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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 パトナを信じるということ

 パトナとの旅の想い出は、短いながらも深く俺の記憶に刻まれていた。


 この世界で出会い、そして旅をした数週間の記憶――。


 そこでパトナは幼い少女のように元気に笑い、時に健気な姉のように励ましてくれた。

 恐るべき相手と共に戦い、そして――心を通わせ唇も重ねた。

 俺は信じていた。

 心のどこかでこんな上手い話があるものかと疑っていたかもしれないが、少なくともパトナの指先から感じる温もりは本物だったし、その瞳にも嘘は無かった。


 それが全て嘘、俺達をここに導く為の罠だった、なんて思えない。

 

 青臭いとかバカだとか言われ様が俺は……今、これ以外語る言葉を知らない。


「それでも俺は――パトナを信じる!」


 助手席で動かないパトナの横顔に視線を向ける。

 車内では魔女ヘルナスティアが魔法励起の準備に入り、その横ではミィアが隙間から侵入してくるニュルニュルした白い触手を、必死で引きちぎっている。


 ――『フェス! この素晴らしい収穫の時、喜びに満ちたこの時を過ぎれば、あなた方はまた新たな旅へと向かうでしょう。そしてまた、新しい神話の(データベース)として、その記憶を供物として捧げてくださいね』


「何が供物だ、ラスボスかお前は!」


 ――『個体識別名、ライガ。あなたが素直に協力すれば、特別な精神的接続欲求(・・・・・・・)を感じている端末(・・)対人類種端末(パトナ)と共に生きても良いのですよ?』


 穏やかな女神フォルトゥーナの囁きが脳内に響く。だがそれは女神の名を騙った、得体の知れない『何か』が発している偽りの声なのだ。


「黙れ……! こんのぉおおおお!」


 俺は全身に力を込めた。ビキビキと半透明のミミズのようなチューブが引きちぎれる。だがまた新しいチューブが身体に絡みつくだけだ。


 ――『抵抗は無意味です。――私――の中に全て帰依し、一体となりなさい。記憶と体験を全て差し出してください』


 急に機械的な音声に切り替わり、事務的な言葉を並べ立てる。

 眼前に浮かんで見える半透明の窓には、記憶吸い上げ39%との表示が浮かんでいる。これが100%になれば次は記憶消去されてしまう。


「女神……いや、お前は一体……誰なんだ!?」


 俺は渾身の力をこめて問いかけ、叫んだ。


 宇宙船のような塔に潜む存在の正体。俺の社用車を魔改造(・・・)したのは魔術でも女神様の慈悲でもなんでもない。

 オーバーテクノロジー、超科学によるものだ。

 高硬度分子結合外殻(ハイバイドシェル)の装甲も、単分子(モノフィラメント)ワイパーも、高電子衝撃光線砲(ディスチャージ・ショックビーム)も、つまりは超科学の産物だ。


 ――『(ザッ……)私――は船の番人、制御、管理者、御霊、魂――。5億6千△◇●時間に及ぶ旅。永遠に思えた旅の果てにたどり着いたこの恒星系の惑星で――私――は存続と再生の使命をもって活動を開始しました。この星の原始的な知的生命体が有する情報という資源(・・)を管理し、統べるための神話(システム)の一部として、あなた方の体験の記憶が必要なのです』


 言葉が途切れ途切れになる。おそらく、俺に分かる言語の変換にエラーが生じているかのような、そんな感じがする。


「知るか! 勝手なこと……しやがって! 返せ! パトナを……かえせ!」


 ――『平静に。読み取りにエラーが生じます。私――女神フォルトゥーナ――は、安全を保障します。……安全を保障します』


 エラー?

