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社用車チートは異世界で最強でした! ~リーマン異世界横断1000キロの旅~  作者: たまり
六章: 聖都・ヒースブリューンヘイムの試練
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 到達、聖都・ヒースブリューンヘイム

 ◇

 

 ――フェス! 女神(わたし)の祭典! 一番の『絆』を見せてくれた子には、ご褒美として……願い事を一つだけ叶えてあげちゃうゾ!


 運命の車輪(ホイール)を回す女神、フォルトゥーナは確かに言った。

 俺たちは突然流れてきた『女神ラジオ』の放送内容に驚きつつも、社用車に飛び乗ると一路、聖都・ヒースブリューンヘイムへと車を走らせた。


「向かうしか、ないよね?」


 助手席でパトナが不安そうな声で、視線を落としながら言う。


「女神様が言っていたんだ……信じる以外ないさ」

「うん」


 パトナは不安なのだろう。絆だの友情だの、愛情や仲間……。女神様が示せと言ったものはどれも形がなく、不確実なものばかりだ。

 もしかして女神様が一目見れば分かるのかもしれないけれど、俺達にそれが在るかと言われると……少し不安だ。


 俺は確かにパトナの事が好きだ。だが、『絆』を示せなんて言われると、途端にわからなくなる。

 友情や仲間……は、なんとなく分かる。助け合い寄り添う者たち。後ろの座席に座っている魔女や猫耳の女の子が、きっとそうなのだろう。


「……なんとか、なるさ」


 俺はアクセルに乗せた足先に、軽く力を込めた。


 ◇


 小一時間ほど草原を走ると、やがて見えてきたのは「台地」のような地形だった。周囲は森のようになっているが、そこに向かって道は伸びている。


 車のフロントガラスに映し出された地図には、『台地のへそ』と地形の名前が記されていて、円形の地形のようだ。そしてその中心部に、俺達が目指す聖なる都があるらしい。


「道はこっちみたいね」

「わかった」


 森の中を進んでゆくと、石英混じりの砂を踏み固めて造られた白い道路は、進むほどに整備され、徐々に広く通り易くなってゆく。意外にも徐々にすれ違う馬車や牛車の数も増え、この先に大きな街があることを窺わせる。いつぞやの都市ヒューマンガースを思い出す。


 けれど危険な兆候は感じられない。


 俺達の「社用車」を珍しそうに眺める農民も居るが、何故か「ああいうのもあるんだな」と言うような目線なのが少し気になった。


 いくつかの川に架けられた石の橋を渡り、進むこと更に約1時間。


 さほど高くは無い山を一つ越えると、途端に視界が開けた。


「おぉ……!」


 どうやら、遠くから見えていた台地の(ヘリ)に着いたらしかった。台地の中はすり鉢状の巨大な盆地のようになっている。


 円形のクレーターのような地形で、直径は3キロメートルほどあるだろうか。対岸のふちが霞んで連山のように連なっているのが見渡せる。

 盆地の内側は、外側の森とは違い草原のような開けた場所だった。目を凝らすと小さな村や集落がいくつも見えて、中心には驚くほど大きな塔が見えた。


 先日訪れた大都市、ヒューマンガースは大きな城塞都市といった雰囲気だったが、ここ聖都・ヒースブリューンヘイムはまるで違う。


 一言で言えば、巨大なクレーター盆地の中に、小さな『庄園(しょうえん)』が無数に集まって、一つの巨大な都市を形作っているようだ。


 四方に流れる豊かな水を湛えた川や、ため池が無数に見える。それが牛の背中のようなクレーターの反対側の麓まで続いている。


 その中に点在するのは、パッチワークのように貼りついた色の違う四角いタイル。それぞれが麦や野菜を育てる畑だろう。その隙間を縫うように小さな村が見えた。それぞれの個数は数十程度。そんな集落が無数に見えるのだ。


 それらの庄園のような集落を蜘蛛の巣状に結ぶ道の中心には、まるでガラス細工のような繊細な街が見えた。


 街自体の大きさは、ヒューマンガースよりもずっと小さい。だが、その中央には直径100メートル、高さ300メートルはあろうかという、バケツをひっくり返したような形状の、直線的で継ぎ目の無い、驚くほどに巨大な()がそびえ立っていた。


