色んな意味での先輩とダチになりまして。
「私は、正直かなり甘い環境で過ごせたから。元に戻るつもりもないし、悠ちゃんみたいに大事件っぽいのに巻き込まれた訳でもないし、その犯人を捜す。なんて目的も無い。私はただ女の子になって、いやまぁそれなりに大変だったけど結構漠然とそのまま郁巳を好きになって此処まで来たからそんなに偉いことも言えないんだけど」
何だが支離滅裂な話のような気もするが、それは間違いなく悩んでいる悠を元気づけようとするものだった
間違いなく、悠の為に考えて発してくれている思いなのを悠はひしひしとその身に感じる
先輩として、たった一年しか歳は変わらなくとも、必死で伝えようとしてくれている姿は悠にとって実の姉の様に頼もしく見えた
「そんな私でも悠ちゃんに教えてあげられることは沢山あるから、とりあえず今はその内の一つね」
これが、女の子の身体の動かし方。そう言って、動き出した勇の披露した玄帝流の武術の数々は後の悠に大きな影響を与えることとなった
「凄い……」
色んな意味で先輩の勇が必死になって伝えた言葉を真摯に受け止め、いつの間にか解いていた構えの事など一切考えずに悠は目の前で繰り広げられている凄まじい演武の様子に息を飲んで見入っていた
玄帝流を受け継いだ金城 勇のその動きは流れるように自然で、言い表すのなら水のようにスルスルとしかしながら時に激しく、時に猛烈な勢いで動き回る
一撃必殺を信条とする高嶺流とは違い、恐らくは全体の繋がり。流れを掴み、カウンターや掴み技、投げ技が得意だろうその形態は悠のそれとは全く違うものだがそれでもその完成度の高さに悠は引き込まれるようにその動きを視線で追う
勿論、追うだけではない。見ながら自分が体得していない微妙な重心の動かし方を察し、それを糧として吸収していく
完全に我が物とするのはまだしばらく先となるだろうがキッカケとしては充分すぎるもの
「ふう、どう?見せただけだけど何か掴めそう?」
時間にして十分、一通りの動きを見せた勇は軽く息を整えた後に振り返って悠の表情を伺う
その悠は既に勇そっちのけで先程見たばかりの動きや重心の動かし方の確認などを始めており、おぉ、と勇を感嘆させた
「こっちをこうして?ちょっと違う……、歩幅が合ってないのはこの際我慢して、これなら……」
「勉強熱心だねぇ」
「あ、すみません先輩」
あまり武芸に対してあまり向上心のない勇に対して、ストイックに自分の力を高めていく悠との差に感心と違いを実感しながらどことなく嬉しそうに笑うと熱中していた悠が慌てて動きを止めてぺこりと頭を下げる
「良いよ良いよ、私からすると凄い新鮮だからさ。目標のためにそうやって頑張るの」
「目標っていうか、俺の場合は使命感って言うか、やんなきゃいけないことと言うか……」
「そういうのをもう持ってて、それに必死になれることが凄いんだって。私だって、夢とか目標はあるけどまだフワフワしたものだもん」
あと、素が出てるよと笑って言うと悠は更にわたわたとしだして勇は笑みを深める
「さて、後は動いて覚えようか。付け焼刃になるとは思うけど、それでも動きは変わるでしょ」
「はい!!あれ、でもなんでこんなことを……?」
荷物を取り戻すだけなら犯人を捜しだして、警察等に届ければいいんじゃないかと気づいて首を傾げた悠
「だから、私達だけで犯人とっちめるために決まってるじゃん」
「え゛っ」
それにまるで当たり前と言わんばかりの満面の笑みに対して、ただただ表情を引き攣らせ、二人の臨時稽古は続く
「あの、これもし郁斗達が見つけられなかったらどうするんですか……?」
「んー、野宿?」
引き攣った笑みが半泣きになりかけたのは言うまでもない




