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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 ライガ、異世界で斯く戦えり

『(ザッ!)……収穫(・・)は、定められし世界の秩序でありルール。英雄と悪しき魔法使いという構図で人の世と心を掻き乱し、神話(システム)を構築することで膨大な情報エネルギーを生み出し続ける――。幾度繰り返しても苦しみは消える。疑問に思コトも不要。全テヲ忘レ、ループヲ繰リ返セ……(ザザッ)』


 地上に堕ちた有翼の魔女フォルゥトゥーナの口からは、先刻のパトナと同じような機械的で無機質な声が発せられていた。それは、白い巨塔に潜み、この世界に歪みを生み出し続ける、『管理者(アドミニストレータ)』と呼ばれる敵の声だ。

 フォルゥトゥーナの意識は混じり合い、本人の意思なのか、あるいは管理者(アドミニストレータ)の意志なのかも判然としなかった。


 有翼の魔女フォルゥトゥーナから15メートルほどの距離を置いて、二人の魔女が並び立ち対峙していた。二人の周囲には赤い光と青い光、二種類の粒子が集まり始め、炎と水の魔法が形成されてゆくのが見えた。


「薄気味の悪いこと言ってるんじゃないよ! 自分の意志で生きたいように生きなきゃ……死んでいるのと同じことさね」


 炎の魔女ヘルナスティアが、赤紫色のマントを振り払い火炎の魔法を極大化させ、頭上に赤々とした太陽のような火球を生み出した。


「あら、奇遇アルねヘルナスティア。私も同じこと考えていたアルよ」


 水の魔女ネルネップルも両腕を高く掲げると、青く澄んだ巨大な水の玉を作り始めた。それはやがて渦を巻き、水の龍を形づくった。


『オマエタチハ、エラー……要素。――抹消セヨ!』


 機械仕掛けのようなフォルゥトゥーナの頭上にも光がキィイイ! と収斂する。


「行こう!」

 俺はそこで社用車のアクセルを踏み込んだ。

 エンジンが唸りをあげるとタイヤが石畳をキュルルと鳴らし、車体を加速させる。


 バックミラーに映る3人の人影はあっという間に建物の影に隠れて見えなくなった。

 直後、僅かに遅れて赤い光と青い光、そして真っ白な光が幾重にも重なり輝くと、激しい爆発が起こった。その衝撃は凄まじく、いくつもの建物が一瞬で崩壊する。


「ヘルナスティアさん……!」

「だ、大丈夫かニー!?」


 パトナとミィアが後ろで崩れてゆく建物と、白煙を見て悲鳴を上げる。


 炎の魔女ヘルナスティア、そして仇敵であるはずの水の魔女ネルネップルが共闘し、『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』最後の一人、有翼の魔女フォルゥトゥーナと激突したのだ。

 その魔法同士の激突は、凄まじいの一言だった。


「今はヘルナスティアを信じるんだ! 必ず……ここに戻って来よう!」

「うん!」

「ニィ!」


 助手席のパトナと後部座席のミィアが頷く。荷台(カーゴ)では足の生えた壺、ガソ君とリンちゃんが心配そうに後部の窓から後ろを眺めていた。


 俺とパトナは車を走らせながら、真正面で視界を塞ぐ白い異様な塔に向き直った。


「あの白い塔の中に……世界を歪める元凶がいるんだよね!」

「あぁ……! ラスボス退治は、俺達の仕事らしいからな!」


「きっと、本当にそうなんだよ」

「パトナ……」


 助手席からパトナがそっと暖かい手を重ねてきた。血の通った人間の温もりを持つ小さな手を握り返す。


「女神様は……あ、空を飛んでいた偽者(・・)じゃなくて、ちゃんと別にいるんだと思う。本当にこの世界を救って欲しくって、だからライガと私をここに呼んだんだって、そう信じたいの」


 本当の女神様……か。居るとしても居ないにしても、この歪んだ世界を救うことが、俺達に課せられた使命なのかもしれない。


「そうだな、きっとそうだ!」

「うん!」


 パトナの言葉に俺は自信を持つ。少なくとも俺は『管理者(アドミニストレータ)』に操られていたパトナを救うことに成功し、「光の魔女」の蜃気楼のトリックも見破った。

 つまり、自分の直感(・・)に間違いはないのだ。

 今まで生きてきて経験したこと、見たこと、感じたこと。

 それは例えゲームだろうが、マンガだろうが、映画だろうが「なろう小説」だろうが……なんだっていい。今こうして、自分の血肉となっているのだ。


 ならば、世界すら操る恐るべき存在、深宇宙から来訪したという敵にどう立ち向かう?

 

 存在や記憶といった情報を喰らう生命体、『管理者(アドミニストレータ)』を倒すにはどうすればいい?


