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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 光と影と、攻略の糸口

『さぁ、次は……異界の馬車、貴方たちの番よーん?』


 俺たちの社用車の上空で、真っ白い六枚の翼を広げたのは、女神の姿をした魔女――翼人族のフォルトゥーナだった。


 上空20メートルで太陽から少し外れた位置で静止し、巨大な鳥のような形をした影を、社用車の周囲に落としている。


「『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』最後の一人……フォルトゥーナ!」


『……あら? 呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)なんて昔に捨てた名よ? 今の私は偉大なる管理者(アドミニストレータ)から一身に寵愛と力を受け……いわば超越した存在、まさに女神そのものなの……!』


 華奢な自称女神(・・・・)の身体を包むのは、天女の羽衣のような透き通った白い薄絹だけだ。身体や金色の長い髪が光を透かし、黄金色に輝いて見える。だが、口の両端を持ち上げて女神らしからぬ歪んだ笑みを浮かべている。


「パトナ平気か?」

「うん、もう大丈夫! ごめんね心配かけて」


 パトナが強い意志を感じさせる瞳に俺を映して頷いた。もう、大丈夫。いつもの「パトナ」で間違いない。

 やはりパトナは普通の人間と変わらないのだ。温もりも、心も、全部俺たちと変わらない。


「戦おう……! 自由になるんだ。ヘルナスティアも協力してくれるな? ミィアも!」


 世界を支配する白い塔。その管理者たる『アドミニストレータ』の支配から抜け出したパトナも、瞬時に状況が飲み込めたらしい。

 真剣な面持ちになると助手席のシートベルトの締め具合を点検する。


「毒食らわば皿まで。最後まで付き合うさ」

「ミィは……何も出来ないけど、一緒だニー!」


「がんばろ! みんな!」

 パトナがピンク色のツナギの胸元のジッパーをギュッと上げて、そして微笑んだ。

 俺は掛かったままのエンジンを確かめるように、アクセルを踏んだ。

 ヴォォン! とエンジンが目覚め咆哮を響かせた。周囲に集まってきていた街の人々は既に、『女神』が上空に現れた時点で家の中に隠れてしまっている。


『じゃ、まずはその馬車から出てきてもらおうかな?』


 上空のフォルトゥーナは手にもった白金の杖の先端をこちらに差し向けた。途端に光が収斂し、まばゆい輝きを放つ。


「凄いエネルギー反応だよ! 逃げてライガ!」

 パトナがフロントガラスに映った真っ赤な警告表示を見て叫ぶ。


「バック……ダッシュ!」

 ギアをバックに入れアクセル全開。ドキュルルル! と白煙を石畳の地面に残し猛烈な勢いでバック。そしてハンドルを思い切りきった瞬間、目の前で大爆発が起こった。


「ひぇッ!?」

 光の矢が上空から俺たちを狙って放たれているのだ。目にも留まらぬ勢いで地面に着弾すると真っ白な光が炸裂、僅かに遅れて赤黒い爆炎が沸き起こった。

 それも休むまもなく次々と。

 ドガガガガ……! と連続して起こる爆発。

「くっ……そ!」

 俺は急ブレーキを踏み、タイヤを軋ませながら右にターン。車体をガリガリと擦りながらも建物の影になる路地に逃げ込んで、やり過ごすことが出来た。


 急制動で慣性が働き、後部座席の魔女ヘルナスティアと猫耳ミィアは悲鳴を上げながら取っ手などを掴み、身体を支えるのが精一杯だ。

 更に後ろの荷物室(カーゴ)では、生活用品や脚の生えた『壺』が二体、ガチャガチャとぶつかりながら悲鳴を上げた。

 足つきの壷、「ガソくん」と「リンちゃん」が踏ん張って、必死で荷物を押さえている。


「危ないニー!?」

 ダンボールに投げ入れてあったPCパーツのガラクタが、飛び散って後部座席にまで散らばったようだ。


「ミィア、怪我はないか!?」

「大丈夫だニー……いろんな物が飛んできたけど、何だこれニ?」


 ネコ耳を動かして、ケーブルのようなものを摘み上げる。ミィアにぶつかったのは、おそらくプリンターのケーブルだ。


 そういえば、この世界に来る前に、客先で集めた壊れたPCパーツを社用車に積んでいたのだ。他にも、古いマザーボードに電源ユニット、HDDハードディスクドライブ。それに保守期限の切れたUPS(停電対応バッテリーユニット)も積んである。

