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 硬いぞ! 高硬度分子結合外殻(ハイバイドシェル)

「よくもジーソをおおおおっ!」


 もう一人の悪漢が、トゲ付きの鉄球を振り回しながら迫ってきた。


「ライガ! 来たっ! 来たわよっ!?」

「くっ……!?」


 俺はそこでタイミングを見計らい、ハンドルを巧みに半回転させた。相手は武器を振り下ろしたがブオンと空を切った。


 ナイス俺!

 毎日の安全運転で鍛えたドライビングテクニックは伊達じゃないぜ。

 けれど何故かパトナの非難じみた声が響く。


「なんで避けちゃうのよ!?」


 パトナがぱしぱしと俺の肩をたたく。


「いてて! え!? 避けろって意味じゃないのかよ?」


「違うわよ! 避けたら接近戦用の『ドアパンチ』が届かないでしょっ!」


 パトナが両の拳をグーにして、しゅっ! と俺の顔の前の空間に突き出す。

 結構、いいパンチだ。


「で、でもアイツ武器もってるぞ!?」


 社用車の真横に並んだ悪漢を、俺は親指で指した。


 って真横だし!?


「――ぶっ殺してヤルシャァアアア!」

「ひぃ!?」


 血走った目に盛り上がった凶暴そうな筋肉。頭はモヒカン。それを包む革のジャケットには、見るだけでも痛々しいトゲトゲが無数に生えていた。

 まさに世紀末の極悪ライダーを、そのまま実写にしたような男。その手には、トゲの付いた鉄球つきの棍棒が握られている。


 メロンほどの大きさの鉄球からはトゲが何本も突き出ていて、いわゆる「モーニングスター」という鈍器だ。しかしよく見ると中央が鎖で連接されているので、「フレイル」に属すると言ったほうが正確であろうか?

 と、俺のRPG的な解説(ウンチク)はさておき、あんなもので頭を殴られたら、確実に視覚制限(モザイク)が入るだろう。


 悪漢はそれをブン回しながら、馬を全力で走らせて俺達の社用車に再び肉薄していた。


「やっ……! ヤバすぎだろコイツ!?」


 俺は真横に並んだ男の形相に思わずひるんだ。しかしパトナは意外にも冷静だった。


「へーきよ! こんなの――効かないもの!」


 次の瞬間、ガゴンッ! と振り下ろされたトゲ付きのフレイルが、真横のガラス窓に叩きつけられた。

「うわっ……!?」

 しかし、割れるどころか傷ひとつ付いていない。


 驚いた男はもう一撃、馬に乗ったまま金属球を振り下ろすが、ギィン! と硬い音がして車体が金属の塊を跳ね返した。


「す、すげぇ!? 硬いぞ、すっげぇ!?」

「えへへ! これはね、高硬度分子結合外殻(ハイバイドシェル)! 一定時間なら通常の武器や攻撃は効かないわ!」


 併走する馬に乗る悪漢が、信じられない……と自分の武器の折れたトゲを見つめながら肩をすくめた。


 俺と目が合って互いに「ヘヘッ」と笑う。


 ――これ、洋画あるあるのワンシーンだ!?


 一瞬和んだその直後、パトナが後部座席のドアを思い切り開けて、悪漢を吹き飛ばした。

 ドゴッ! と物凄い音がして、悪漢は馬から吹き飛んで草原に落下。首が変な方向に曲がったようにも見えたけれど、気にしないことにする。


「やったね!」

「お、おおぅ!」


 二人の悪漢を撃退したところで、俺達は停車した。表に出て車体を確認するが、パトナの言うとおりキズひとつ付いていない。


 しばらくすると、草原の方に逃げていた少女と馬が戻ってきた。

 明るい茶色の素直な髪が風に揺れて可愛らしい。


「あの……! 助けてくださってありがとう……ございます!」


 見慣れない車と俺の服装を見て、恐る恐るといったように少し距離を置いて声をかけてきた。


「いえいえ! よろしかったらご飯とか食べさせてもらえたら……!」

「お、おいっ!?」


 パトナが助手席から降りてきて少女に声をかけた。

 ツインテールのパトナを見て、少女はすこし安心したように微笑を浮かべた。

 

 けれどすぐに表情を悲しげに曇らせて、手綱を引き絞った。

 ブルル、と馬が足踏みする。


「お礼をしたいのですが……村は今、恐ろしい魔法使いに支配されてしまっているんです……。それで、わたし隣村まで助けを呼ぼうって……それで」


 手下の悪漢どもに追われていた、という訳か。


「聞いたライガ! 悪の魔法使いですって!?」

「なんてベタな展開だよ……」


 目をきらきらとさせるパトナを横目に、俺はヤレヤレとため息をついた。


【今日の冒険記録】

・所持金:3560円(日本円)

・所持品:使えないスマホ、中古PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ


・ペットボトルの水×2

・走行距離:15キロ

・ガソリン残量:53.5リットル(ほんの少し減ったw


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