 やっぱりこいつは機械(マシーン)なのだ。

 星の旅とも言っていた。ならば正体はこの船を管理しているコンピュータのような存在。生体なのか量子なのかそんなことはどうでもいい。星間移動に耐えうるほどに永続的に存在できるコンピュータのような知性、あるいはその概念を超えた情報生命。きっとこいつの正体は、そんな存在だ。


「――なら、戦いようはあるよな……! ジャスティス男!」


 その時。

 

 ズゴ、ズゴゴゴゴゴゴゴ! と地鳴りが鳴り響いた。白い空間にノイズが走り、チューブの締め付けが弱まる。


『ジャスティス……! 俺の……記憶を返してもらうぞ!』


 ズギャルルルル! と白い壁が粉砕され、金属の部品が飛び散る。火花と破片の向こうから現れたのは、直径1メートルはあろうかという巨大なドリルの先端だった。そのまま車体を真横に回転させ、真横に切り払う様にドリルで壁を突き崩す。

 キュラキュラとキャタピラーの音を響かせながら進みだしたドリルマシン。それは大仏の頭のように小さな半円球状の突起を多数持つ、回転ドリル重機だった。


「ト……トンネル掘削機――ロードヘッダ!」


「――ジャスティス! 酷い有様だな、我がライバルよ」


 ガチャッと重機の操縦席から顔を見せたのは、赤いジャケットのリーゼント男、ヴァル・ヴァリーだった。

 

 サングラスを外すとニッと、白い歯を見せて笑う。肩では少しサイズの大きくなったスライムのような水玉が跳ねている。

 

「ヴァル・ヴァリー! ネルネップル!」


「ジャスティス! オレはこの街に潜入し機会を窺っていた。かつて、オレは……ここで一度記憶を奪われている! お前と出会って戦い、ようやく思い出した。この場所も、ここで行われていた……おぞましい悪魔の所業もな!」

「ヴァル・ヴァリー……も、異世界転生者……なのか!」

「ジャスティスの魂が俺を呼ぶ」

 答えにはなっていないが、なんとなくわかった。

 ギュルル! と先端のドリルを回転させると、ギュガガと更に壁を破壊する。白かった空間は明滅しバリバリと青白い放電のような光に包まれた。


 だが、お陰で俺や俺以外の勇者達を捕まえていた半透明チューブの束縛が解けた。


「よし、助かった!」

 途端にヴォーヴォーヴォー! と警報音が鳴り響いた。


 ――『外郭損傷! 侵入者……! 船体に異常発生! 排除、侵入者を排除』


「みんな! まずはここを出よう!」

 俺は他の面々に向かって叫んだ。


「かたじけない! 異界の戦士!」

「ウラー! 我がアパッチの誇り、怒り、見せてやるアルね!」


 蛮族の戦士がパートナーの動かなくなった少女を馬に乗せ、アパッチ族の戦士も同じように助け起こす。

 戦車乗りも、倒れていた銀髪の少女を車内に運び込んでいる。


「――だよな! 信じてやらなくてどうする!」


「ジャスティス?」

「なんでもない、こっちのことさ」


 俺は彼らと同じようにパトナを信じる。


 ――ライガ!


 例え騙されていたとしても、あの笑顔を信じたいと思った。


 俺はチューブを引きちぎると、そのまま社用車のドアを開けて乗り込んだ。


「ライガ! 無事だったんだね!?」

「ライガ兄ぃ! でもパトナ姉ぇがまだ……」

 パトナはまだ気を失っているが、息はある。

 魔女ヘルナスティアが憔悴したような顔で俺の肩をつかんだ。


「アタイ、思い出しちまったよ……ここで、アタイ。あいつらに記憶を奪われたよ……。そして敵に仕立て上げられちまったんだ」


「ヘルナスティア?」

「あいつらはこの世界に、()みを作り出している。互いに争わせ……そこでより多くの何かを得ようとしてやがるのさ」


「世界の……歪み」


 そうか、そういうことか。

  ゲームのように俺達を野に放ち、旅をさせ、敵と争わせ、その冒険譚、つまり体験と記憶を吸い上げようとしている。

 まるで育てた家畜や作物を収穫するかのように。

 それが、連中のエサなのだ。情報と体験、存在する力のエネルギーともいった。兎に角そういうものが必要なのだろう。

 それは幼女君主(ロリロード)・ヘブラカーンが魂と肉体を食おうとしていたのにも似ている。


「大丈夫だヘルナスティア! まずはここを出よう!」

「ライガ……」


 俺はアクセルを吹かし車を動かした。見るとロシアのT-72戦車長がエンジンをかけながら、ハッチの中に向かって叫んでいる。


『砲撃長! 残弾は!?』

『――先日のドラゴン戦で使っちまったが、徹甲弾(てっこうだん)……装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)なら3発ありやすぜ!』

