色んな意味での先輩とダチになりまして。
その反応は胸の秘めたるところに実はちょっと興味があって、でも手を引っ込めてしまったと自白しているようなもの
「お、その反応はあるね~?ちょっとお姉さんに言ってみなよ。大丈夫、絶対バカにしたりしないから!!」
「うっ、その、えっと……、じ、実はお洒落するの凄い楽しいなって思ってる自分がいて。でも、元男だし、気持ち悪いかなって思ったりして、だから……」
「良いじゃんお洒落!!じゃんじゃんしようよ!!悠ちゃん可愛いんだし!!」
「え、でも男だったし、もしかしたら戻れるかも知れないし……」
「そんなの関係なし!!」
ブブーッとバッテン印を手で作りながら勇はぐぐぐいっと悠に詰め寄る
思わず仰け反る悠に勇は更に詰め寄って来た
「だって悠ちゃんそうしてみたいんでしょ?だったらやっていいんだよ、別に犯罪じゃないんだし」
「え、いや、でも」
「自分を可愛くするのが楽しかった、だからする。良いんだよ、それで」
「……良いんですか?」
肩を掴んでまで力説する勇に若干ビビリも入りつつ、悠はそれでいいのかと思ってしまう
今まで自分を厳しく律して来たのだ。そんな甘えのようなものが自分に許されるのかと、どうしても思ってしまう
それでも、勇は良いと言い切る
「良いの。やりたいことを縛る権利なんて親にだって無いんだよ、たくさん素直になって沢山楽しい事すればいいよ。郁斗君もその方が心配しないよ」
「……努力、してみます」
ぶくぶくと悠にしてははしたなく湯に口元を付け、泡を立てる様子に勇はまた盛大に飛び付いていく
別に親に強制された訳でもない、父の豪にも母の桜にも厳しく指導された訳では決してない
この考えは自分でいつの間に身に着けていたものだった。自分が道場を継ぐと分かってからそういうものだとばかり思っていた
そんな悠に勇の力強い言葉は胸に深く刻まれる
「ほら堅い!!もっと軽く考えて良いんだって!!自分らしく行こ―!!」
「だから抱き着かないでください!!先輩は自分に素直になり過ぎです!!」
きゃあきゃあと騒ぎながら抱き着き抱き着かれ、二人はすっかり逆上せるまで温泉を堪能するのだった
茹でだこになって上がってきた女子二人に男子二人が呆れるのはこの約30分後のことである
裸の付き合いは仲を進展させるらしい
「はー、いい湯だねぇ」
「今日一日相当なドタバタですからね。正直、疲れました」
男湯でくつろぐ二人の仲も今日あったとは思えない程度には深まり、少なくとも郁斗は郁己の事を腹の内は探れないが頼りになる先輩、と言う認識をしていた
一言余計な気もするが、腹の内にしまっている以上悟られることもないだろう
「……足、痛むのかい?」
「いえ、せっかくいいお湯ですから。少しでも良くなればと」
人一人分のスペースを空けた隣で右ひざの辺りを揉んでいる郁斗に怪我の話を聞いていた郁己が心配して聞いてみるが、別に郁斗は膝が痛むわけではなく、折角の温泉なのだから湯治のような効果を期待してのマッサージだった
「サッカーを続けたいから?それとも、悠ちゃんを心配させたくないから?」
「……どっちも、っすかね。あいつ女の子になってから結構情緒不安定で、出来るだけ他のことで心配とかそういうのさせないように気を付けてるんです」
心から出た言葉だった。悠は、強い。肉体的にも精神的にもだ
だが、如何に強靭でも人である以上、弱る時がある
今の悠がその状態だ。かつて、怪我をしてサッカーが出来ないと分かった時の自分を目尻に涙の跡を残しながら必死に励ましてくれた親友(悠)の表情が郁斗の頭には常にチラついていた
「あいつはずっと俺を励ましてくれました。だから俺は腐らずにここにいます。次は俺の番です」
「はー、青春だねぇ。聞いてるこっちが恥ずかしくなって来るよ」
自分たちの昔のことを思い出しているのか、郁己は恥ずかしそうに頬を掻きながら郁斗の話を聞く
かつての親友を今の恋人にしている彼には何か思うところがあるらしい




