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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 俺たちの明日へ

 俺はアクセルを踏み込んで、社用車を急発進させた。


 床は溶けて分解したチューブワームが白い液状に変化して、グネグネと蠢いている。タイヤが床面でビチュルルと空転するが、そこは四輪駆動の強みを生かし強引に突破、一気に出口に向けて車を走らせる。


「パトナ、ミィア、掴まってろよ……脱出する!」

「ライガ兄ィ! 壁からも白いのが出てきてるニィイ!?」

「なんだか、集まってない!?」


「ぬぬっ!?」

 ミィアとパトナが後ろを見て叫ぶ。バックミラー越しに視線を走らせると、四方八方の壁の隙間や小さな穴から、粘液質の白いドロドロが染み出してきていた。それは床に流れ落ちると徐々に巨大な白い塊に成長し始めている。


「嫌な予感がする……!」

 このパターンだと間違いなく白い液体が合体、最終形態(・・・・)に変化して襲ってくるはずだ。同じ手は屍肉を操るゴージャスマイリーンや、水の魔女ネルネップルで経験済みだ。


 ならば、先手必勝(・・・・)


「置き土産だ!」

「ライガ何を!?」

 俺は急ブレーキをかけると、運転席脇にある小さなレバーを引き、後部の荷物室(カーゴルーム)のロックを外した。


「ミィア! 真後ろのドアを開けてくれ! ガソくん、リンちゃんはガソリンを外にぶちまけろ!」

「わかったにゃ!」


 俺の言葉と意図を瞬時に理解してくれたミィアが、素早く後部座席から飛び降りた。

 そして後ろに回り、荷物室(カーゴルーム)のドアを外側から開いた。荷物室のドアは外側からしか開かないのだ。


『ガソ!』

『リン!』

 足の付いた二つの樽は立ち上がると、車から飛び降りてスタタと走る。そして、そのまま勢いをつけてお辞儀をするように頭を傾けると蓋がはずれ、壺の中身であるガソリンをバシャリと通路に撒き散らした。一気にムッとする独特の臭気で満たされる。


 貴重なガソリンを失うのは痛いが、また手に入れればいい。車のメーターを確認すると、まだ半分ほどガソリンが残っている。


「ミィア! 早く乗れ!」

「急いで!」

 停車した場所の周囲の壁からも白いドロドロが溢れ始めていた。それは川のようになりながら、ホールの奥で成長する巨大な白いブヨブヨに合流してゆく。

「早く戻るニィ!」

『ガソ!』

『リン!』

 ミィアはガソくんとリンちゃんが戻るのを待って、荷物室(カーゴルーム)のドアを閉めた。そしてミィアも慌てて後部座席へと乗り込む。ネコ耳と尻尾が立ち、かなり緊張しているのがわかった。


「怖かったニィイイ」

「よくやった! あとでナデナデしてやるから!」

「ライガ、どさくさに紛れてとんでもないこと言ってない!?」


「いい、いや!? 誤解だ! 皆乗ったな、いくぞっ!」


 白い塔の出口までは100メートルほど先だ。真正面にポッカリと開いた六角形の入り口からは明るい外の光が見えた。


 だが、その出口が徐々に小さくなり始めた。


「ライガ! 出口が閉じちゃう!?」

「くそっ!」


 加速しても、たとえブーストジャンプで加速してもこれでは間に合わない……! おまけに、後ろからは白い粘液の塊が、まるで雪崩のような勢いで迫ってきていた。


『――統合(マージ)。スベテノ存在、情報ヲ……! コノ星スベテノ情報ヲ……統合(マージ)! 次ノ星ヘ――転送デキル――エネルギーヲ……!』


「何、勝手なこと言ってやがる……!」


『――統合(マージ)。全ての生命ハ、1ヨリ生マレ……増殖シ、ヤガテ……星ヲ喰ライ尽クス。ダカラ……1ツニ統合(マージ)サレルノガ……宇宙ガ求メル真理…………!』


 ――情報生命体の思念が……流れ込んでくる!


 俺は歯を食いしばりハンドルを握り締めた。


「お前みたいに思念だけで宇宙をさまよって、何が……幸せだよ!」


 同時に、通路の壁という壁から、白い手のような触手が飛び出して、次々と行く手を遮った。体当たりをすれば引きちぎれるが、車が激しく揺さぶられる。


「私は、みんなと、まだ……旅を……したいんだからぁああっ!」


 パトナの叫びに呼応して、ワイパーカッターが飛び出して前方の触手をなぎ払う。俺はアクセルを全力で踏み込み、ハンドルを握りひたすら出口へと向かった。


「俺たちには……まだ、生きたい明日が、未来があるんだよ!」

「うん!」

 一瞬だけハンドルから左手を離し、ぎゅっとパトナの手を握り締める。


「ライガ兄ィ! 扉が閉まっちゃうニィイイ!」


『――オマエタチに明日ナド無イ。逃ガシハ……シナイ……!』


 扉がゴゥンゴゥンと徐々に閉まっていくのが見えた。出口までの距離は30メートル。だが、既に扉の幅は3メートルよりも狭くなっていた。

 

 車幅は1.6メートル……! 扉がの幅が2メートルを切ったらもう通れない!


