非日常の足音
彼女が両親と上手く行っていなかったことはもしやこの話と関係があるのではないかと、そして自身が人ではない力を使える事を他人に打ち明けることがどれ程の恐怖を伴うのか
悠はその全てを推し量ることは出来ないが一部の共感を感じることは出来た
人と違う。その恐怖がどれだけの物か、隠し通すのかどれ程恐ろしいのか、悠はそれを二度経験していた
「私ね、やろうと思えば人の心が読めるの……。その人が今何を考えてるのか、言葉の裏で何考えてるのかとか全部分かっちゃう。嫌だよね、こんなの」
ドンドンと声のトーンも下がり、表情を俯き始めた絵梨を見て、悠は慌ててその手を取る
「嫌じゃないよ!!」
そして、そう力強く言い放った
「でも……」
「じゃあ私も絵梨にとびっきりの秘密教えるね」
「おいッ、悠?!」
「郁斗は黙ってて!!」
言い淀む絵梨に悠はじゃあと手をギュッと握ったまま、自身の秘密を暴露すると宣言する
慌てて止める郁斗だが、ピシャリと強く言われてグッと踏みとどまった
「私ね、ううん。俺、本当は女じゃないんだ」
「……?」
ジッと絵梨を見つめて悠が言った言葉に絵梨は首を傾げる。この子は何を言っているんだろう、そういう類の視線に悠はめげずに続けて言う
「俺の本名は高嶺 悠じゃない。俺の名前は高嶺 悠、間 郁斗の幼馴染で、絵梨の元からのクラスメイトの男なんだ」
こうして、悠は初めて家族と間家、一部の教師などの協力者を除く第三者に、自身の秘密を暴露した
「じゃあ、本当に悠が高嶺君なの……?」
「うん、ごめんねずっと黙ってて。……嫌だよね、こんなの」
事の詳細を聞いて、悠が悠だと理解した絵梨に、悠は全く同じ言葉をぶつける
二人の手は同じように震えていて、同じように秘密を明かした恐怖で不安げに瞳を揺らしていた
「嫌じゃない!!」
「でも私ずっと騙してたんだよ?男なのに女の子だって騙してたんだよ?」
「悠は悪くないじゃん!!悠は何も悪いことしてないよ!!その変な男の人が全部悪い!!」
「じゃあ絵梨もだね」
さっきまでの悠の様に、今度は絵梨が力強く言う。悠は何も悪いことはしていないと、その原因はあの男なのだから、今の姿で嫌なところなんて無いと
そう言い切ると、悠は涙ぐみながらにへらと笑って、同じだと言う
「絵梨も悪い事してない。だって生まれに関してはどうしようもないもん。そんなの絵梨は悪くない。だから、嫌じゃない」
そう言われて、絵梨は呆けた様に少しの間固まる。そして思い出したかのように握っている悠の手を強くぎゅうっと握るとボロボロとその相貌からは大粒の涙が零れ出す
見れば、同じように悠もボロボロと泣き出していて、気が付けば二人揃って大声で泣き出してしまうのだった
「あらら、なんだか話が思わぬ方向に……」
「……はぁ」
「んおぉぉ、なんだか背中がむずむずするのぉ。これが物語で読んだ『青春』と言うやつか……」
その一部始終を見ていた三人は、困ったように笑いながらも優しく笑みを浮かべたり、良い方向に決着して安堵のため息を吐いたり、自身が経験したことがない感情に触れてむず痒そうにしていたりと三者三様の反応を見せていた