色んな意味での先輩とダチになりまして。
先導してドアに近づいていた男子二人に慌てて指示を出して飛び出すが、武道をまがりなりにも習っている郁己はともかく、郁斗の反応が明らかに遅れていた
「やっば……!!」
「まずはテメエからだ、小僧!!」
振り上げられたのは鉄パイプ。成人男性の膂力、見るからに鍛えている男の手で振るわれたのなら当たり所が良かろうと悪かろうと大怪我は確実
「郁斗君!!」
「――っ!!!!」
間に合わない、そう思った勇と郁己の二人は目を見開いて手を伸ばすが
「何してんだテメェ」
結果は予想されたものではなく、腹の底から冷え切るような冷たい声と殺気を纏った悠の一撃で声すら上げられずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた男の姿だった
「郁斗、大丈夫?」
「お、おう、おかげさまで怪我一つないぜ」
「ん、良かった」
明らかに間に合わないと思われたタイミングと距離を一瞬で詰め、返り討ちにして見せるという最もとんでもない事をした悠はあくまで普通に郁斗に話しかけ、あくまで普通に応対する
彼女がさっきまでいたところの床がべっこりと凹んで割れていることは郁斗は見なかったことにした
「……何が起こったの?」
「勇、深く考えちゃだめだ。世の中には神様だっているんだ、これぐらいはどうってことない、そうだろう?」
ポカンとしている年上組二人も気にしない方向で行くらしい。気にしないったら気にしないのだ
「じゃ、さっさと帰ろ?とりあえずまた気絶させたけど、起きて来る可能性は否定できないし」
果たして気絶で済んでいるのだろうかとかそういう事も気にしない。世の中は不思議なことで一杯なのだ
三人はそう深く胸に刻み、念のために男が息をしているかだけそっと郁己が確認してひったくり犯が根城にしていた廃別荘を後にしたのだった
「いやはや一時はどうなるかと思ったけどどうにかなるもんだね」
「最後のは冷や冷やしたけどね」
「個人的にはバスに乗り遅れそうになったことの方が肝が冷えました」
「のんびり歩いてたらチェックイン出来なくて結局野宿コースの可能性すらあったからな」
ギリギリのところでバスの時間にも間に合い、予約していたホテルにようやくチェックインを済ませ、金城家側が用意した部屋へと集まって色々あり過ぎた一日への感想を各々口にしていた
「あー、疲れたしご飯まではもうちょっと時間あるし私達お風呂入って来るね」
そうやってしばらくの間はゴロゴログダグダしていた四人だが、あれだけ動いた後だ。まだ五月で涼しい那須の気候とは言え掻いた汗はべた付くし、ここはひとっ風呂でもして疲れを癒やすのが一番である
特に女子歴も長くなりつつあるらしい勇が我慢できない様子だ
「了解。俺達も行くかい?男同士裸の付き合いと行こうじゃないか」
「そうっすね。だいぶ汗もかきましたし」
これには男性陣も特に異論はない。多少の汗ばみくらいなら男なら気にもしないがゆっくりするならやはり風呂が一番なのは男も変わらない。二人も入浴の方向で固まり、各自が着替えやタオルを用意し始める
「そっか、じゃあ三人ともいってらっしゃい」
その中悠だけは不動のまま、入浴の準備を始めた三人を尻目に座椅子の背もたれにぐったりともたれ掛かっていた
「何言ってるの悠ちゃん。悠ちゃんもだよ?」
「えっ、いや、流石にまだ女湯はハードルが……」
「そうやってると何時までたっても慣れないよ。ほら、早く行くよ」
「ちょ、先輩?!足掴んで引き摺るのは!?待って!!タンマ!!捲れます、裾捲れますから?!行きます!!行かせてください!!」
パンツの色は水色だったらしい