 このままの速度と距離では脱出が出来ない!と、思ったその時。


「ヤポネーゼ! 来い!」

「ヘイユー! カムォオオオン!」

 ロシア兵数名とアメリカンポリスが現れたかと思うと、閉まる扉に体をぶつけるようにして押さえ始めた。

「「「どりゃぁああッ」」」

 男達の気合で、僅かに扉が閉まる速度が遅くなる。だが、扉はズズズ……と男達の体ごと閉めようと動き続ける。


「みんな!」


 扉まであと15メートル!


「我が剣が砕けようとも……!」

「祖先の霊よ! 大地の精霊よ! 力を……貸してくれ!」

 更に中世の騎士が自らの剣を抜き、扉の根元へ突き刺した。ネイティブ・アメリカンの浅黒い肌の戦士が、背中にくくりつけていた斧を反対側の扉の足元へと突き刺した。


 ギギリイィイイイ! と火花が散り、扉の閉まる速度が緩んだ。しかし既に扉の開口部は、2メートル以下にまで狭くなっている。


 扉まで10メートル!


『――統合(マージ)スル、オマエタチ、コノ星スベテノ……情報ヲ――』


 背後からは通路いっぱいの白い津波が追ってきている。それは深宇宙から来た情報を喰らう化け物の哀れな成れの果てだ。


「ライガ、無理だよ! 通れないよっ!」


 パトナが涙目で叫んだ、その時。


「――ジャスティス! 俺の……最後の……力……しかと受け取れ!」


「ヴァル・ヴァリー!?」


 満身創痍といった様子の大男が扉の向こうに現れた。血を流しながらも右手を高く掲げると、天から降り注ぐ赤い光を集め、こちらに向けて突き出す。

 ヴァル・ヴァリーの放った光は、一瞬で扉の内側まで到達して(こご)り、三角形の「踏み台」を形づくった。

 それは平均台のような形状の、およそ50センチ幅の赤い金属で作られたジャンプ台のようなものだ。こちらから乗り上げるように、傾斜している。


「ライガ! あれ!」


 パトナが指差す。俺はヴァル・ヴァルーの考えを理解する。


「あぁ……! 確かに受け取ったぜ! ヴァル・ヴァリーッ!」


 俺はアクセルペダルを床に踏みつけた。ヴァォオオオオオオン! とエンジン音が唸ると同時に、左の車輪が「踏み台」に乗り上げて車体が大きく傾いた。


「ミィア! 掴まれ!」

「ニァ!?」


 車体はそのまま右車輪だけでの片輪走行(・・・・)状態となった。斜めになったまま一気に走る。


「人生初の……片輪走行だぁああああッ!」


「ひゃぁあああ!?」

「みにゃぁああ!?」

 俺たちの社用車は、そのまま僅か1.5メートルの扉の隙間を通り抜けた。

 直後、騎士の剣とネイティブ・アメリカンの斧が砕け、扉が閉まった。ドゥン! と扉の向こう側に衝撃音が響いた。ぶつかったのは追いかけてきていた情報生命の成れの果ての粘液の塊だ。

 

 社用車は片輪走行のまま、ヴァル・バリーの横を通り過ぎて通常の走行へと復帰する。


「ジャスティス!」

 ニッ! と不敵にな笑みを湛える革ジャン男はリーゼントを整えながら親指を立てた。俺も思わず親指を立てて返事を返す。

 俺たちの社用車を追うように、ロシア兵やアメリカン・ポリス。そして騎士と戦士も走り始めた。


「ヘイ! 伏せろユー共!」


 ロシア兵が手元のリモコンスイッチを高く掲げて見せた。伏せろ! の叫びで伏せたのはロシア兵とアメリカンポリスだけだ。


「まずっ!?」

 俺は社用車をターンさせ、ヴァル・ヴァリーと、中世の騎士、そしてネイティヴ・アメリカンとの間で、盾になる位置で車を停めた。


「ミィア! パトナ! お前らも……伏せろっ!」


 次の瞬間。

 ドッバァアアアアアアアアン! と物凄い爆発とともに扉が内側から吹き飛び、白い塔のあちこちが衝撃で吹き飛んで砕け散った。


 ロシア兵たちが仕掛けたプラスチック爆弾が爆発したのだ。続いて真っ赤な炎が、まるで竜のブレスのように猛烈に噴出した。それは、先ほど俺たちが撒き散らしたガソリンによる火炎だった。


