色んな意味での先輩とダチになりまして。
だから、悠は最終的に諸々のことを自分一人でカタを付ける。そう言う腹積もりで今を過ごしていた
「私はさ、言ったと思うけど郁己のことは漠然と好きになってたんだよね。将来、隣にいるのは郁己だなぁって、何となく思ってて郁己がそれに答えてくれた。だから私達、実はカップルらしい告白って実はそんな経験無いんだよね」
「はぁ……」
何が言いたいのかいまいち掴めない悠は気のない返事をして次を待つ
言葉を紡いでいく勇はどこか遠い目をしていて、でもそれはとても魅力的な女性に悠の目には写った
「でさ、悠ちゃんとは生まれた境遇も、女の子になっちゃったことも、名前も、支えてくれる幼馴染がいるってとこもそっくりだけど性格は正反対だと思うんだよね。悠ちゃんは何て言うか超真面目、お堅い感じ」
「そう、ですか?確かに先輩みたいに突拍子も無いことはちょっと思いつかないですけど」
「あはははは、お転婆だってはよく言われる。昔は有名な悪ガキだったんだけどね。今では立派に女子してます」
悠と勇は沢山の似ている点があるが、その性格だけは正反対だと勇は言う。実際のところそれは事実だろう
これは道場を継ぐ、という目標が常にあり続け、自分を常に律してきた悠と悪ガキと称されるほど奔放に成長してきた勇との環境の差だろう
そして、二人はこれからもそうやって成長していくに違いない
悠はいつか道場を継ぎ、高嶺流師範に。勇は郁巳と結婚し、自分がやりたい道を進むのだろう
お互いに何処かで壁にぶつかるだろう。そして、性格的に分厚い壁にぶつかった時に難儀するのは恐らく悠だ
真面目な悠は壁にぶつかった時に真正面から突破しようとするだろう。それは非常に難儀するに違いない
いや、現在進行形で大きな壁にぶつかり、その自信を瓦解してしまいそうになっているところだった
「好き勝手に生きてる先輩からの上手に女の子していくコツを教えてあげよう」
「コツ、それは是非教えてほしいです」
「自分に素直に、それだけだよ」
「え、それだけですか」
のらりくらりと壁をよじ登っていった勇と悠ではそもそもに壁の攻略法が違うのだろう。それも含め、これから女子として生きて行かなきゃいけない悠に贈る言葉は『自分に素直になる』これひとつだった
「そ、悠ちゃんは堅すぎると思うんだよね。こうならなきゃならない、こうでなきゃいけないって考えてるような気がする。確かに大事だけど、それって上手く行かなかったときすっごい辛いと思うんだよね」
少なくとも私はちょっと無理かな、と笑う
悪ガキ、とかつての自分をそう評価している勇は悠の様には生きて行くのは出来ないというのは当然なのかもしれない
そして同時に勇と同じように生きて行くのは自分には難しいだろうと悠は思った。言われてみれば確かに自分は常にこうあらねばならないと考えて生きて来たような気がする
それを突然変えるのは、まぁ難しいことだろう。なんたって、それが自分なのだから
「だから、『自分に素直に』。こうしなきゃいけないんだ!!じゃなくて、本当は自分が何をしたいのか、本当に我慢しなくちゃいけないことなのか。まぁ、ようは楽しもう!!」
「素直になることが、楽しむこと、ですか?」
悠にはその二つの言葉がリンクしなくて首を傾げる
素直になることがどうして楽しむことになるのだろうか、と
「簡単だって、楽しいことは楽しい!!やってみたいことはやってみる!!嫌なことは嫌!!そんなんでいいんだよ。悠ちゃん、実はやってみたいこととか無いの?」
「うっ」
やってみたいけど実は隠している。そんなことは無いのかと聞かれて、悠はうっと言葉に詰まる