 ハンドルを操りながら路地を抜けて、走る。

 その間も俺は考え続けた。


「――まてよ? 情報……生命……そうだ!」


 肝心なことを忘れていた。自分はこの世界に来る前、システムエンジニアとしてパソコンの保守や運用を任されていたのだ。


 そこで得た知識や経験、そしてコンピュータシステムに発生したエラーや故障となる要因(・・)――。

 社用車は一瞬で市街地を抜けて、再び塔へと通じる広い道へと飛び出した。


 瞬間、真っ赤なロックオン警報がフロントガラスに浮かぶ。と、真正面に見える白い塔の先端がキラッと光った。


「ライガ危ない!」

「やッべぇ!?」


 俺は咄嗟にハンドルを右に切り、車を急速に右へ避けた。1秒前に走っていた場所が真っ白な光とともに大爆発し、地面がめくれ上がった。


「みゃぁああ!?」

「ライガ! 狙われてる!」


 車体が後ろから持ち上げられるような衝撃とともに、ビシギシと音を立てて揺さぶられたが、構わずに土煙を突っ切ってそのまま走り続ける。警告表示が出るがボディに傷が付いただけだ。


「視界が開けたからな! あと200メートル! あの塔の入り口まで戻って突っ込むんだ!」


 右に左にハンドルを切る度に、まるで映画の爆破シーンのように炎が吹き上がる。白い塔が俺たちを近づけまいと、狙い撃ちしているのだ。


 だけど――こんなの弾幕ゲーの要領じゃん!


 一瞬だけ相手にロックオンをさせて、ハンドルを切る。すると背後で僅かに遅れて地面が大爆発する。 ドバン! ドガン! と左右で次々に連続爆破が起こる。日本のバラエティ番組の爆破シーンなんていうチャチなものじゃない。本物のハリウッド映画さながらの大爆破シーンだ。


「ひぃえぇえ!?」

「当たったら一瞬で終わりだよ!?」


 と、進行方向の建物や木の後ろに、身を潜める人影が見えた。


「ヤポネーゼ! サラリィマン!?」

「ヒュゥウウ!? 無茶するぜカミカゼボゥイ!」

「勇者だ! 我らも続け! 狙いを逸らすんだ!」

「ウラァアア!」


 ――みんな!


「ライガ見て! みんなが来てくれた!」

「あぁ!」


 見ると岩陰や建物の影に隠れていたロシア兵や、アメリカンポリスが飛び出してきた。更に中世騎士風の英雄や、ネイティヴ・アメリカン風の英雄も、ここぞとばかりに馬で走り出した。


