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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 ロシア戦車T-72 VS 翼天使フォルトゥーナ

『私、翼天使フォルトゥーナが、お相手いたしますわ♪』


 ドームの中央に舞い降りたのは、見間違えるはずも無いほどに天使(・・)だった。


 全身を光り輝くオーラのようなフィールドで包み、背中から六枚の真っ白な羽を生やしている。それは天上世界の住人「上位天使」そのものの姿をしている。


翼天使(・・・)フォルトゥーナ!? め、『女神様』じゃ……なかったのか!?」


 俺は唖然としながらも、かろうじて運転席で叫んでいた。


『この()に住まう、『管理者(アドミニストレータ)』は声を持たないの。だから私の()で女神様の代弁をしていたって…… ワ ケ ♪』


 最後の「ワケ」は人差し指を右と左に揺らし、最後にウィンクのおまけつきだ。


「女神の声……を代弁……だと?」

「ニィアアア!? ややこしいにニー!? 天使が女神様なんなのニー!?」


 光に包まれた天使が発した声は、確かに車載のラジオから流れていた『女神ラジオ』と同じものだった。甘く、優しく透き通ったその声に導かれて、俺はここまで旅をして来たといっても良い。

 それが全て嘘偽り、俺達の記憶と体験と言う「エサ」を得る為の罠だったなんて……信じたくなど無かった。

 もしそれが本当なら、パトナも「女神」と言う存在によって造られた、偽者という事になるからだ。


 社用車と女神との距離は30メートルは離れている。車中にいるこちらの声が聞こえるはずも無いが、視線が確かに交差する。


「パトナ……! 目を覚ましてくれ! 説明……してくれよ!」


 俺は助手席でシートの背もたれに力なく寄りかかっているパトナを揺り動かした。だが、僅かに眉が動くだけで、気を失ったまま目を開ける気配が無い。


『さぁ……! 収穫祭……フェスの時間ですよっ♪』


 翼天使(フォルトゥーナ)はとん……とつま先が地面に着く直前で、羽を広げて停止――。手に持った白金(プラチナ)色の杖をこちらに向けた。


「まずいっ!」


 機能を止めて電源が落ちたかのように暗くなったドーム空間に、最後まで残っているのは俺達の社用車と、ロシアから来たT-72戦車だけだ。


 フォルトゥーナは差し出した杖の先に光を集めると、爆発的に「光の矢」をこちらに向けて撃ち放った。シュキュガガガガガ……! とそれは機関砲のような連撃だ。

 白い矢は地面に突き刺さると同時に、ノコギリの刃のように地面を吹き飛ばしながら、蛇のような軌跡を描いて迫ってくる。


「やっばいぞ!?」

 俺は咄嗟にギアをバックに入れてアクセルを踏むが、間に合わない。と、次の瞬間。


 バゴァアアア! と真っ赤な火柱が車の目の前に立ち上った。そして光の矢を防ぐ壁となって車を守る。矢は炎の壁に激突すると、まばゆい光とともに大爆発を引き起こした。

 

「うっわぁあ!?」

「きゃぁあニー!?」


 ハッとして振り返ると、魔女ヘルナスティアが手のひらを真正面に向け、険しい顔で魔法を励起していた。


「ヘルナスティア、助かった……!」


「ライガ……! あいつは女神でもなければ天使でもない。『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』最後の一人さ!」


「最後の『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』!」


「代弁者? 天使? フン……! 聞いて呆れるね。アタイと同じくここで洗脳(・・)された……翼人族の魔法使いさ。あぁ……思い出してきたよ……!」


 ギリッ……とヘルナスティアが眼光を鋭くする。

 その顔はいつになく真剣だった。魔女ヘルナスティアは『呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)』でありながら、記憶と経験を回収するこの世界の「システム」を何度か繰り返し体験してきたのだろう。それは戦いと記憶消去の辛いループだったはずだ。

 そんな仕組まれ欺瞞された罠に、ヘルナスティアは反旗を翻そうとした。


「だから、俺達に協力してくれたのか……!」


『あらあら? ヘルナスティアじゃなーい? おひさしぶりー♪ ――(ザッ……)記憶改変が解けている。(ザッ)制御信号を受け付けない排除推奨――(ザザッ)』


 翼天使フォルトゥーナの声に時折、この塔の『管理者(アドミニストレータ)』が割り込みをかけているのか、話し口調が変わる。その瞬間だけ、すまし顔のフォルトゥーナの顔が、僅かだが苦痛に歪んだようにも思えた。


 ――あいつも操られているのか?


