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第5話 赤石の秘密

第5話 赤石の秘密


「ストーカーの男は私の知り合いって話をしましたよね」


彼女は警察にも言えない事情を語り始めた。


「木曽って男の話だよね……君と木曽は一体どんな関係だったの?」


赤石さんはまだ話す事に迷いがあるのか黙ってしまう。


「大丈夫だよ、俺は赤石さんの味方だから

 絶対にここで聞いた事は誰にも話さない

 約束するよ」


「ありがとうございます……

 私、大原さんの事信じてますからね

 約束ですよ!」


吹っ切れた様子で赤石さんは全てを話す覚悟を決めたようだ。


「高校の同級生なんです、同じクラスだったんですよ!」


ストーカーと赤石さんの関係は意外なものだった。


高校の同級生と言っても大学に行き、就職をして何年も経っている。


まさかとは思うが……


「もしかして高校からずっとストーカーされてたなんてことは……」


「いや、流石にそれはないですよ!

 私も木曽の事は仲間だと思っていましたから」


「仲間……?」


「そうです、仲間です……」


仲間、それは高校の同級生と言う繋がり以外で何か繋がりがあったのだろうか。


「私……実は……その……不良だったんです……」


「え!? 赤石さんが!?」


あんなしっかりしていて常識があって優しい女性が元不良……


にわかには信じられない話だった。


「私は母子家庭で、何時も母親と喧嘩していました

 お金もなく、お父さんもいないせいで、小さい頃はよく仲間はずれにされました

 不良だったのも母親への犯行のつもりでした」


「じゃあ木曽は……」


「昔その……つるんでいた不良仲間です……

 木曽雄平と、もう一人……飛騨恭介って言う男が居るんですが

 よく3人で夜遅くまで遊んでいました……」


赤石さんは元不良で、その仲間だった木曽が赤石さんをストーカーしている。


あまりにも唐突な新事実に困惑しているが、状況を整理するとこの様な結論になる。


しかし、それならば木曽は何故仲間だった赤石さんをストーカーしているのだろうか。


「仲間だった木曽がストーカーする様になったのか心当たりはある?」


「そうですね……私が成功したから……ですかね」


成功したから……? 赤石さんはそのまま話を続ける。


「私高校の3年で、お母さんを亡くしたんです……病気でした……

 その時ようやく私は自分がいかに馬鹿だったか思い知らされたんです……」


不良だった娘を抱えて女手一つで稼いでいたのだから相当な負担だったのだろう。


この時赤石さんはようやく母親の苦労や思いに気づいて更生したのだろう。


「私は死んだお母さんのためにもここから人生をやり直そうと思ったんです!

 そして私は母の保険金と奨学金を使って、1年浪人して大学に入り

 毎日長時間のバイトをしながら卒業をし、この会社に就職しました」


高校3年間受験勉強どころかほとんど勉強せずに1年でそれを取り返して、良い大学に入ったのだろう。


そして一生懸命に生活費と学費を稼ぎ死んだ母親のためにも成功を手に入れた。


「だけど……あの木曽って男は数か月前にふらっと私の前に現れたんです

 彼は私が良い会社に就職した事も知っていました

 ちなみに彼は今も無職で親のすねをかじって生きていました」


「その時彼はなんて言ってきたの……?」


「脅迫してきたんです……言う通りにしないと会社に過去をばらすって……

 木曽は無職、飛騨はフリーター

 私たち3人の中で世間からみてまともに成功したのは私くらいなので……」


成功した仲間から甘い汁を吸うために再び会いに来たのか。


「最初はお金を要求してきて、仕方なく渡すとどんどんエスカレートして

 私につきまとうようになって……とうとうこの間は肉体関係まで要求しようと……

 でも、当然の報いなのかもしれません、私は昔沢山の人に迷惑を掛けてきましたから……」


「許せない……」


俺はふとこう呟いていた。


「警察に相談するにも脅迫されているから言えないんだよね……

 だったら……君は上司の俺が守るよ!」


赤石さんは俺の発言に驚いた様な顔をしていた。


「げ、幻滅しないんですか?

 私……昔は不良で沢山の人に迷惑を……」


「それは昔の事だろ! 反省して前に進もうとしている人を責められないよ!

 それに君は俺のプロジェクトのチームでも沢山の人が助けられて感謝してるって言ってるんだ

 俺もそうだ、赤石さんには感謝している! 過去なんて関係なく俺は赤石さんを守る義務があるんだ!」


居てもたってもられなくて勢いでこう言ってしまったが、少し気恥ずかしい。


赤石さんも困惑しているのではないかと心配してしまう。


しかし、目の前の彼女は……


「やっぱり……思った通りの人ですね……

 正直幻滅されるのも覚悟していました

 でも、嬉しいです! この話を聞いても私の事を守るべき部下だって言ってくれるなんて……」


赤石さんは涙を流しながらこう言った。


自分の事を認められる事が本当に嬉しかったのだろう……


俺も赤石さんと一緒にいると認めてもらえる……だからこそ赤石さんを守ると申し出る事ができたのかもしれない。





こうして俺は赤石さんと秘密を共有する仲となり、ストーカーの木曽を何とかするために退社後に毎日カラオケで作戦を立てる事になった。


妻の紗枝には会社の都合で遅くなると言う事にしてある。


退社後に若い女性と二人きりでいるために妻に嘘をつく事にやましさはあった。


しかし、目的はけっしてやましい事ではなく彼女を助けるためである。


妻にこの事を話すわけにはいかないが、事情を知ることができれば納得してくれるはずだ。


そして、ストーカーを何とかしたら俺と赤石さんは元の……上司と部下の関係に……


なるはずだった……


この時俺はただの上司と部下の関係に少しだけ胸にモヤモヤを抱えていたのだ。


まさかこのモヤモヤがあの最悪な結末への片道切符だとは夢に思わなかった。



続く

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