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俺を返せ!!  作者: 伊崎詩音
プロローグ
1/206

どうしてこうなったのか

どうしてこうなった、通い慣れた教室の教壇の上にたったその人物はそう心の中で愚痴る


高嶺(タカミネ) (ハルカ)と言います。(ユウ)君とは従姉妹の関係でたまたま入れ替わるようにこちらに転入することになりました。これからよろしくお願いします」


そう自己紹介した彼女はぺこりと頭を下げ、クラスメイト達に挨拶を終えると担任の牧野先生から『実は以前から座っていた席』を指定され、その席に向かう


「よ、久しぶりどうだ調子は」


「とりあえずは大丈夫。お昼、悪いけど時間開けといてくれる?」


「お安い御用で」


席に着くと隣の席の幼稚園時代からの友人たる(ハザマ) 郁斗(イクト)から声を掛けられ、お昼休みを開けとくようにお願いすると彼は快く快諾しおしゃべりもそこそこにして視線を前に向ける


彼は悠の協力者で、悠の事情を全て把握している。昼休みの件も慣れなくなってしまった学校生活で悠が少しでも息抜きをしたいがためのお願いだ


「なんだよ郁斗、高嶺さんと知り合いなのかよ」


「そりゃ俺と(ユウ)の間柄だぜ?従姉妹の一人や二人、顔馴染みでも不思議じゃねぇだろ。まだこっちにはなれない上に(ユウ)が田舎の病院に療養しに行っちまったから暫くは(ユウ)の代わりに面倒見てやってくれっておばさんから頼まれてんだ」


「あー、成る程」


この郁斗の発言はぜーんぶ嘘だ。高嶺 (ユウ)は田舎の病院に療養なんていってないし、その母親の(サクラ)からも面倒を見るようになんて頼まれちゃいない


そもそも大前提が間違っているのだ、本来この席に座っている高嶺 (ユウ)という少年は別にこの町からもこの学校からもいなくなってはいない

むしろ現在進行形で『彼女』が座る席にその本人が座っている


(何がどうなって、女子にならねばならんのだ……)


そう、17歳の青春を謳歌していたはずの男子高校生、高嶺 (ユウ)

17歳、華の女子高生、高嶺 (ハルカ)となって此処、笠山高校に来ていた


































事は遡ること1ヶ月前

悠たちが通う笠山高校に全国ニュースにもなるような大事件が起きたことが全ての発端となる


「はぁっ!!!」


バガンッと破砕音にも似た金属音が廊下内に響く、それも一度や二度の話ではない

絶え間なくその金属音は不自然なほど人気のない廊下に響き渡っていた


「ふんっ!!」


「っ!!」


何の変哲もない一般的な高校の廊下で高嶺(タカミネ) (ユウ)は手に持っていた金属製の箒の柄で放たれたナイフの軌道を弾き返す。そのまま目の前にいる中肉中背の男に対して箒を振るうが男はふらりと体を反らして避けて見せる


10分程前からずっと続いている光景だ、悠が武器を振るい、目の前のよくわからない男が避け、ナイフを振るい、悠はそれを弾き返す


悠の家は古武術の道場を営んでおり、悠自身も師範代としてその道場で剣道を教えている程の実力者だ

生半可な者が相手になっても数分で片付けられる自身はあるし、実際それを可能とする実力も兼ね備えている


だがこの目の前の男はどうだろう?箒の柄とただのダガーナイフの圧倒的なリーチの差を以てしても攻めあぐねている

寧ろそのリーチ差があるからこそ、悠はなんとかその男と今のところ対等に渡り合えているという状況だ


まるで鍛え抜かれた軍人のような、いや軍人でも出来るかどうかわからないことを悠の目の前に立ちふさがる男はやってのけていた


そもそもに妙なことにも悠は気づき始めていた、まず警察が来ないこと

今この状況は大きな騒ぎになっている、今は全くと言っていいほど人気がないがつい五分前までは逃げ惑う生徒とそれを必死に誘導する教師で溢れていた


実際騒ぎになりだしたのは15分以上前になる、住宅街の中にある笠山高校は警察署ともそこまで離れていないし、交番も近所にある

駐在さんが来るだけならそれこそ5分とかからないだろうし、警察署からの警官もパトカーで来れば10分あれば十分だろう


それが全く来ない、明らかに異常である。外にも何かいると考えれば増援が期待できないこの状況は非常に不味いと言えるだろう



次に相手のダガーナイフだ。これが折れないどころか欠けもしない

こちらの箒も鉄製である、幾度となく打ち合い、正直言ってボロボロだ。それが向こうのダガーナイフは折れるどころか刃こぼれしてるのかすら怪しい


幾ら丈夫なナイフ言えど、金属製の物と何十回と打ち合っているのである。普通に考えれば刃は欠けるだろうし、最悪ナイフそのものが折れるであろう



そして最も不可解、いや理解が及ばないと言うべきだろうか

本来ならば真っ先に気づいてもおかしくないのだが悠も今さっき気付き、戦慄した


男の顔から容姿、服装まで『見えているのに分からない』のだ


視界には間違いなく映っている、それなのに情報として男の背格好くらいしかわからず、容姿、服装、声音、それら全てが靄がかかったように分からない


見えているのに分からない。全く以て理解不能なそれに悠は動揺を隠さず、ただし冷静に思考を働かせて相手の一挙一動に集中していた






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