のろい
桃と照、悠と郁斗、絵梨と香の3組に分かれた一同の中、絵梨と香のペアは七夕祭りの会場であるアーケード街から離れ、人混みを避けるように路地を歩いていた
「ごめんねー、お祭りなのに付き合ってもらっちゃって」
「私は別に良いですけど……、どうしたんです?」
折角誘った祭りの会場から遠ざかっている香を不思議に思いながら、絵梨は香の後ろをついて歩く
カランコロンとなる下駄を鳴らしながら進む二人は特に会話も弾むことなくただ歩みを続けて行く
「……うーむ、どういうつもりなんだか」
「はい???」
そうやってしばらくしばらく歩いていると突然黙っていた香が喋りす。あまりにも突然だったので思わず上ずった声が出た絵梨だったが、そこに香は触れることなく続けて口を開いた
「いや、街に出てからジロジロと見て来る輩がいたからさ。手を出してくるかなぁと思って人の少ないところに出て見たんだけど、どうにも向こうさんの狙いは私らじゃないっぽいんだよねぇ」
「えっ」
驚く絵梨を再び軽くスルーして、香は下駄を鳴らして足を動かす。驚きで脚を止めた絵梨は慌ててそれを追いかけるとどういうことなのかを問いただした
「いや、悪いんだけどね、絵梨ちゃんを囮にすれば釣れるかなーって思ったんだけど。少なくとも今日私たちを監視していた奴は絵梨ちゃんが目的じゃないみたいでね?当然一般人の桃ちゃんを襲っても仕方ないし、護衛には照が付いたし、ってことは狙いは……」
「悠、ですか?」
ピンと来た絵梨は確信めいた口調で問う。と言っても消去方での結果ではあるが
それでも御明察、と言わんばかりに香はニヤリと笑って見せる
「ん、多分悠ちゃんを女の子にしたやつだね。ただ襲うつもりはないみたい。経過観察ってやつなのかな?殺気を飛ばしたら隠れちゃったし、何が目的なのやら」
「でもこの前は襲って来ましたよ?あ、でもあそこは人の少ない場所でしたね」
「なんにせよ、こちらを襲わないなら無闇に戦闘行為に移る必要も無いしね。向こうからドタバタやってくれればこっちはそれを潰して回るだけだから楽なんだけど、今回は慎重派かー。時間かかるなぁ」
明らかにめんどくさいなぁという雰囲気を隠しもしない香に少々ジトっとした視線を向ける絵梨だが、まぁ確かに囮作戦で本命ないし、敵の情報の一部でもゲット出来れば進展が違う
未だ実感はないが、この世界そのものがとんでもない悪党達に狙われているのだ。対処が楽で速いならそれに越したことはないが、生憎と慎重なタイプらしい
「そのジャッジメントって言うのにも色々差があるんですか?」
「差、と言うか、基本的に世界さえ滅ぼせればやり方は問わないって方針みたいでね。大量の軍勢を一気に送り付けてそもそも生命を根絶やしにしてみたり、星と星をぶつけて惑星系ごと木っ端みじんにしてみたり。この世界を管理する神様だけを殺して、管理者不在になった結果、ゆっくりと世界全体を衰弱させたり、その世界の管轄になったジャッジメントの人員によってやり方は色々あったよ」
「な、成る程……。その中でも今回は一際慎重に動いているタイプ、ってことですか」
「うーん、困ったことに今のところ何をしてるのか、どうやって世界に手を出すつもりなのか、サッパリなんだよねぇ。こういうのは長期戦になるんだよ」
あー、めんどくさいと呟く香は案外めんどくさがりなのかも知れないな、と頭の片隅に思い浮かべながら、何処かにいるらしい敵を思い浮かべながらふっと後ろを振り返る
「うん、さっぱり分からん」
サトリの力を使えばもしかしたらわかるかも知れないが、香が手を出さないと言うなら素人の絵梨が手を出すのは、場を乱すだけでロクなことにはならなそうだ
とりあえず、今日はお祭りを楽しもう。そういう事にして香の後を再び追い掛けた




