色んな意味での先輩とダチになりまして。
かつては別荘に使われていたのであろうが今は見る影もないその廃墟の前に中型のオートバイ二台とバンタイプの軽自動車、計三台が止まっていた
まだ真新しいそれらは明らかにその廃墟と呼ぶにふさわしい別荘と同じ年数を負ったものではなく、ここ最近ここにやって来たものであるのは間違いない
別荘の入り口も、周囲を植物が覆う中そこだけが人一人通り抜けられるように刈り取られている辺りもその不自然さを倍増しにしていた
ひったくりなんて一歩間違えればその場でお縄な様な犯罪行為を繰り返すような連中だ、そこら辺の注意深さや計画性は元から崩壊しているのかも知れない
今はまだ、上手く行ってるというだけなのだ
「とりあえず、突っ込むね」
「正気ですか」
「高嶺さん、諦めて一緒に突っ込んでね」
「あ、これ木刀な。値段とか重さも考慮したから丈夫でも何でもないが鞘付きだ」
「もっかい言うぞ、正気か?」
まともな思考回路をしているのはいないのかと頭を抱えるのは悠一人のみ
残りは元から気にもしていないのと、もう慣れたのと腹くくったのしかいない。どのみち、此処でどうにかしなければ悠と郁斗の二人は仲良く野宿なのでやるしかないのだが
「それじゃ私が玄関のドア蹴り飛ばすから、開いたら私と悠ちゃんで連中の相手ね。郁己と郁斗君は悠ちゃんのバッグ回収、見つけたら撤退で」
「人数は精々多くても5人くらいじゃないかな?頑張ってね」
余裕綽々と言った様子で進める先輩二人は後輩を差し置いてズンズンと突き進んでいく
危機感や警戒というのは無いかと悠は思うのだが、郁己曰くその心配はしなくていいとの事
一体どこ情報なのかは誰も分からないがその情報を勇は完全に信用して突き進んでいく
「郁斗、ホントに大丈夫なの?」
「相手はただのチンピラの集まりだろうよ。ひったくりなんて程度の低い犯罪してるくらいだしな。ナイフくらいは持ってるだろうからそこは注意だ」
「はぁ~~、郁斗も先輩達に毒され過ぎなんじゃない?」
何度目かもわからないため息と共に頭を抱えつつ、足は前の二人を追っている悠も実際のところかなり命知らずだということに本人が気づくこともないまま別荘の前に来たところでようやく覚悟を決める
「あーもう、じゃあお願いします」
「おっけー!!それじゃ、たっのもー!!!」
ドーン!と扉を勢いよく蹴り開け、四人は中にいるであろう窃盗グループに宣戦布告したのだった
後ろの方で頭を抱えているのとただただ笑顔を浮かべているのと諦めたような表情をしているこのカオスっぷりの方が色々と酷いのはご愛敬である
「すみませーん!!誰かいませんかー!!」
「先輩、それもうご近所にお邪魔する時のセリフですよ。せめてもうちょっと緊張感持ちましょうよ」
たかだかと声を上げ続ける勇に抱えたままの頭が上がらない悠は役に立たない男衆二人の背中をぶっ叩いて室内に押し込む
「このままだと先輩一人で突っ切るんでせめて形だけでも斥候してきてください」
「いやー、あんだけ大声出したら大丈夫でしょ」
「何が大丈夫なのかはさっぱりわかりませんけどね」
アハハハと空笑いする二人も実は色々と諦めているのかもしれないが、二人もずんどことその廃墟の玄関へとお邪魔する
「そういうこった」
「「「「ん?」」」」
するとその先に進まずその場で騒いでいた四人の耳に聞き慣れない男性の声がした
揃って首を傾げて見つめた先は如何にもな筋肉質の巨漢が立っていた
「テメェら、人様の家の前でぎゃあぎゃあと騒いでんじゃねぇ。何のつもりか知らねぇが玄関まで蹴破りやがって、どういうつもりか教えてもらおうか」
「いや、ここアンタの家じゃないでしょ?」
「それに何のつもりも何も心当たりはあるんじゃないかな?」
「警察に突き出すって選択肢がないのも後ろ暗いことがあるからだろ?」
「と言うかお風呂入ってます?ちょっと臭いますよ……?」
三者三様ならぬ四者四様とも言うべきか最後の悠に関してももう単純に悪口になっているが四人揃って目の前の巨漢とも言うべき男を全く意に介していないのが分かる
「よぉし、テメェらが俺らをナメてかかってるのは分かった。痛い目見ねぇと分からねぇようだな」
本人にもそれは伝わっていたようで、額に青筋を立てながらポキポキと首を鳴らして拳を上げて来る
「お、やる気~?私ら強いよ?」
「ほざけガキ共。ひょろい野郎二人に女二人に何が出来るってんだ?あ?」
彼の言っていることは何も間違っていない。たかが高校生4人、明らかに自分の体格と力に自信があるだろう彼からすれば赤子の手を捻るのとそう大差も無いはずだ