 馬にはパートナーの少女も同乗している。彼女たちも『管理者(アドミニストレータ)』の束縛から逃れることが出来たのだろう。


 眩い閃光が、地面を舐めドグォアッ! と猛烈な爆発の壁が作られる。


「パトナ、ブーストジャンプだ!」

「ほいさっ!」

 俺達の社用車は爆煙の壁を突破して着地、なおも走り続けた。


「狙いが、適当になったニー!?」

「これだけの数を、狙えないんだ!」


 また爆発が起こるが、まるで見当違いの方向だ。


 俺は興奮を覚えていた。ミィアが後部座席で地面が光る方向を教えてくれる。対人ビーム砲と思われる狙撃は、明らかに狙いをつけかねていた。


「ははっ! 凄い、まさにラストバトルだ」


「行け! 異界の鉄の……馬車よ!」

「ここは我らが引き受ける、ウラァ!」

 中世の騎士とネイティブ・アメリカンの戦士が叫ぶ。彼らは馬の疾走による連携で相手を翻弄している。一列で走ったかと思うと、左右に別れ狙撃のビームをやり過ごす。


「――すまない!」


 ロシア兵とアメリカンポリスはその隙を突いて塔の真下へとたどりついたようだ。ロシア兵たちは最後の武器である、強力なプラスチック爆弾で内側から破壊するつもりなのだ。


 俺たちの社用車は、ビームの狙撃を潜り抜け遂に塔の入り口へと突入することに成功した。もう車を狙う攻撃は無かった。

 侵入された事で、もはや無駄と判断したのだろう。俺はアクセルを踏み一気に奥のホールまで突っ込んで、急ブレーキをかけた。


 最初に招かれた水晶の壁のホール。ここが、最終決戦(・・・・)の場だ。


「でもライガ……どうやって倒すの? 内側からヘッドライトビーム!?」


 パトナが助手席から不安げに辺りを窺う。塔の一階にあたるこの場所は、白い触手による記憶吸い上げと消去を行う危険な場所だったはずだ。


「倒す()はさっき思いついた」


「ライガ?」


 俺は微笑むとシートベルトを外した。


 相手は宇宙人。それも存在という情報を餌にする『情報生命体』。となれば倒す方法はアレしかない。


 床から再び白いチューブワームのような触手が伸び始めた。


『(ザザッ……)受諾……記憶を収穫スル……。苦痛は無い、全テ、受ケ入レヨ、神話(システム)の一部トシテ、我々と、永久に存在し続ける……(ザザッ)』


 ホール全体に声が響き、社用車は白い触手の渦に取り囲まれた。ウネウネと蠢く白いミミズのようなチューブがフロントガラスや窓を這い登り始める。


「ライガ何をする気!?」

「ニィア!? どうする気ニー!?」


 悲鳴のようなパトナとミィアの声に、俺は静かに微笑を返した。


「……パトナ、ミィア。俺のこと、忘れずに……覚えていて欲しいんだ」


「な、ダメだよ! 出ちゃ! 何を言っているのライガ!」

「一体何をする気ニー!?」


「ミィア、その足元のガラクタを取ってくれ!」

「ミ、ミィ?」

「早く!」

「これかにぃ!?」


 後部座席のシートに落ちていたガラクタ。金属の四角い弁当箱(・・・)のようなものを、ミィアは後部座席から取って俺に手渡した。それはパソコンの記憶媒体、ハードディスクと呼ばれるものだ。

 俺はそれを受け取ると、車のドアを開けて外に出た。


 そして、パトナに運転する様に指で示す。車外に出た途端、シュルシュルと白いチューブが絡みつく。だが俺はそんなことは百も承知で外に出たのだ。


「ライガ!」


 この白い記憶吸収用チューブは、車の中にまでは簡単に入り込めない。僅かな間だけ時間を稼げるはずだ。

 ダメなら、パトナとミィアだけでも逃げられるはずだ。


「「ライガ!」」

 パトナとミィアの声が遠くなる。


『(ザザッ)記憶……確認。アクセス開始、抵抗は無意味……(ザザッ)』


「そうだな、思う存分……俺の記憶を吸えばいい」


 キュィイイイと甲高い音と共に、眩暈にも似た感覚に襲われる。

 全身に絡みつく白いチューブは、『万能情報インターフェース』だと塔の支配者が言っていた。

 かなり優秀なのだろう。あらゆる人種や言語、それ以外の情報記憶媒体であれば、たちどころに解析し情報を吸い上げて自分の一部にしてしまう。


 俺は、手に握り締めた壊れたハードディスクの冷たい感触を確かめた。金属の四角い箱に白いチューブが何本も突き刺さり、中の情報に喰らいついているのが分かった。


 キュィイイイイイイイイイイイイ! と甲高い高周波のような音に視界が狭まり意識が遠くなる。急速に記憶が吸い取られているのだ。

 辛かった前世のこと、この世界に来てからパトナと出会い旅をした記憶――。


『情報を……全テ、私ノ一部トスル――――(ザザッ)』


「そうだな。ついでにこの、廃品(・・)も引き取ってもらえると……助かるぜ?」


 このコンピュータウィルスに感染(・・)した、ハードディスクもな。


『――――ビッ!? ……記憶領域に……障害……!?』


 不意に、響いていた音が止む。そしてホールに響いていた機械的な声が、幾重にも重なり、異常が発生したことを告げていた。


『異常! 異常、領域破損……』

 白いチューブワームの動きが止まったかと思うと、手に持ったハードディスクドライブに刺さっていた部分からボコボコと膨らみ、次々と内側から破裂し始めた。


『インターフェイス切断、拒絶! ……領域破壊……停止セズ』

『危険、破損領域』

『異常! 異常! 侵食域拡大、既存領域にもエラーエエエエ、ララ――ぁああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 白いチューブワームが連鎖的に破裂し、崩壊してゆく。それはもはや止まる事を知らなかった。俺に絡みついてた白いチュームも全て膨らんで破裂し、ホール全体に赤い警告音と悲鳴のような絶叫が響き渡った。


「記憶は俺たちの宝物だ。簡単にやるもんか。ウィルスでも喰らってろ!」


 俺は車のドアを開け、転がるように運転席へ飛び乗った。途端にパトナトミィアが歓声をあげる。

「ライガ!」

「よかったニィイイ!」


「はぁ、はぁっ。あは、あはは! ざまぁみろだ!」

「ライガ、何したの!?」

「コンピュータ、ウィルスさ。あのハードディスクは客先で領域破壊系の極悪ウィスルに感染して、処分に困ってたものなんだ!」

「あ……、なるほど!」

「わからないけどニィ!?」


 警告音が乱れると壁がグニグニと歪み、隙間から白い液体が噴出しはじめた。


『記憶ゥァリリアァアア! エラーエアアアアアアアア!?』


「行こう、脱出だ!」


<つづく>


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