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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
132/206

のろい

人が溢れかえっている


現在の仙台駅前を表現するならこの一言で足りるのは間違いない


日中から夜中まで多くの人が行き交う仙台駅前、特に商店街の入り口に当たるクリスロードは押し寄せる人々でにぎわうどころか、ごった返していた


「いやいや、電車の中もすし詰めだったけど、まさか往来のど真ん中でこうなるなんて、大盛況だね」


「特に今日は、初日で、日曜で、学生は夏休み、例年以上にっ、人がいますね」


その人混みの中に身を投じた一行は、案内役をかって出た桃を先頭にどうにかはぐれぬようにと四苦八苦を繰り返しつつ、会場である商店街へと足を進めているのだが


「桃よ、お主の体格では人並みに攫われるぞ。ほれ、手を掴め」


「す、すみません……」


先陣を切っている桃が完全に人波に攫われている上、各自この人混みでは思ったように動くことも出来ずに、ただただ人が動く流れに身を任せるだけとなっていた


その中で、桃は照と


「絵梨ちゃん、はぐれないようにね」


「は、ハイ」


絵梨は香と


「い、郁斗、ちょっと動きづらいよ……」


「我慢しろ」


悠はいつもの様に郁斗に。ただし、手を繋ぐのではなく、この二人組だけが郁斗が悠の肩を抱き、胸元に引き寄せるようにしてペアを作る


ついでに悠の豊かな胸元を見て、鼻の下を伸ばしていた周囲のおっさん共をジロリと睨み付けて牽制した郁斗は流石の鉄壁の紳士ぶりである


こうして、ある意味当然のことの様に3組に分かれた6人は人混みに揉まれてバラバラになってしまうのだった








「みんなとはぐれちゃいましたね……」


商店街入り口から約50m。ようやく人混みから外れ、普段は開いている商店前のシャッター前に桃と照は立ち尽くしていた


照に手を取られ、何とかなったかと思ったらあれよあれよと言う間に人波に流されてしまい、他の面々とはぐれてしまった桃はしょんぼりと、俯きながら口を尖らせる


夏休みに入ってから、学校では毎日のようにお喋りしていた悠、絵梨、そして郁斗と思う様に遊びに行けず、夏休みに満喫したと言えば休みに入ってすぐのプールくらいだ


それ以来は意外と折り合いがつかなかったり、話題になった動物の惨殺事件のニュースのせいで自宅に缶詰めにされていた桃は、七夕祭りに誘ってもらえたのがとても嬉しかったのだ


だと言うのに、会場に着いて早々にみんなとはぐれてしまった。折角の楽しい気分が台無し、と言うものである


「仕方あるまい、この人混みではな。小僧たちに連絡は入れたのであろう?」


「一応、トークには連絡を入れました。あっ、返事が来ましたね」


幸い、絵梨の新しい保護者だと言う照とははぐれずに済んでおり、今では便利な文明の利器がある


人混みの中での合流は難しいだろうが、どこか合流地点を決めて、落ち合えば何とかなりそうだと考えながら、桃は返って来た返信に目を通す




悠《ゴメン!!はぐれちゃった!!皆大丈夫?私は郁斗と一緒だよ》


桃《照さんと一緒です。絵梨ちゃんは大丈夫かな?》


絵梨《ゴメンゴメン、やっと落ち着けたわ。私は香さんと一緒だよ。これからどうする?》


郁斗《この人混みじゃ合流は難しいな……》


桃《どこか集合地点を決めて集まりましょう。それなら確実だと思います》


絵梨《じゃあ、縁日コーナーやってる広場あったじゃん?あそこにしない?》


悠《広いから集まりやすいもんね》


桃《じゃあ縁日コーナーの広場で、着いたらまた連絡しますね》


郁斗《だな。んじゃ、また後で》


絵梨 《あいよー》


悠 《はーい》





幾つかトークアプリでやり取りをして、集合場所が決まったことにホッと息を吐いた桃は手提げ袋にスマホをしまう


「連絡は取れた様じゃな。して、どうするんじゃ?」


「ここから商店街を進んでいくと広場があるんです。そこは縁日をしてて、人混みも多少まばらなので、そこで集合しようってことになりました」


「分かった。それじゃあ折角じゃ、お主に案内してもらいながら、その集合場所にいくとしようかの」


「お任せください。生まれも育ちも隣ですけど、笠山ですから。ばっちり案内しますよ」


自信満々に胸を張る桃に、照はカラカラと笑いながらはぐれない様にもう一度手を取る


そうして、桃と照という何とも不思議なペアは人混みへと紛れて行く


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