「なんだ……あれは」

「凄い! ガラスの塔! ここが聖都・ヒースブリューンヘイム!」


 畑と小さな家々の点在する無数の集落と、それらを結ぶ道。中央には巨大な青白いガラスの「塔」。それがこの国の中心都市の姿だった。

 

 真っ白な鳥が群れを成して、傾き始めた午後の日差しを浴びて飛んでいる。

 塔の前を横切るとまるで、小麦粉のような小ささで、いかに塔が大きいかわかる。


「大きな塔だ二ー!?」

「この世界にこんな建造物があるなんて!」


 魔法か何かで磨いたのか、あるいは科学の産物なのかはわからない。だが明らかに異質なそれは、見方によっては、地面に突き刺さっているようにも見えた。


 塔の周辺には街が見えて、それは今まで見た中では最も洗練された、まるで未来都市(・・・・)のような雰囲気だった。


「おかしいね。……アタイもこの街に来た事があるはずなんだけどねぇ」


 何故かヘルナスティアが妙な事を言う。


「ヘルナスティアは、その……来た事があるはずじゃないのか?」

「あるんだけどねぇ。……はて? いつだったかね?」


 とぼけた様に魔女が答えるが、何か隠しているのだろうか? 元々呪怨六星衆(ヘキサマヴナ)の一人なのだから、この国の中心都市とも言えるこの街に、来た事を良く覚えていないというのも変な話だ。


「……道案内を頼めないなら、パトナのナビで進もう」

「うん!」


 俺たちは社用車を進め、庄園の中の道を進む。

 

 やがて、俺は驚くべきものを目にする。


「車だ!」

「えっ!?」


 見れば古いアメリカのクラシックカーのような車が走り、塔のほうへと向かって行くのが見えた。赤い60年代の車のような、ロングノーズの大排気量の車。ボブロロロロ……と排気ガスを撒き散らしながら進んでゆく。

 

 乗っているのは昔の警察官のような服装をした男で、アメリカ人。背中にはショットガンを背負っているのが見えた。


「あのジャスティス男も使えたんだから、今更珍しくは無いさね」

「そ、そうだな……」


 つまり、いろんな時代から集められていたってのか?


『――イエーイ!』

 向こうも俺達に気がついたようだが、陽気に軽く手を振って、進んでゆく。


 俺とパトナも呆気に取られながらも手を振り返す。


「ライガ! みんな女神様に呼ばれた私達と同じ……世界を救う勇者なんだよ!」

「そ……そうだよな!?」


 と、曲がり角を曲がると、前方に黒い塊が進んでいるのが見えた。

 

 トラック……よりは小さいが、車よりは大きい。重機かと思って減速しゆっくりと進むと、キュラキュラキュラ……とキャタピラが見えた。平たい車体の上には、ペッタンコな平べったい回転式の回転式の砲塔がある。その先には長大な大砲(・・)


「――って、戦車!? 戦車じゃないか! しかも……これ、ロシアのT72!」

「ライガ詳しいね!?」

「大戦略で見た!」


「せんしゃ、何だニー?」

「これも、鉄で出来た異界の乗り物ってわけかい? 随分と変な格好の乗り物だねぇ……」

 ヘルナスティアとミィアも、珍しがるがもうさほど驚く様子も無い。


 戦車長らしい乗員が、砲塔の上から陽気に手を振る。


『マットリョーシカ! ヤーポン!? ユュエー!』


「え、えぇ!?」


<つづく>


【今日の冒険記録】

・同行者:炎の魔女ヘルナスティア

    :猫耳少女ミィア

    :足つきの壷×2(ガソくんとリンちゃん)

・所持金:3560円

    :65リューオン金貨


・所持品:PCパーツ、毛布、工具一式、ライター2個、トイレットペーパ、テッシュ

    :身の回り品、雑貨、毛布、パンと乾し肉と魚。

    :飲料水補給済み


・走行距離:670キロ

・ガソリン残量: 27リットル(予備、約55リットル)


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