非日常の足音
「ちょ、ちょっと待ってください。幾ら何でも話が飛躍し過ぎじゃないですか?急に異世界とか、秘密結社とか言われても全く信じられないと言うか……」
「悠ちゃんの魔法剣と照の魔法を見ても?」
慌ててキャパオーバーしそうな話の飛躍の仕方に郁斗が待ったを掛けて、信じられないと口にするが悠の常識を逸した剣技、照のあり得ない動きをした炎が幾度となくぶつかり合った戦いを目にした郁斗の主張はあっさり止まる
郁斗だって分かっているのだ。今この場で起こったことは全て真実で、今香が語ってることは自身が理解の及んでいない領域での話なのだと
絵梨にそれっぽいことを言っていた都合もあり、郁斗がそれ以上言える事はない
「じゃあ、まずは私が異世界人であるって証明をしようか」
ずっとぺたぺたと悠を触っていた香が一段落したと言わんばかりに離れる。その際、「治癒の術式を起動させたから少しずつ怪我とかは治るよ。ちょっと待っててね」と一言付け加えて、悠達に背中を見せつけるように立つ
「んな……ッ!!?」
「綺麗……」
そうして一同の視線を集めると、バサリと悠の背中から美しく黒光る一対の大きな翼が現れたのだ
顎が落ちんばかりに驚く郁斗と、真っ黒でありながら美しさと気品を感じる翼に悠は見とれる
「ふふっ、ありがとう。私の種族は『八咫烏』って言ってね?人化が出来るから人間みたいな姿だけど本当は物凄い大きな烏の妖怪なの」
「じゃあ、照さんも……?」
「儂は火を使っておったじゃろう?まぁ、そうじゃな炎や熱に関係する人外じゃよ。神社に祀られていたこともある超大物、と言うやつじゃな」
悪戯が成功したかのようにニコニコと笑う香と、どうだと言わんばかり誇らしげに胸を張る照
唖然とする郁斗とキラキラと目を輝かせる悠の反応の違いもまた性格の違いが良く出ていた
「まぁ、そういう事。私も最初に話を聞いた時は不審者かと思ったんだけどね?こんなの見せられたら信じるしかないし、何より私も心当たりがあるから」
「心当たり?」
「そこについてはまた私が説明するわ。絵梨ちゃん、良い?」
「ハイ、二人に説明するには私のこともしっかり話さないと」
今まで黙って見ていた絵梨も、こういう事で自分が彼女達が言ってる事を信じたんだと言い、同時に自分にもそれに通じる何かがあるのだと告げる
香はそれに続く言葉を引き継ぎ、絵梨に何やら確認を取ると絵梨も決心したように力強く頷く
「まず、私達が異世界から来た事、異世界は沢山あること、その沢山の世界で良からぬことをし続ける敵がいることは頭に入れておいてね」
そう言って悠と郁斗の顔色を窺い、それをとりあえず頭に入れてもらった事を確認する
とりあえず、細か過ぎる説明をされても素人である二人にはさっぱり分からないのだ
香たちが異世界から来た人外で、異世界自体は実はたくさんあって、その異世界で悪いことをしまくってる人達がいる
その事だけが分かれば悠たちに説明することは可能なのである
言うなれば理解するための最低限の基礎知識だ
「で、あなた達の住むこの世界なんだけど、スッゴイ砕いて言うと『魔法が滅んじゃった世界』ね。これは厳密に言うと少し違うのだけれど」
この辺は何とも説明しがたいから詳しく知りたければ少しずつ教えて行くわと、香はまず悠たちに必要な情報だけを伝えて行く
「で、絵梨ちゃんはその魔法が滅んじゃった世界でとっても珍しい。私達と同じ人外のご先祖様がいる家系なの」
「この世界にも妖怪とかが実在したんですか?!」
「みたいよ。ずっとずっと前に滅んでしまったみたいだけれど。でも、一部の人間との混血の人達が運よく生き延びて、この時代までその血が生き延びた」
それが、絵梨ちゃんよ。そう言って絵梨の肩に手を置き、宥めるようにポンポンと叩く
見れば、絵梨の手は微かに震えていた
「絵梨……」
「黙っててゴメン。私、その血が他の人達より強いらしくて……。その妖怪の力が使えるの……」
震える絵梨の目は明らかな脅えの色を含んでいて、いつもの彼女らしくもない弱弱しい姿だった
その姿と言葉を見聞きして悠はハッとする