『――ッギャアアアアアアアアア――………………!』


 断末魔の絶叫が響き渡る。だがその声は炎の勢いに飲まれ徐々に、消滅していった。

 やがて塔のあちこちが誘爆しながら次々と崩れ始めた。


「やった!」

「イイィヤァアアハァアアアア! ざまぁ見ろエイリアン!」

「偉大なる祖国にダーッ!」

「イェス! エイリアン野郎を倒したぜ!」


 ロシア兵にアメリカンポリスがガッチリと握手を交わし、勝利に酔う。

 長い戦いについに終止符が打たれたのだと安堵し、俺はパトナとミィアと共に車外へと出た。


「ありがとう、ヴァル・ヴァリー! 助かったぜ」

「なんのジャスティス。手助けできなかったがジャスティス」

 相変わらず、何を言っているのか若干困るのだが、窮地を救ってくれたヴァル・ヴァリーの機転と勇気に感謝し、ガッチリと握手を交わす。


「やったんだね……!」

「もう、怖いのは終わりかニー?」

 パトナとミィアが俺に飛びついてきた。

「あぁ! 終わったよ!」


 燃え上がり、崩れてゆく塔を見上げながら、俺たちはぎゅっと互いの鼓動を感じあった。



『……………………愚カナ……』



「な、なにっ!?」


『……私ハ、宣言シヨウ……再ビ星を支配スルト……』


 炎の中から、空に向かって白い円盤のようなものが浮かび始めた。それは光を放ちながら徐々に天へと向かい、ゆっくりと上昇していく。


「生きてやがったのか……!」


「どうしよう! ライガ」

「く、くそっ!」


 ヘッドライトビームではあの上空の敵は狙えない。ブーストジャンプで飛び上がり射角をとればあるいは……。


「ヘィ! お約束すぎるぜ!?」

「シイイット!」

 ロシア兵やアメリカンポリスが残った銃を撃ちまくるが、効果はなさそうだ。


『…………私ハ必ズ戻ッテクル……! 愚カナ下等動物ドモ……ソノ時マデ、チッポケナ生ヲ、タノシムガ……イ』


 誰もが絶望に染まりかけた、その時。


「だぁれが、愚かな下等動物だってぇ?」

「冗談にも程がアルネ!」

「……不愉快」


 三つの声が響き渡った。全て女性、それも全て聞き覚えの有る声だった。

 そして、赤と青、更に金色(・・)()が地上から矢のように放たれると、空に浮かぶ円盤に直撃――大爆発を引き起こした。


『――バッ――――ガナァ!?』


 ドッ……バァアアアン! と円盤は大音響とともに空中で木っ端微塵に砕け散った。あたりに金属片や焼け焦げた何かがバラバラと降り注ぐ。


 と、建物の屋根の上に、三人の人影が見えた。


 炎の魔女ヘルナスティア、それに水の魔女ネルネップル。そして二人の肩につかまってヨロヨロと立っているのが、有翼の魔女フォルトゥーナだ。


「ヘルナスティア! ネルネップル! それに……フォルトゥーナ!?」

「天使さんが元に戻ったニィ!?」

「皆、無事なんだ!」


「やれやれ、最後に美味しいところを、頂いちゃったみたいだねぇ……」

「私一人でも十分だったアルけどね!?」

「万事、解決!」


「お前が言うんじゃないよ!?」

「そうアル!」

 ゴイン! と二人の魔女から同時に頭を殴られるフォルトゥーナ。ギャフンと悲鳴を上げながらドサリと倒れ込んだ。


「よかった! みんな!」

「うん!」


 こうして――。


 俺たちの長かった戦いは、遂に幕を下ろした。


<つづく>


 ※次回、エピローグで最終回!(イラスト予定!)


【今日の冒険記録】

・同行者:ナビゲータ少女パトナ、猫耳少女ミィア

    :足つきの壷×2(ガソくんとリンちゃん、空腹)

・所持金:3560円

    :65リューオン金貨


・所持品:PCパーツ(ウィルス感染HDD廃棄)

     毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

    :身の回り品、雑貨、毛布、パンと乾し肉と魚。

    :飲料水補給済み


・走行距離:700キロ

・ガソリン残量: 15リットル(予備、無し)

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