どうしてこうなったのか
「じゃあまずは髪のお手入れの仕方ね」
「よろしくお願いします」
自慢の髪を維持するための特別講座、桜直伝の中でもこれだけは手を抜かない方が良いもの
そして一番手間のかかることでもあろう。しかしサボると後が怖いので悠は黙って習うことにする
浴室に取り付けられた鏡の前に座り、極力自分の身体を見ないように心掛けながら次を待つ
「まずは濡らす前に髪を梳かします。さっきやったばかりだけど改めて、今度は悠ちゃんの手でやってみてちょうだい」
「えっと、こう?」
ブラシを手渡され、とりあえず髪の毛の根元、頭からブラシを入れた悠に桜はブブーと手でバッテン印を作って不正解の意を示した
どうやら悠のやったそれは一番の間違いで、特に悠や桜のようなロングヘアは真っ先に毛先のブラッシングをするのだという
毛先のほつれを取り、次にさっきのように髪の毛の根元をブラッシング、最後に根元から毛先までブラシを通す、と言うのが正しいやり方らしい
このやり方をしないと頭皮や毛根にダメージが蓄積され、将来禿げるとの事で絶対に守ろうと心に誓う
「ところで何で濡らす前に梳かすの?」
「濡れると絡まったままほどけにくくなるのよ。そのままシャンプーすると無理な力がかかって千切れたりするの」
教わった通りに髪を梳かしてみると最終的には面白いくらいに根元から毛先までスルスルとブラシが通っていく。妙な達成感と髪の毛のほつれが取れてか、心地の良さは先程桜にブラシをかけてもらった時より上に感じていた
「次に濡らすのだけれど、男の子の時みたいにちょっと頭の上から被っただけじゃ髪の毛が長い分、十分に濡れないわ。しっかり濡らすこと」
がしゃがしゃ掻きむしるのも当然ダメね、と釘を刺され悠はシャワーの栓を開けて頭からお湯を被ってみる
言われた通り、この間まではこのちょっとの湯量で頭が十分に濡れたものだが今では頭皮までお湯が来ていないような気がする
髪の毛自体も毛先の方や裏側は全然であり、そこが濡れる様にしっかりと手櫛を通しつつシャワーを浴びる
「しっかり濡れたらようやくシャンプーよ。注意事項はしっかり泡立てること。原液のまま頭に乗せたら毛穴に詰まって逆に汚れるって悠ちゃん知ってた?」
「シャンプーが原因で汚れるのか……」
たっぷり1分使ってようやくシャンプーのボトルに手を付ける。今までならこの時間の内に既に頭を洗い流しているところだろうから、女性の髪の手入れと言うものが如何に大変かを実感する
「それでしっかり泡立てたらまずは頭皮に馴染ませること。髪だけじゃなくて頭皮も洗わないと髪の毛がベタベタになるからちゃんと洗うのよ?」
桜がいつの間にか泡立てていたシャンプーを悠の頭にのせると髪の隙間から頭皮を揉むようなマッサージと共に全体に馴染ませていく
結構気持ちいもので思わず目を細めているとやって見なさいとバトンタッチ
見よう見まねの状態だがきゅっきゅっと指で揉むようにシャンプーを馴染ませていく
「そしたらこのシャンプーブラシの出番よ。指だけでも良いのだけれど、これを使うととってもすっきりするしマッサージ効果もバッチリ。悠ちゃんに合うシャンプーを買いに行くときに一緒に買いましょ」
そうニコニコ笑顔で取り出したのは中学の美術の授業の時、版画で使ったバレンと言う鍋蓋のような道具に、根元が太く、先端が細いゴム製のブラシが付いた道具だ
前から何に使うものだろうと悠は首を傾げていたのだが、どうやら名前の通り頭を洗うときに使うもののようだ
「これは洗う順番と使い方があるから要注意。間違えると髪の毛絡まって痛い思いをするわ」
曰く、使うときは左右や上下の一歩方向にごしごしと洗う感じなのだそうで、間違っても円を描くように洗うと短髪の人はともかく、ロングヘアは文字通り痛い目を見るらしい
痛いし絡まるしほどけないしでロクなことはないとの事
順番はまずおでこの生え際から、頭のてっぺん、その後ろ、後頭部、襟足と前から後ろに洗っていく感じだ
後頭部は上手く洗えていない人が多いというちょっとした豆知識にへぇ、と頷きつつ悠は言われた通りにブラシを動かしてみる
「あ、これも気持ちいい。しっかり洗ってる感じがする」
「でしょ~?しっかり洗えるうえにマッサージ効果で白髪とか脱毛も防止よ」
「そう言えば女の人でも禿げるんだね」
「禿げる人は禿げるわ」
いつだか女性用カツラのテレビ通販やってたなと思いつつ、念入りに3回ほど繰り返し洗っていく
最後に絡まないように髪全体にシャンプーを馴染ませ、シャワーでシャンプーを洗い流す
「此処で注意なのがシャンプーはしっかり流しきること。一回の濯ぎじゃ流し切れてなことが多いから、もっとしつこいくらい濯いでいいわ。ぬめりがなくなったらそれでいいけど2回以上はやっといた方が良いわよ」
さっき聞いたようにシャンプーが残って汚れになるらしく、しっかり3回、頭皮を揉んだりしながら濯ぎ切る
「これでシャンプーは、終わりよ」
「まだ続くのか」
女子のお手入れはとても長い