色んな意味での先輩とダチになりまして。
あけちともあきさん著『ダチが女になりまして。』とのコラボ章です
俺返の本編にも関わる部分を織り交ぜておりますので楽しんでいただけると
「温泉?」
まだ悠が悠になって間もない5月のGWの頃、唐突に父である豪が悠を居間に呼び、話を聞いたところで首を傾げた
「前にGWは父さんと母さんの二人で父さんの友人夫婦方と出掛ける、と言う話をしたのは覚えてるか?」
「あー、うん。今思い出した」
「まぁ、その件でな。どうにも先方さんが急用で来れなくなってしまったらしくてね。忙しい人だから仕方がないんだが、問題は宿の方でな」
すっかり忘れていたことだが、此処まで来ると悠にも話が読めてくる
元々一泊二日の小旅行の予定を組んでいた悠の両親とその友人夫婦と一緒に宿を予約していたのだろう
それが先方さんの急用で来られなくなってしまって計画はほぼ破綻。かと言ってGWはもう目の前で宿をキャンセルするにもそれなりのキャンセル費用を払わなければならないし、何より宿の方々にも大変迷惑な話である
「そこに行って来いってこと?でも人足りなくないか?」
「向こうも二人組で宿に変わりの人を行かせるそうだ。こちらはそうだな、郁斗君と一緒に行くと良いだろう。彼なら事情も知ってるし、色々とお前の面倒も見てもらえる。彼も、足の怪我に温泉は効くかもしれんしな」
なんとも容易周到なことで相手も代理の人間を行かせることが決まっているらしい
しかもそれとなく悠が気にしていることを混ぜることで絶妙に退路を塞いで行く辺り、相当キャンセルを避けたいようだ
もしかしたら、それなりに良いお宿を取っていたのかもしれない
「んー、まぁ良いけどさ。相手さんと一緒の部屋って訳ではないんだろ?でも、流石に歳離れてるだろうから挨拶くらいで良いよね?」
かと言って流石に歳が離れているであろう初対面の人達と一夜を共にするのは中々厳しい条件だ
「あぁ、その点だが向こうも同じ年頃の二人組を寄越すそうだ。確か、お前たちの一つ上だったと思う。その位なら話の一つや二つ出来るだろう」
だが、念のために聞いてみると相手も悠たちと同年代の若い二人組を向かわせるらしい
歳が一つ上だと言うが、たかだか歳の1,2歳離れてるだけで生きて来た時代は同じと言える。それなら結構近い話題もあるだろう
存外話が合って意気投合、なんてことも考えられる
「成る程ね。俺は良いけどとりあえず郁斗に聞いてみるから」
「分かった。まぁ、郁斗君なら二つ返事をくれると思うが」
「どうだかねー」
結局二つ返事で了解を得た悠は予定日を聞き、二日後だという事で慌てて準備をする羽目になったのだった
「はああぁぁ、もう疲れた」
「かなりの超特急だったな。危うく新幹線の時間にも遅れるところだったし」
予定日当日、地元での新幹線最寄り駅たる仙台駅で大急ぎで新幹線に駆け込んだ悠と郁斗はドッカリと座席のシートに身体を沈めて大きなため息を吐いた
準備も大慌てなら朝も大慌てだ。男の郁斗の準備はそこそことして女の子になった悠の準備が予想以上に時間が掛かったのだ
「母さんもあんな張り切らなくていいのに」
「まぁ、見てくれは大事ってことだろ。特に女子はさ」
「だからと言って気合い入れ過ぎだって」
主に時間の掛かった理由はいつも早朝に予定がある時と同じくらいに起きた悠に対して大張り切りだった母の桜との時間の使い方が全く違ったことにある
悠は男だったころの感覚で起床したわけだが、桜からすればそれはそれは遅い起床でその時点で大慌てで準備に奔走させられた挙句、旅行鞄の中身を見られ、入っていた服装の総取り換えと相成った




