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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
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のろい

商店街のアーケード街は入り口の盛況さもさることながら、入り口から始まる巨大な七夕飾りで華やかに、そして豪快に彩られている


その下を潜る様に人の波はゆっくりと進み、口々にその大きな飾りを見ては綺麗だの、大きいだの、どうやって作ったのだのといったことを口々にしている


「しかし大層な飾りじゃな……。この辺りでは七夕飾りとはこういうものなのか?」


この七夕祭りを初体験する照もその一人だ。黄色や水色、ピンク、と言ったカラフルな色から白や緑と言った少し落ち着いた色の飾りまで、色とりどりの飾りがアーケードの天井からつるされている様は、照が思い描いていたよりずっと美しいと、心動されるものだった


「いえいえ、流石にこれはお祭り用です。お家でやるよう人は少ないと思いますけど、幼稚園とかスーパーとかでは竹を立てて、短冊に願い事を吊るす普通の七夕です」


「ほぉ、言われてみると願い事を書いた短冊ではないの。本来の七夕とは別に、この地域で七夕祭りが催されている、と言う感じか」


七夕の起源、と言うのは相当に古い。起源は中国にあり、その後に台湾、朝鮮、日本に伝わり、長い時間をかけてその国独自の文化へと発展を遂げている


その中でも日本の七夕は他の伝承と混ざったり、新暦と旧暦の入れ替わりなどで日時が不明瞭になったりなどして、今の織姫と彦星の年に一度の相瀬の伝説と、竹の枝葉に願い事を書いたカラフルな短冊を吊るして飾り付ける庶民の風習として残っている


「仙台七夕は、その起源を辿ると300年前の江戸時代まで遡るらしいんですけど、その詳細までは分かってないんです。その後は時代の流れに揉まれて何度も無くなったり、また新しく始めたりを繰り返しながら、今の形になったらしいです」


「それでも300年の歴史か。人の営みとは中々途切れぬものよな。たとえ起源が分からずとも、そんな些細なことはこの華やかな飾り付けを見たらどうでもよくなってしまう」


「気に入ってくれたのなら、地元の人間としては嬉しいですね」


人波の中ではぐれぬ様、年の離れた姉妹のように手を繋いで歩く二人はこの仙台七夕の起源などを口にしながら、祭りを目で楽しむ


生憎、照は浴衣に興味がなく、桃は突然のお誘いなのもあって用意が無かったため洋服なのだが、どうせなら着ればよかったと口にこそ出しはしなかったが、同じことを思う


祭りとは雰囲気を楽しむもの。ガヤガヤ騒がしい中を、それらしい恰好をして、友人や恋人、家族などと屋台を覗きながら歩く、その独特の雰囲気に呑まれるのが楽しいのだ


そんな祭りの雰囲気にすっかり呑まれた二人は、自分たちが洋服で来てしまったことをちょっぴり後悔するのだが、今更戻る訳にも行かない


ならば少しでも楽しもうと、お喋りも楽しみながら歩みを進めて行く


「そう言えば、照さんは絵梨ちゃんの保護者?になるんですよね?」


「ん?んー、正確には絵梨の保護者になる、ほれ、香と言ったのがおったろう?あれと同居しているんじゃよ。るーむしぇあ?と言ったか?仕事仲間でもあるしの、一緒にいると都合が良いのじゃよ」


目で祭りを楽しみながら、話題は祭りから絵梨の話へと移り変わる


一応、二人の間柄は絵梨の友人と、その絵梨の保護者の同居人、という少々微妙だがえりという共通の話題はあった

初対面と話すなら分かっている共通の話題に行きつくのは至極当たり前のことだろう


「でも、驚きました。その、絵梨ちゃんの家がそういう家だった、何て」


「絵梨自身が上手く隠していたみたいじゃからのぉ。あやつ、見抜くのは得意なくせに自分のことを隠すのも上手いと来とるからな」


他人の家の、しかも少々話ずらい内容ではあるが、桃はたどたどしくも言葉を口にする

それを急かすことなく聞く照は、対照的にハキハキとそれに答えているのは二人の性格の差か、経験の差か


ともかく、桃は絵梨の事を聞きたいようであった


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