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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
気付き始めた心と身体
130/206

のろい

浴衣、と言うのはとても簡単に言ってしまえば薄手の着物だ


柄や帯の選び方、襟の整え方、帯の巻き方留め方、髪型や髪留め、下駄や草履の種類まで全体のトータルコーディネートを当たり前に要求され、同時に特徴的な着用方法である着付け、という作業もある


現代日本でこれを習得しているのは昔から着慣れている年配の方か、そういった家に生まれたり、習い事などで関わりがある人のみで、大よそ殆どの日本人は着物の着方というのをほぼ知らない


「なんで悠そんなテキパキできるの……」


「私は道着とか、家の都合で着物を着る機会が多いから。ほら、動いちゃダメだよ」


「ぐえぇ」


キュッと帯をすぼめられて年頃の女の子が出していけない声を漏らした絵梨と、ほぼ一人でパパッと浴衣を着てしまった悠


悠は先程の例の中ではそういう家に生まれた、というパターンだ。道場で着る道着は基本は着物の形であるし、親戚などの冠婚葬祭での格好は高嶺家は老若男女問わずに着物である

流派の本家本元と言う歴史を大事にするのは高嶺流の教えの一つと言えた


「着付け自体はもうちょっとだから我慢してね」


「ま、その後に髪を結い上げたり、小物を選んだり色々あるけどね?良かったね絵梨、ウチならその手の和風小物なら選び放題だよ」


「嬉しいけど嬉しくない……」


ここまでしっかりとした着付けを体験したことのなかった絵梨は既に音を上げ始めているが、悠からすれば浴衣の着付けなど気楽以外の何物でもない

何枚も重ねるあの重さと窮屈さと比べれば浴衣の何と気軽なことか。欠点はそれ故の着崩れのしやすさだが、そのくらいは悠にかかればお手の物


こんなのなんてこと無いのになぁと思いながら自分が付けるかんざしを選び始める辺り、中々の薄情者であった


「お邪魔しまーす。お手伝いいるかなーって思ったんですけど」


「あら?香さんも着物の着付けが出来るんですか?」


「私も照も生まれがそういう家系なんで実家にいた頃は着物が当たり前なくらいなんですよ」


「頼もしいわね~。じゃあ少し手伝ってもらおうかしら。お礼にウチの髪飾りとかなんでもお貸ししますよ」


「良いんですか?良かったー、流石に小物で良いものは即席では手に入らなくて」


そうしている内に待ちきれなくなったのか、香が着付けに使っていた部屋にやって来て絵梨の着付けを桜と共に手伝い始める


二人掛かりでより本格的になったことにより、絵梨のうめき声がより一層深まったような気もするが、唯一助けの手を伸ばしそうな悠は未だにかんざし等の髪飾り選びに夢中


「味方がいない……」


こんな筈ではと項垂れる絵梨はこうして無事に着飾られて行くのだった



「お待たせー!!」


それからたっぷり40分。しかっりと着付けられた浴衣と、結い上げ、纏められた髪を悠、絵梨、香の三人が玄関で待つ郁斗と照に披露する


悠は黒をベースにした、それでいて最近の流行りの柄々とした目にうるさい模様ではなく。シンプルに白の細い刺繍が花の様に広がっている。帯は朱、こちらもシンプルに一色で飾り紐も無いが帯を捻ってから結んでいるため前側にもリボンの様な絞りが伺える。後ろも可愛らしくリボン調になっており、全体がシンプルな代わりに要所要所で可愛らしさをちりばめている


悩みに悩んだかんざしはまたシンプルな紅の玉かんざしだ。垂れ下がる飾りも少しあるものの、鮮やかな紅は悠の黒く艶のある髪に良く映えている。髪型もシンプルに団子状に纏めている


絵梨は対して白を基調とした今時の柄物だ。青と黄色の花柄がふんだんにあしらわれ、柄物ではあるが見た目は涼し気で軽やかだ。帯は紺、白い刺繍がたんぽぽのわた花の様に線のみで施されており、同じく白の飾り紐もついている。髪型も所謂盛り髪に近く、色素の薄い茶色の髪が艶やかに結い上げられ、桔梗が意匠された一本かんざしで纏められていた



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