のろい
今のところ、そのトラブル防止対策は順調に機能しており、特に目立った弊害も無い
「一番の疑問は二人が平然とイチャついていられるのが疑問なんだけど、一応元男でしょ?思うところは無かったりしないの?別に男同士の時はそう言うの無かったしさ」
だが本来ならこの対策法の最大の弊害は本来は男同士の二人がカップルの様に仲睦まじくしている事だろう
普通に考えれば男同士と言う認識がお互いにあるはずで、多少の忌避感はありそうなものなのだが、悠達には一向にその様子は見受けられない
「んー、私は今の自分は女子だって思ってるし、正直家族以外に何の気兼ねも無く頼れるのって郁斗だけだから、ちょっと依存はしてるのかも」
「俺は、そうだな。悠にしろ悠にしろコイツはコイツだ。唯一無二の幼馴染で親友だし、一番信頼出来る。そんな奴が助けを求めてるんだ、俺としては助けない理由にはならないし。……まぁ、なんだ、少なくとも外見は美少女だしな、頼られて悪い気もしないってのも事実だな」
その疑問に、それぞれどうしてそうなったのか自分なりに回答を出してみる
悠の場合は桜の教育の賜物と悠自身の割り切りの良さが原因のようで、そんな中秘密を抱えた自分を文句の一つも言わずにサポートしてくれる郁斗に無意識に頼り切りになってるからじゃないかと結論する
郁斗の場合は相手に対する信頼と、その相手から向けられた信頼を裏切る訳にはいかないと言う一種の義理人情のようなもので、ある種事務的ではあるし、摘心的な奉仕の様にも取れる
とは言うものの多少の男としての下心はある、とも吐露する
こればかりは男と言う生き物の性だろう。どんなに元男だと頭で理解しようとしても女性に頼られて嬉しくない男は早々いないという事だ
「ははぁん、お互いに持ちつ持たれつ的な関係な訳だ。にしても間、電車で聞いた時とは少々言い分が違うけど?」
「……お前に隠し事をしてもあっさりバレそうだからな」
夏休み序盤、プールでの帰りに聞いた話と多少言い分が違う郁斗にニヤニヤと嫌らしい顔を向けると、郁斗は居心地悪そうに雑誌でその視線を遮ってしまう
その仕草に絵梨は更に満足そうに笑みを深め
「ふふーん、能力は使ってなくても多少の勘は他の人より働くからね。嘘かホントかくらいは何となくピンとくるときはあるよ」
どんなもんだと言わんばかりにドヤ顔を披露する
彼女の心を読む力は意図しないとその能力を完全には発揮できないが、普段でも第六感に近い感覚で多少の嘘くらいならただの人間よりもずっと高い精度で見極められる自信があるようだった
「それじゃあ私の秘密も絵梨には遅かれ早かれバレてそうだなぁ。まぁ、相手が絵梨で本当に良かったよ」
「そもそも滅多に使わないし、友達には絶対使いたくない力だから分からないけどね?そういえば桃ちゃんはこの件知ってるの?」
読心なんて能力は防ぎようがないし、そもそも読まれてる事にも気が付かなそうだから悠はその内バレてたかもねと笑いながら漏らす
絵梨自身は友人や親しい人にこそこの能力は使いたくないらしく、それは絶対にないと言い切るともう一人の親友である桃について話が移る
「伝えてない。伝えても仕方が無いし、無用なトラブルに巻き込まれないとは限らない。特に俺らは非現実的な事に片足を突っ込んだところなんだ、一般人の桃は知らない方が良いだろうよ」
「そっか、分かった。うっかり口を滑らすなんて無いようにするよ」
「そこはしっかり頼むぞ、香さん達にも迷惑が掛かるしな」
彼女は四人の中で恐らく唯一の完全に何も知らない一般人だ。高嶺流を体得し、例の男に直接危害を加えられた悠と、その秘密を知りサポートする郁斗。その能力でずっと普通から少し外れたところにいた絵梨
3人とも、多少なりとも今回の絵梨の件より前から非日常に触れて来た面々だ。何も知らない桃をこちら側に巻き込もうとも、わざわざ知らせようとも思わない
折角の友人をみすみす危険な領域に呼び込むほど、3人は非常識な人間ではなかった




