色んな意味での先輩とダチになりまして。
「郁己先輩」
郁斗が店を出ると郁己は既に先程ひったくりにあった駐車場がある方向へと歩いていた
「ん?あぁ、郁斗君どうしたの?」
「どうしたのはこっちのセリフですよ。金城先輩には追い出すように先輩のところ行けって言うし、こっちは何が何だか」
駆け足で追いつき、声を掛けると何とも気の抜けた声が返って来る
勇がそういうから来たのに本人は郁斗が何故自分のところに来たのかさっぱりわかっていないようで郁斗は肩を落す
この人たちは何をするつもりなのか、郁斗にはさっぱり見当がつかなかった
「勇が?んー、じゃあ男二人は頭脳班として動けって事かな」
成る程ねぇ、なんて呟きながら郁己はコツコツと靴を鳴らして割と足早に坂道をドンドン昇っていく。意外と早足なのか、急いでいるのかは本人の表情からは察することは出来ないがもし前者なら勇や悠達に歩調を合わせていたという事だろう
郁己もまたこっそりとした気配りが出来る男なのかもしれない
案外モテるんだろうな、なんてどうでもいいことを思考の片隅に浮かべながら郁斗は素直に疑問を述べる
「頭脳班、ですか?」
「そ、警察の捜査を待ってたら君ら今日の宿も無いし、僕らであのひったくり犯のいる場所を突き止めるとしようじゃないか」
「……マジで言ってるんですか?」
ハッキリと言って正気とは思えなかった。捜査のプロである警察がまだ逮捕に至っていない相手である
仮に被害がまだ軽微で本腰を入れていない可能性があるとしても普通に考えて素人が警察より先に犯罪者の居場所を突き止める、なんてことは出来る訳はない
「割と本気だよ。なんたってまぁ、僕のお姫様がご所望だからね。僕はそれを叶えられるように最善を尽くすだけさ」
それでも、郁己はやるらしい。勇が望んだからという理由だけでだ
それ以外にも何か確信めいたモノを持っているような気もするが、それだけでもやれるだけやってみるという姿勢は郁斗には少し、輝いて見えた
「……因みに、見つからなかった場合は」
「それなら大丈夫。警察に事情を説明すると泊めてくれるらしいよ、警察署に」
カラカラと無責任に笑う郁己にもう一度郁斗は肩を落としてその後に続く、どのみち手伝わなければ自分たちは野宿か警察署で一晩を明かすハメになるのだ
折角の小旅行をそんなことで潰したくない
「……はぁ、分かりましたよ手伝います。俺も悠を怪我させた奴には一泡吹かせてやりたいんで」
「その意気その意気。じゃあ早速聞き込みから始めようか。捜査は足から何て言うらしいしね」
それに、郁斗も少しだけとは言えど悠に怪我をさせたひったくり犯達には心底はらわたが煮えくり返っていたのだ
やるなら本気、そう心に決めて郁己の隣を歩く
「うんうん、良いねぇ青春だ」
満足そうに笑う郁己の言葉は車道を通る車の音でかき消されていた
即日即席の素人頭脳班がまず向かったのは那須温泉郷の観光案内所
ここなら常に人がいるし、ここら辺で起きている事件事故には敏感な筈だ。なんせこの土地自体が観光資源なのだ。事件事故で観光客の足が遠のくのは真っ先に避けたい事案である
「ひったくりが起き始めた頃ねぇ。大体一週間くらい前だったと思うわ」
「場所は分かります?」
「確か此処より上の那須岳に昇るロープウェイがある駐車場じゃなかったかしら。あそこは広くて道路に直接接してるからバイクなんてスイスイだろうしねぇ」
案内所の常駐員のおばさんを捕まえ、ここ最近連続しているというひったくりについての詳細を聞いてみるとやはり事細かく把握しているらしく次々と話が聞けた
いつ頃から始まったのか、被害の件数、場所、日時などを郁己が聞き出し、郁斗が案内所で販売していた地域マップにその話をかき込んで行く




