色んな意味での先輩とダチになりまして。
左手に見える大きな白い鳥居を視界の端に収めながら、郁斗は二人分の荷物を持って先に降りた悠を追いかけた
「デートかい?楽しんできなよ」
「ははは、ありがとうございます」
降りる時に運転手のおじさんから茶化されたのを適当にスルーして降車したところでバスは出発。どうやらこの先にあるロープ―ウェイ乗り場が終点らしい
「涼しいな、山に来たって感じだ」
「ねーねー、あの神社行ってみようよ」
「その前に合流する予定の人達に合うんだろバカ」
「ちぇー」
口だけで実際のところはそこまで拗ねてもいない悠を置いて、郁斗は先にバスが向かった道とは一本左に外れた坂道へと足を運ぶ
そこそこ急な坂道ではあるが200mもあるけば今回泊まるホテルが見えてくる筈だ
時刻はまだ11時でチェックインも出来ない時間だが、とりあえずはそこで待ち合わせという手筈になっている
さてあともうひと踏ん張り、と言ったところで事は起きた
「わっ?!」
後ろで悠が驚く声が聞こえ、転んだのかと後ろを振り向くとそこには予想とは全く違う光景が郁斗の目に飛び込んできた
そこにあったのは悠が腕に下げていたトートバックを半ば吹き飛ばされるような形で強引にバイクに乗った二人組が奪い去って行くものだった
「悠?!」
スピードの乗ったバイクに無理矢理持っていたバッグを奪われたことで歩道と車道の間に勢いよく転がった悠に慌てて郁斗は持っていた二人分の荷物を放り投げて駆け寄る
「大丈夫か?!」
「あいててて、うん、とりあえずは。ちょっと擦りむいたくらいだと思う」
結構勢いよく転がったが、そこは紛いなりにも武道家の息子。体が変わっても反射的に受け身を取っていたようで本人は平気そうな顔をしている
こういう時の悠は痩せ我慢をしないタイプなのは知ってるので郁斗はホッと息をついた
「とぉりゃあああぁぁぁっ!!!」
一息ついたところで次に聞こえて来たのは随分と気合いの入った女性の声とガッシャーン!!と何かが派手に倒れ、擦れる音
今度は何だ?!と立ち上がりかけていた二人が見たのは、先ほど鞄をひったくって行ったバイクに派手に飛び蹴りをかます一人の女性の姿であった
先程のバイクは悠の左後方、つまり坂道を登ってくる形でひったくって行った訳だが、恐らくその場でUターンして今度は下るつもりだったのだろう
その速度が落ちた一瞬の内にガッツある先程の女性が登場、というところのようだ
かなり勢いよく助走をつけてドロップキックを繰り出したのか、バイクは反対車線を越えて反対側の無料駐車場まで転がっているのが見て取れた
「……あれ、大丈夫か。色々と」
「あー、お相手さん起き上がってるし、大丈夫じゃない?……多分だけど」
あまりにも強烈なインパクトにまず沸き上がったのは蹴り飛ばされた二人組の心配。悠の鞄はチャックもついてるし、中に壊れるものも入っていないから大丈夫であろう、きっと
「そこの子―!!大丈夫―?」
盛大にバイクを蹴り飛ばした女性が少し離れたその場から振り返って声を掛けて来たので悠は手を上げて応答する
意外と女性は若い。年頃だけで言えば自分たちと大差ないくらいだろう
「勇―!!後ろ!後ろ!」
「んん?あっ!?待てー!!」
そんなことをしている内に蹴り飛ばされた二人組はバイクを持ち上げ、逃げるように走り出してしまう。男性の声に反応して女性は慌てて振り返るが、バックはしっかり持ち去られている様で、駐車場には転がっていなかった
「あちゃー、やっちゃった。ごめんねー、怪我大丈夫?」
「あ、ハイ受け身取ったんで擦り傷くらいです」
「おっ、もしかしてなんか武道とか習ってる感じ?私と同じだねー」
ニコニコと形容するなら太陽のように笑う女性は悠に近づいて心配してくれる
どうやら武道か何かを習ってるようで、受け身と言う言葉に機嫌良さそうに反応していた