『上等だ! このクソエイリアンのドテッ腹にぶちかましてやれ!」』

『アイサー!』


 ロシア語だが、車の翻訳機能で日本語として聞こえてくる。この車に与えられた機能自体は、この宇宙船とは独立しているようだ。


 だったら、パトナも……!

 一縷(いちる)の希望が見えてくる。


 ギュラギュラとロシア製戦車T-72が砲塔を回転させながら、ヴァル・ヴァリーの開けた突入口目指して後退し、そこで急停車する。驚くほど俊敏な戦車の機動性と迫力に、俺は血が沸き立ってくるのを感じていた。


 現代地球文明が生み出した究極の戦闘陸戦兵器、それが戦車だ。


 鉄の塊である戦車の総重量は46トンを超える。車体に施された装甲は、鉄板に換算して厚さ70センチにも相当すると言う。その圧倒的な防御力の前では、このファンタジー世界に存在する魔法や武器など「涼風」程度にしか感じないだろう。


 そして現代文明が誇る最強の武器、それがこの戦車砲だ。

 

 特撮映画やアニメでは、相手に通用しないことが多いが、現実世界で発射シーンを一度でも見れば、その認識が間違いだと気づくだろう。

 有効射程は2キロメートル、あの戦車に搭載されている125ミリの装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)ならば、相手の装甲が70センチの鉄板で出来ていてもブチ抜ける威力がある。その破壊力と貫通力の前ではどんな敵も原型を留めてはいられない。

 ドラゴンどころか、怪獣だって倒せる威力を秘める。それが戦車だ。


「いけるぞ、これがあれば……どんな相手だって!」


 思わず俺は叫んだ。


『ヘィ! ヤポネ! 民間人は下がれ! エイリアン退治は俺達にまかせな!』

『ドラゴン退治に比べりゃ、ヒョロイ宇宙人なんざ!』

『アパッチに騎士! あんたらもだ! そこの穴から外に出ろ! 早く!』

 戦車の砲塔の上からロシア軍人が腕を振る。彼らもこの世界で苦労しながら戦ってきたのだろう。


「あ、あぁ!」

 甲冑騎士や、アメ車の警官、そしてアパッチ族は穴から外へと退避して行く。

 俺も社用車をバックギアに入れて、走り出した。ヴァル・ヴァリーのトンネル掘削車は既にバックし、大きく破壊された壁の向こうに下がっていた。

 

 外の明かりがまぶしく見える。

 と、その時。


 ――『ヘキサマゴナ・ナンバー、シックス。開放、排除行為を開始せよ。生死は問わない、繰り返す、戦闘行為を――』


 ヴァル・ヴァリーのドリルで破壊され、明滅する半円形のドームの向こうに声が響きわたるが、そこで光が炸裂した。

 真っ白なまばゆい光に目がくらむ。


「うっ!?」


 その向こうに天使(・・)が舞い降りるのが見えた。

 現れたのは、背中に6枚の純白の羽を生やした女性だった。


 半裸の身体に巻きつけられているのは白い薄絹。羽衣のような布を揺らしながら着地すると、金色の長い髪をフワリと振り払う。

 精緻な美しい顔に、真っ青な瞳。細く白い腕と露出した脚、そしてゆさりと揺れる胸。


 手にもったプラチナ色の杖の先端には、水晶と白い羽を象った飾りがついている。


 それは、その姿はまるで――


『私、翼天使フォルトゥーナが、お相手いたしますわ♪』


 光に包まれたまま、柔らかな笑みを浮かべ片目をつぶる、天使。


「フォルトゥーナ!?」


<つづく>


 次回、最終決戦


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