色んな意味での先輩とダチになりまして。
「でさ、唐突なんだけど」
「なんすか?」
足のマッサージを続けながら、郁斗は郁己の話を聞く
大体、この人がこういうフリをする時はしょうもない話だ。郁斗はこの短時間でそれを学び、何を言われてもそーっすねくらいの軽い調子で流すつもりでいた
「悠ちゃんおっぱい大きいよね」
「そーっす、じゃねぇよアンタいきなり何言ってんだ」
危うく同意するところをすんでで止め、物凄い冷めた視線を郁己に突き付ける
こういっては何だが、ハッキリ言って背も低い上に悠以上の豊かな胸部を持つトランジスタグラマーをその身に体現している勇の方がエロい。男ウケのする身体つきをしているだろう
運動も豊富にしているだろうその肉体は引き締まり、出るところは出て引っ込むとこは引っ込んでいるのがあの二人だが、それでも男性向けに人気投票を僅差で勇が勝つに違いない
「で?揉んだの?」
「……揉んでねぇっすよ。そんなことしたら殺されます」
「あ、その間は嘘だね?揉んだんでしょ?どうだった?」
「しつこいっすね?!」
そんな女性を彼女に持つ郁己がやたらとグイグイ来る。下ネタにはあまり興味がなさそうなのもあってこのギャップは驚異的な何かを感じるレベルである
というか、彼女の揉めよと思わなくもない
「まぁまぁ、ここは野郎しかいない。幸い他のお客さんもいないしここは赤裸々に語ろうじゃないか」
「嫌ですよ。てか、勇先輩に怒られますよ?」
「あー、大丈夫大丈夫。勇は僕が実はエロ魔人なことを知っている」
「逆にタチ悪いわ」
そんなどうでもいい情報は聞きたくなかった
いや、確かに男であるならばエロに興味があるのは必然であろう
だからと言ってフルオープンは如何なものなのか
額に手を置く郁斗を尻目に郁己は力説を続ける
「正直に正直に言うよ?長年一緒に遊び歩って、お互いの良いも悪いも好き嫌いも趣味も分かってる親友がだ、ああも可愛くなってトキメキとか覚えない?」
「ぐっ、それはまぁ否定しませんよ。ガード甘いし、距離も近いし勘弁してくれとは思います」
誰だって、とまでいかないが仮に仲の良い女子が常にそう言う距離感なら男ならグッと来てしまうのが性というものだろう
そういう経験は郁斗にも何度もあった。特にキたのは郁斗が学校帰りに悠の家に寄って買ってきた雑誌や漫画を読んでいた時に寝落ちしてしまった悠の寝顔だった
正直に、正直に言ってクソ可愛かったというのが郁斗の感想で見とれたのも事実だ
「ただ、そういう目で見るのはあいつにとって不快でしょう?仮にも同性だった人間から性対象として見られたら俺だったらきついですよ」
「んや、そうなんだろうけどね。仮にもだよ?仮にも悠ちゃんが女の子として生きて行く覚悟を決めた時、郁斗君はどうするのかなぁっても思ってね」
「それはないで」
「ホントにそう言える?」
悠が女として生きて行くなんて考えない、そう返そうとした時、郁己が被せ気味に郁斗にそう問いかける
「人の心は変わるよ、勇もそうだった。そんなことはないって君は言うけど、そんな無責任な事を言う君に『彼女』を守れるのかい?」
「……それは」
確かに無責任な発言だった。人の心は変わる、その通りだ
悠が今後、自分の身に起こったこの事象に諦めをつけて女性として生きる可能性は必ずあるのだ
同時に自分が異性として、悠を好きになる可能性だって十分にあり得るのだと、そう気付く
「選択するのは君と彼無いし彼女だ。それに関して僕は文句を言う訳じゃないし、いう権利も無いけど決めつけだけは止めた方が良いよ」
「……よく覚えておきます」
きっと、郁己自身からの経験に基づく話なのだろう。やはり彼は頼れる先輩なのだろう
「で、揉み心地はどうだった?」
「まだ続くんですそれ?じゃあ聞きますけど勇先輩のはどうだったんですか」
「いやぁ、おっぱいってあんな柔らかいんだね」
「臆面?もなく言わないでください」
「そう思うだろう?」
「……否定はしません」
確かに柔らかかったのは事実だ。時折背中や腕に無意識に押し付けられる柔らかさは殺人的だと郁斗も思う
仕方ないのだ、男はみなエロ魔人なのである
「僕の予想なんだけどさ。郁斗君、最近黒髪ロング系のエッチなモノ増えてない?」
「黙秘します」
その砦は厳守しなければならない。郁斗は即座にそう判断した