 だが、どれも廃棄されたガラクタで役に立つものは無さそうだ。


 気がつくと、辺りは土煙で視界が一気に悪くなっていた。

 俺たちを見失ったのか、あるいは街の住人を気遣ったのか、光の攻撃と爆発が収まった。


「た、助かった……?」


 フロントガラスに顔を近づけて上空を見上げると、女神らしい白い翼が一瞬見えたが、煙に隠れて見えなくなった。何故か、地上にまで降りて追撃してくる様子がない。


 ――地上に降りたくないのか? ホコリで汚れるからか?


「こんなとこすぐに見つかっちまうよ!」

「ライガ! 移動しなきゃ!」

 涙目のヘルナスティアと、慌て顔のパトナ。後ろと左側からバシバシと運転席のシートを叩かれて、ようやく俺は左手首を動かしてギアを『D』のドライブに入れる。


 踏みつけたブレーキペダルから右足を外し、アクセルに乗せ変えようとしたときに俺は妙な違和感を覚えた。


 ――なんだろう。何か引っ掛かる……。


 確かに翼人族フォルトゥーナの魔法攻撃は強力だ。しかし、防御力まで異常に高すぎやしないだろうか?

 魔法の結界を張っていたとしても、戦車の砲弾の直撃を受け止めきれるものだろうか?


 どんなに最強に思えても、映画やアニメなら絶対に攻略の糸口がある。この一見すると無敵に思える相手にだって何か突破口があるはずだ。


「なぁ……ヘルナスティア、ひとつ教えてくれ」

「何だいライガ?」

 後部座席から運転席のシートを掴み、身を乗り出してくる魔女。自称女神と同じ金色の髪を持つ美しい魔女の顔をバックミラーで確認する。


「お前達『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』は、それぞれ魔法使いで『属性』っていうか、得意な魔法を極めている感じだよな?」


「そうさ。アタイは炎の魔女。ネルネップルは水の魔女と呼ばれていたくらいだからね。それが今更どうしたってのさ?」


 初戦のホルテモット卿は雷撃、つまり『雷属性』。

 死肉操者(ネクロマスター)のゴージャス・マイリーンが屍肉を操る『屍肉属性』。

 異空間へ俺たちを引き込んだ虚宮門番(イリュジョナー・ゲートキーパ)、ピッキン・ロッキン・グーンは『時空属性』とでも分類できるだろう。


 なら自称女神の、羽根つきの魔女フォルトゥーナは?


