないけど、リハビリを続ければ取れるだろうって言われてますね」


一目見て、スッと目を細めた香は医者の診断はどうなのか、と聞いて来たので郁斗は医者に言われた診断結果をそのまま返す


ふむふむと何やら得心したように頷く香だったが、よし分かったと言うと、郁斗の右膝をピシャンと叩いて立ち上がる


「とりあえず安静にしてようか。痛みが治まって、大丈夫なようならまた皆でお祭りを楽しも」


ね?と言うとそのまま悠の手を取って立ち上がり、何故だか二人でその場から少し離れるのだった


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