非日常の足音
感極まって泣き出してしまった二人が落ち着くのを待つこと10分弱
「お見苦しいところをお見せしました……」
「大事な話をしてたのにすみません……」
香と照からの重要な話の真っ最中だったというのに二人揃って大泣きしてしまったことに申し訳なささ半分、気恥ずかしさ半分でぺこりと頭を下げる
「良いよ良いよ。二人とも円満に解決できて良かったね。正直、こんな可愛い悠ちゃんが元男の子ってのがなんかインパクトあり過ぎてこの後の話が掠んじゃいそうだよ。逆に男の子だって言われてもそれを疑っちゃうよね」
「か、からかわないで話を進めましょうよ!!」
「なんで私まで一緒に撫でまわすんですか!!」
可愛いなーと二人を撫で回す香は実に幸せそうだが、じゃれ合いはこの辺で一旦終わらせ、それてしまった本題
香たちが異世界人で、異世界は沢山あって、その異世界で悪さをする連中がいて、絵梨が人外の力を使える、という話のその先をしなくてはならない
「で、その異世界の話と絵梨ちゃんの話がなんで繋がるかと言うと……」
「絵梨の力が異世界中から見ても貴重な能力だから、ってところですかね」
「おっ、郁斗君鋭いね。そう、絵梨ちゃんの持つサトリ妖怪の読心能力って言うのは異世界中からしても超S級の激レア能力。戦闘から交渉事、情報集めまで熟せるスーパー能力って訳。悪人じゃなくても欲しがる人は沢山いるだろうね」
他人の心を見ることが出来ると言うのは、その場で相手が頭の中で何を考えているのかを知ることが出来るという事だ
例えば、戦いでは相手が次の一手を何処にどのように行うつもりなのかを知ることが出来る
例えば、交渉では相手の考えている事が丸わかりになり、常に交渉を有利に進めることが出来るだろう
例えば、街を歩くだけで通りすがりの人が何を考えているのかを盗み見ることが出来、どこかで必要な情報や有益な情報が得られるかもしれない
読心と言うのは戦略、交渉、情報収集等、ありとあらゆる対人を想定する場面で絶対的な力をもたらす強力な武器になる
この力を喉から手が出る程欲しがる人は山程いることだろう
香たちが追っているという秘密結社『審判』もその能力を狙って、絵梨にちょっかいをかけようとしていたので、香たちが事前に保護した
絵梨の失踪の顛末はそう言った内容だった
「で、絵梨ちゃんを保護するために私が結界でこの空間を作って守ってたんだけど、悠ちゃんがそれを飛び越えて来たものだから」
「香と共に敵の情報を探っていた儂が一旦この場に戻り、お主を見つけたという事じゃ」
「あのオオカミみたいなのは……」
「あれは今回の審判の連中が使って来た雑兵じゃな。数多の動物死骸を継ぎ接ぎにして操る死霊術士がどうにもこの世界に潜り込んでる審判の連中の中に居るようじゃ。この近辺での動物の死骸が転がっているというのは連中が素材集めの切れっぱしをその辺に捨てておるからじゃ」
照と戦う前に襲い掛かって来たオオカミ擬きの正体も分かり、絵梨の失踪の理由も分かった悠と郁斗は一先ず、今すぐ絵梨にどうこうあったわけではないらしいとホッと息を付く
と言っても絵梨が狙われていることに変わりはない。如何にして絵梨を守るかと言うのが今後の課題になるだろう
「しかし、それよりも気になるのは悠、お主が戦ったという妙ちきりんな男のことじゃ」
「アイツがですか?」
その中で、照は絵梨の今後の処遇ではなく、悠が過去に二度対峙した男の方が気になると言う
「うむ、一件するとまるで関係のないことのように見えるが、薬剤1つで人間の身体をあっという間に作り変えてしまうなど、今この世界の技術では到底あり得まい」
「連中は魔法みたいな超常的な力もそうだけど、卓越した科学技術も持っているの。声は聞こえて姿も見えているのに、記憶が上手くできないって言うその男ももしかしたら審判の関係者で、何らかの目的を持って悠ちゃんに接触した可能性があるわ」
思わぬところで接点があるかもしれない、悠達にしてもこの一件は深く関わるべき案件かも知れない
少なくとも可能性が示されたことは悠達にとっては大きな進展だった