色んな意味での先輩とダチになりまして。
「ちょっと席外すね」
「あ、私もー」
そうやってしばらく話をしてる中、トイレに行く悠とそれに一緒に行くことにした勇が席を立ちあがる
「おっと、大丈夫?」
「あ、すみません……!?」
そこで悠がバランスを崩してグラリと身体を傾けた。咄嗟に郁斗が動くがそこは危なげなく勇がキャッチし、悠をギュッと胸に抱きしめた
それに悠はあわわわと顔を赤くしながら急いで離れる。自分の胸と勇の胸が密着する形になって柔らかく変形した様は郁斗と郁己の視線をガッチリと掴むが悠からしたらまだ慣れる女性の胸に触れてしまった事態であり、そんなことには思いも及ばない
勇はその視線に気付いて釘を刺すような視線をニコニコ笑顔で男二人に向けていたりするが
「やっぱり何処か痛いの?」
「あ、いえ、私、その、バランス感覚悪くて……」
「ふーん?」
急に体勢を崩した悠にやっぱり何処か痛むんじゃないかと聞いてみる勇だったが本人に理由を聞かされ、半ば強引に飲み込む様にそれを納得させる
わざわざ掘り下げることでもないし、気にかかるという訳でもなかったのか二人は連れ添うようにトイレの有る場所まで仲良く歩いて行った
「なんだって女子ってああも一緒にトイレとか行ったりするんだろうねー、ちょっと不思議」
「そうっすね。悠もその内そうなるんすかね」
「ウチの勇も気が付いたら女の子の友達と一緒に連れだってトイレ行ってたよ。いやいいんだけどさ」
「上手く女子に溶け込めているってことですもんね」
「そうそう、って」
「「……ん???」」
トイレに消えていった女子二人を見ながら何気なく会話していた男二人はここで何かに気付く。目を合わせるとお互い、まさか……。と言った具合の驚きの表情をしていて慌てて周囲を確認しながら野郎二人が顔を近づけてこそこそと話をするという珍妙な光景がそこに出来上がった
男子組が何かに気が付いた様にコソコソと話を進める中、悠と勇はトイレを済ませて少し立ち話に講じていた
「悠ちゃん家は結構厳粛なんだね。ウチはゆるゆるだよー、私も妹も道場継ぐ気ないし、お父さんたちもそれでいいって言ってるくらいだし」
「え、継がなくて大丈夫なんですか?!ウチは一子相伝ですし、禁じ手とか門外不出とか、色々決まりがあるので中々そういう訳には行かないんですよね……」
同じ武術家の家系に生まれたが、二人のその取り組み方の姿勢はかなり違う
悠は道場を継ぐことを目標とし、日々研鑽を積んできたのに対して、勇は双子の妹ですら道場を継ぐつもりはなく、勇自身もそれ程武術に躍起になって取り組んでいる訳ではないらしい
これは一子相伝の高嶺流と一族や門下生に広く流派を広げた玄帝流の差と言うやつなのだが、それは二人にとって大きな考え方の差というものになっている。悠からすれば道場は継いで当然、自分がなさなければならないことだが、勇からすれば継いでも継がなくても良いもの
武術一筋で頑張って来た悠にとって、同じ武術家の生まれである勇のその考え方はショッキングなことであった
「一子相伝の高嶺流は大変そうだね……。そうそう、そう言えばさっきからどーしても気になって仕方ないから質問なんだけど」
手を洗って、濡れた手を取り出したハンカチでふき取りながらクルリと反転し、壁に寄りかかっていた悠に向き合うと
「なんで『男の子みたいな重心の取り方』してるの?」
突然の指摘にギョッと悠は目を剥いて身体を強張らせる
出会ってからわずか数時間、悠の目の前に立つ少女は見てくれだけであれば完全に女子の悠の異常な点をこの僅かな時間で発見し、指摘して来た
「あ、ごめんごめん。武術やってるって言うからどうしても気になってさ。もしかして高嶺流でそういう変わった重心の取り方するのかなってさ」
「え、あ、その……」
あまりに唐突に始まった核心を突く指摘に、悠は都合の良い言い訳が思いつかずただオロオロとすることしか出来ない
更に状況を悪くしたのは勇自体に全くの悪気は無いことだ。武道を嗜むものとして、気になった点を質問しただけで、彼女は一切の事情も知りえない