「フン! フォルトゥーナ。女神だか天使を気取るんじゃないよ! まずはそのすまし顔をお止め。ヘドが出るさね。アタイが相手になってやるよ……!」


「まて! 今出ちゃダメだ!」

「ライガ?」


 ガチャッと後部座席のドアを開けようとするヘルナスティアを、俺は叫んで呼び止めた。この車の防御力と機動性なら、光の矢の攻撃にも耐えられる。


 俺はヘルナスティアに視線で、チラリと横に並ぶ戦車の動きを悟らせた。


 ヴォン……! と戦車のエンジン音が響き排気の黒煙が噴出す。戦車の重装甲には、光の矢の攻撃などまったく効いている様子は無かった。


 となれば――。


『ふぅん? いいわ、再教育(・・・)……しちゃおっか?』


 ニコッと天使が笑みを浮かべる。そのまま美しい顔を歪ませると、唇の両端をゾッとするほどに持ち上げた。

 杖の先に、さっきよりも強烈な青白い光を集めた、次の瞬間。


 ドッゴォオオオオオオンン! と目の前が赤黒く染まり、強烈な衝撃波が襲い掛かった。それは音を超えた衝撃派の塊だった。


「――戦車砲……! 125ミリ滑空砲ッ!」


 それは、ロシアから来た戦車乗りたちが放ったT-72戦車の一撃だった。


 至近距離ならば衝撃波だけで人を殺せるという射撃の余波。発射される砲弾は2キロ先から70センチ厚換算の鉄板をもブチ抜く貫通力を有している。

 徹甲弾(てっこうだん)。装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は、超硬金属のタングステン系重合金の弾体が、超高速でターツのように相手の装甲を貫き、衝突のエネルギーで溶けた金属がメタルジェットに変化する。それは熱ビームさながらの、焦熱地獄のような効果を生み出す必殺の弾頭だ。

 

 ――あれで倒せなければ……!


 襲い掛かる黒煙と爆風に飲まれ、ギシギシと社用車が揺れた。ひっくり返るかと思うほどだが、なんとか四輪が地面を踏ん張っている。


「ニァアアア!?」

「ア、アタイの魔法よりも凄い爆発魔法だってのかい!?」


 もし生身で外に居ればその爆風だけで身体が引き千切れていただろう。それどころか目も耳も完全にダメになっていたはずだ。

 このチート社用車の特殊防御力があって、なんとか至近距離での戦車砲の射撃余波に耐えられたと言っていい。


 キュラ、キュラララとT-72戦車が後退しながら濛々と立ち込める黒煙から抜け出していた。

 砲塔だけはまだ、真正面を捉えている。


「や、やったか……!?」


『ざまぁみろエイリアン……天使のフリをしやがって!』

『ヘイ見たか、そこの日本人サラリーマン!』


 ガチャリと砲塔上部のハッチを開けて、戦車長が顔を出す。ヒゲ顔のロシア軍人が俺達に向かって親指を立てると、中から気勢が聞こえてきた。


 と、次の瞬間。

 

 社用車のフロントガラスに真っ赤な警告が表示された。

 

 ――超高エネルギー反応!


「まずい! 逃げろ!」


 俺は叫びながら、全力でアクセルを踏んだ。バギュルル! とタイヤ4輪全てが地面を蹴り、蛇行するように戦車から離れる。


 パッ……! と目の前が明るくなった。

 

 その光は先ほどの戦車砲とは比べ物にならないほどに眩い、フラッシュのような光だった。光の照射はゼロコンマ2秒も無かっただろうか。

 僅かの間も置かずT-72戦車の正面装甲が赤からオレンジ、そして黄色へと変化した。

『退避!』

 ロシア軍人達が上部ハッチから大慌てて逃げ出すのが見えた。少女を肩に担いで飛び降りると、そのまま大男達が全力で走り出す。

 やがて戦車の真正面の分厚い装甲が、黄色から白色になったかと思うと、内側からモチのように膨らみ、大音響とともに大爆発を起こした。

 上部砲塔が宙を舞い、ガン、ガッシャンと落下。そのまま鉄くずへと変わる。


『――異世界からきた鉄の馬車……たわいもないですこと!』


 オーホホホホ! 翼天使の高笑いが響いた。

 

 黒煙の向こうから、光のフィールドに包まれた翼天使フォルトゥーナが姿を見せた。


 無傷。


 まったくの無傷だ。


 戦車砲を30メートルの超至近距離から受けたにも拘らず、あの翼を持つ天使の様な魔法使いは無傷なのだ。


「な、なにぃいっ!?」


「あの鉄の馬車、やられちまったのかい!?」

「乗員たちは直前で逃げ出したみたいだけど……!」


 だが、あの戦車の正面装甲が、一番丈夫であるはずの装甲が一瞬で溶融したのだ。

 超熱量を放射したのは、高電子衝撃光線砲(ディスチャージ・ショックビーム)で間違いは無かった。この社用車と同じかそれ以上の武装を、相手も使えるということだ。


 俺は半ばパニックになりながらハンドルを操作し、バック走行からターン。ガキガコとギアを「D」に入れ、通常走行へと移行する。

 アクセルを吹かし、塔の周囲に広がる街の道を駆け抜けた。


「よし、兎に角ここから離れるん――――ぐはっ!?」


 突然、俺の首に冷たいものが絡みついた。ものすごい力で締め付けられる。

「ガ、ハッ……!?」


「パトナ姉ぇ何しているニィ!?」

「アンタ、何をしてるんさね!?」

 後部座席からミィアとヘルナスティアが悲痛な叫びを上げる。

 俺は飛びそうになる意識の中、なんとか視線だけで首を絞めている者の顔をを見た。そこには、俺の首に白い腕を伸ばすパトナがいた。


『――(ザッ……)逃がさない……収穫……だよ(ザッ……)――』

 虚ろな目で、口を僅かに動かす。その声は虚ろで機械的な、冷たいものだった。


「パ……パト……ナ!?」


<つづく>

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