「あの空飛ぶ魔女の属性は……何だか分かるか?」


「うーん、一言で言うなら『光属性』かねぇ? 光で目くらましをしたり、束ねて、あんなふうに破壊光線にしたり……。アタイらも互いの力を全部知っている訳じゃないさね」


「……光!」


 光、太陽、地上には降りてこない天使。

 煙とともに止む攻撃……。

 そして俺たちの上空に現れたときに、地上に落ちた黒い影。


 今までの経験(ただし小説やアニメ、ゲームでの経験だが)が、脳内で高速で結びつき、何かの形を作り出す。

 俺はハッとした。


「ライガ?」

「まさか……あいつ!」


 だが、爆発の土煙が晴れた途端、再び背後で爆発がおこった。


「真後ろだ!?」

「ライガ! 走って!」


 無我夢中でアクセルを踏んだ。再度爆発が起こる。今度は俺たちが停車していた位置だ。


『見つけた見つけた……! もう、ネズミみたいで、やぁん!』

 上空から再び声が響く。俺は無我夢中で車を走らせて、路地へと逃げ込む。だが、今度は視界が晴れているせいか逃げ切れない。


「今度は追いかけてくるニー!」

「あたしが迎撃するさね……!」


「まて、ヘルナスティア! お前の魔法は最後の切り札なんだ……だから、もう少し!」


「だけど! 反撃できないよ!?」


 パトナが悲鳴をあげた、その時。正面に見える左右の建物の屋根に、人影が現れた。


「あ、……あいつら生きてたのか!」

 それは、ロシア兵とアメリカンポリスだった。左側の建物の屋上には、戦車乗りのロシア兵数人。右側の屋根には保安官のような姿でショットガンを構えるポリスが立ち塞がる。


『ヘィ! ヤポネーゼサラリーマェエンン! いいぞ、こっちへ誘き寄せろ!』

『蜂の巣にしてやるぜ!』


 ロシア兵が屋上に設置していたのは、戦車の砲台の上に取り付けてあった重機関砲だ。黒光りする銃身には帯のような弾帯がつながっている。猛烈な勢いで20ミリの弾丸を撃ち出す事ができる強力な機関砲だ。


『ヘィ! ユゥ! フライング現行犯だ……!』

 ジャゴッ! とレミントン社製のショットガンを構えるアメリカンポリスメン。ギラリと法と正義を示す金色のワッペンが光る。


『あらっ? あらら?』


 女神が僅かに驚いてスピードを緩めた、次の瞬間。左右から猛烈な射撃音が響き渡った。

 ドドドドド! ガァン! ガァン! と重機関砲とそして、ショットガンの十字砲火を浴びせかける。

 真っ赤な火線が上空の女神に雨あられの様に襲い掛かる。


「ライガ! 皆がきてくれたよ!」

 パトナが喜ぶが、俺は既に「次の手」を考えていた。


 ヒャッハー! と叫んでいたロシア兵とアメリカンポリスの声が、徐々に焦りと恐怖へとかわってゆく。


『……効かないわねぇ? んー? 金属の……弾?』

 響いたのは、小ばかにしたような有翼人、フォルトゥーナの声だ。


『な、なにぃいい!?』

『ホワッツ!?』

 全ての弾丸が女神フォルトゥーナの身体を素通(・・)りしているのだ。


 重機関砲の弾丸の雨も、広範囲にバラまかれる散弾も。上空に浮かぶ女神にはまるで通じない。それは「神のご加護」でも受けているかのようだ。


『――無駄、無駄、無駄! 無駄なのよぉおん? わたしにはアドミニストレータの……加護が! 選ばれし女神を名乗るだけの資格が――』


 だが、俺は確信した。

 地上で揺らめく()の位置と、上空の有翼人フォルトゥーナを見て。


「パトナ! ワイパーカッターを射出! 俺が指示する方向に飛ばせるか!?」

 パトナの耳元で素早く目標位置を耳打ちする。


「え、うん! もちろん! でも、あの翼の魔女を狙うんじゃ!?」


 戸惑うパトナだったが、シュバッ! と二本のワイパーカッターが、上空へ垂直に撃ち出された。


「狙うのは……太陽の方向だっ!」


 物凄い速度で上昇し、二つの黒いカッターが太陽に吸い込まれた次の瞬間。


 ザシュッ! と何かを切断した音が響いた。

 そこは、何も無い空間。

 

 空と太陽があるだけの――虚空。


『――――ッッッキャァアアアアアアア!?』


 有翼人フォルトゥーナの絶叫が、響き渡った。

 そして、上空に浮かんでいた女神の姿が左右にブレたかと思うと、揺らぎながら消え去った。それと入れ替わるかのように、真っ白い翼と人の身体が落下して来るのが見えた。


「無敵の女神の正体は……蜃気楼! 光の……屈折ってやつだ!」


<つづく>


【今日の冒険記録】

・同行者:炎の魔女ヘルナスティア

    :猫耳少女ミィア

    :足つきの壷×2(ガソくんとリンちゃん)

・所持金:3560円

    :65リューオン金貨


・所持品:PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

    :身の回り品、雑貨、毛布、パンと乾し肉と魚。

    :飲料水補給済み


・走行距離:680キロ

・ガソリン残量: 25リットル(予備、約55リットル)


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