のろい
「そんな感じで二日ほどよろしく~」
「分かんないから説明してね?」
そうやって高嶺家の近所に引っ越すことが決まった絵梨は一先ず引っ越しが終わるまでは高嶺家に転がり込むことになった
本人は説明を省略したので悠達にはまるで伝わっていないが
「てか、本当に当たり前のように間がいるのは驚き通り越して笑うわ」
「別にいいだろ。言っただろ、腐れ縁の幼馴染だって」
「だからって夏休みの時まで一緒の空間に普通いる~?」
悠と一緒に部屋でくつろいでいた郁斗に絵梨はただでさえ四六四十一緒にいるのに夏休みの日中ですら一緒にいるのかと疑問を投げかけるが当の本人たちはイマイチよく分かってない様で
「いや、何と言うか一緒にいない方が違和感があると言うか」
「当たり前すぎて疑問にも思わないんだが……、一般的には変なのか?」
首を傾げて逆に聞き返す始末だ
一緒にいることが当たり前すぎて、逆に一緒にいないことに違和感があると抜かす二人に絵梨は頭を抱える
「は~、いやホント悠が今は女の子で良かったのか悪かったのか分かんないわ」
「???」
男同士のままだったらそれはそれで問題だし、男女の間ならそれはそれでやはり問題である
近すぎる距離感の二人が何処かでうっかり一線を越えてしまわないかと絵梨は心配で心配でならなかった
「二人ともさぁ~、ホントに恋愛感情無いの?正直言って下手な自称ラブラブカップルよりイチャついてると思うんだけど」
「いや、別にイチャついてはいないだろ。ただ一緒の部屋でゴロゴロしてるだけだし」
呆れながら部屋に置いてあったクッションをお腹に抱えて寄りかかる絵梨に、郁斗は別のクッションを枕に寝ころんだまま反論する
確かに二人に身体の接触はない。悠はベッドの上で妹分の郁香から借りて来たと思われる少女漫画を山と積んで読みふけっているし、郁斗もサッカー誌やメンズファッションの雑誌を持ち込んでいたりと、別々な事をやっている
「そうそう、宿題は早々に終わらせちゃったし?お互い暇だからって早起きした方が寝てる方起こしに来るの、今日は郁斗が早く起きたからこっちに来たって感じ」
「じゃあ悠が早起きしたら間の家まで起こしに行くの?」
「そうだけど?」
「はああぁぁぁぁぁぁぁ~~」
世の幼馴染とは皆こうなのか。いや、そんなことはない(反語)と頭の中でくだらないことを思い浮かべながらこいつらホンマと絵梨は大きな大きなため息を吐く
「え、なに?新婚の夫婦?寝起きのパジャマ姿はおろか寝顔まで拝んで優しく起こすの?今時夫婦でもそんなことしねーよ!!」
「そんな可愛げのあるもんじゃないぞ?コイツ、最近パジャマじゃなくてTシャツ一枚とかで寝るようになって来たからな」
「暑いんだって、郁斗だってこの前パンイチで寝落ちしてたくせに」
「あれは着替える前に寝ころんだらうっかり寝落ちしただけであって普段はちゃんと服着てるだろ」
「惚気んな!!」
バンバンとテーブルを叩いてお互いの寝る時の恰好で物申し始めた二人を黙らせる
無自覚に新婚夫婦級にイチャつく二人の話を聞いていたら一応は年相応の純情ガールの絵梨には過剰摂取な位の撃甘トークにしか聞こえないのである
もはや劇薬だ
「てか、付き合ってないならそうじゃないって否定しないの?学校じゃあんた達って超有名な美男美女カップルよ?」
「そうした方が都合が良いってことになってな」
どうにか話題を変えるべく、そうはなら無さそうな話題を振るとこれまた不思議を呼ぶ回答が返って来て、絵梨はしばらく二人からそういう風に勘違いさせたままでいる理由について先生方からの入れ知恵があったことを伝えた
「へー、流石に大人は上手いこと考えるわね。悠はトラブル回避、郁斗は虫除け、二人でいれば蹴られたくないから近寄る人も少ないと」
確かにメリットは大きいわねと絵梨はうんうんと頷く
特に転校扱いだった悠は注目の的でありながら当時はまだ女子歴2か月目。下手に話せばボロも出かねないところ郁斗が牽制して周りを引き剥がし、男女の関係だと匂わせれば悠に近付く男も減る
改めて考えると非常に上手く機能した無用なトラブル防止対策だ




