色んな意味での先輩とダチになりまして。
とりあえず、ここで聞けた話はこうだ
・ひったくりが発生し始めたのは大体一週間前くらいから
・場所は複数個所、割と無作為だが道路に直結している駐車場や歩道に多くみられる
・時間はまだ人の少ない朝方や夕方、または人通りの少ないタイミング
・犯人は少なくとも実行犯は二人組。運転担当と荷物を奪う男の二人組
・一日に2件程度の被害が報告されており、怪我人も出ていることから犯行場所を中心に警察が定期的なパトロールに来ている
「ウチが知ってるのはこのくらいだけど。なんだってこんなことを聞いてるんだい?お兄ちゃん達お巡りさんじゃないでしょう?」
「僕ら大学の犯罪研究サークルに所属してて、たまたま観光に来たらひったくりが横行してるって聞いたんで」
「へぇ、そうなのかい。でもまあ危ないことはしちゃいけないよ?こういうことは警察に任せるのが一番だよ」
「分かってますよ。僕らも怪我したくありませんから、もし何か分かったら警察の方に相談します」
人の良さそうな笑顔でおばさんと話しながら次々と情報を引き出す郁己に舌を巻き、よくもまぁそんなサラッとそれっぽい嘘をつけるな、と思いつつ郁斗は聞き出せた情報を地図に書き込み終える
被害件数は総数11件。実際は犯罪研究サークルなどには入ってないのでどんなものなのかは分からないがこれは結構な被害頻度ではないのだろうか
思えば悠が被害にあった時もいやに警察の到着が早かったような気がする。これだけの被害が出ているのだからもしかしたら常に周囲を警察車両がパトロールしているのかもしれない
それを掻い潜るのだから、犯人は相当のやり手か激運の持ち主か
何にせよ、骨が折れそうなのは間違いなかった
「郁斗君は何か聞きたいことあるかい?」
「え?あぁ、それなら逃げた方向って分かります?」
「逃げた方向かい?うーん、私じゃ分からないけど被害にあった人の何人かが知り合いだからちょっと聞いてあげようか?」
うーんと郁斗が悩んでいると郁己がこちらに話を振って来る。ならばと郁斗はダメもとで聞いてみるとこれまた意外なことが聞けそうな雰囲気になった
「良いんですか?」
「良いよ良いよ。丁度暇だし、ちょっと待っててね」
思わず聞き返してしまうくらい軽いノリに少し驚いているとおばさんはそそくさと受付の裏側のスタッフルームに引っ込んでしまう。恐らく携帯電話を使って聞いて来てくれるのだろうが暇だからと言ってそれで良いのかと思ってしまう
「ところでなんで逃げた方向なんだい?」
「いえ、よく考えたらあの犯人、何故か悠からバッグを奪った時その場でUターンしたじゃないですか。普通、逃げるならそのまま加速して真っ直ぐ行くのが筋だと思うんですよ」
理由を聞いて来た郁己に素直に思ったままの疑問をぶつけ、それにと更に言葉を続ける
「ここ、結構離れてますけど大体20分前に俺らがいたバス停よりも下の場所でひったくりが起きてるんです。で、ここを真っすぐ昇って行くとバス停に着きます」
「ふむふむ」
「つまり、俺たちが着く20分前に起こった犯行現場から逃げて離れていたところにたまたまひったくり犯からすると格好の獲物になるポジションにいた悠がいて」
「欲が出た連中は悠ちゃんのバッグを奪った。でもそれじゃわざわざ方向を聞く理由にならないんじゃ……」
「お兄ちゃんたち~、逃げた方向聞けたよ~」
郁斗が今出来る推理を披露しているところでスタッフルームに引っ込んでいたおばさんが元気な声を上げて戻って来て、一旦中断
郁斗は地図をおばさんの方向に向け、方向を記入してもらい方向を確認する
「なんか、思ってるより本数が多いんですが」
「なんか聞いてみたらたまたま警察の人が話してるの聞いたとか、他の人から聞いたとかで結構お話が聞けてね~、何か分かりそう?」
「ハイ、ちょっと思った事があるんでもうちょっと調べてみます。あとこの辺って家多いです?」
「家ってより別荘、かなぁ。この辺少し行くと別荘地だから」
「もしよろしければこの辺の土地に詳しい不動産屋さんとか教えてもらっても……」
「あぁ、それなら会長~、ちょっと良いですか~」
方向を見て、何か勘づいたらしい郁斗が郁己に変わって次々と情報を聞き出していく。それを郁己は感心したように眺めている
「ウチら観光協会の会長ならこの辺の不動産屋さんとも仲が良くてね~、聞いてみたら快く紹介してくれたよ。此処に行ってみてくれってさ」
「ありがとうございます」
またスタッフルームに引っ込んでいたおばさんが再び戻って来ると何やらメモを二人に渡し、事情を説明してくれた




